第百二十九話 いざ王都へ
そこからの数日間はニーアたちは手分けして帝国内に散らばる捕虜収容所の解放をしていった。比較的近い場所にあった東の2か所はショーンの家族が見つからず、空振りに終わった(もちろん捕えられていた人たちは開放した)。
さらに1週間で西の拠点を6か所開放したが、結果は同じだった。
次第に捜索メンバーの皆の顔に、疲労と焦りが浮かび始めていた。次の目的地に向け途中まで王国騎士団と一緒に移動をしているキャンプ時だった。重い空気の中、食事をとっていたがタカキがおもむろに言った。
「うーん、全然見つからないな。実は本当にセルディス王国が人質に取っていたりして。。ユータから何か報告が来ていないかな。」
それを聞いたラースが顔を上げてタカキを睨んだ。
「タカキさん、あなたたちの功績に対しては敬意を持って接していますが、今の発言は看過できません。」
他の二人も同様にタカキを睨んでいた。
「いやいや、冗談だよ、冗談。あまりにも見つからないからつい、な。すまなかった。」
タカキは素直に謝った。セルディス王国の兵士たちもその謝罪を受け入れた。本気でいっているのではないと分かっていたからだろうとシンイチは思った。すぐにおどけたりするタカキの悪い癖が出たなと思っていた。
「それにしても見つからないな。あと施設はいくつ残っている?」
タカキがニーアに聞いた。
「地図に載っているのはあと五つね。」
「そのどこかにいるといいけど、、もしかしてまだ地図に載っていない収監所が有ったりして。」
シンイチが不安そうに言うと、ニーアは冷静にうなずいた。
「そうね、その可能性はゼロじゃないと思うわ。アンナとの約束もあるから早く見つけたいのはやまやまだけど。。」
冷静ではあるが焦っていないわけではなそうだ。シンイチも少しほっとした。
「他のチームの誰かが発見したという連絡もまだないし。まあ、そんなに世の中は甘くないわよね。」
アンナたちと別れたあと、王国騎士団を複数チームに分け捜索を続けているが、ショーンの家族を発見できたときに使う手はずとなっている信号弾はまだ発射されていない。帝国兵に見つかるのであまり良い連絡手段とは言えないのだが仕方がない。スマホがあれば楽なんだがな、電波の代わりに魔力を飛ばす感じにすれば実は作れるのでは?とタカキは考え始めてしまい昔の職場の血が騒ぐのであった。
食事も終え、休むことになった今回は簡単なテントで見張りを交代で立てて寝袋で寝る形となる。マジックアイテムのコテージは5人までなので現在の六人全員が入ることができない。自分たちだけコテージにというのも申し訳ない気がしたので人数分あるテントにしようということで、この数日は固い地面の上に寝ていた。
「キャンプみたいでいいじゃないか。」
とタカキは楽観的に言っていて、シンイチも無邪気に賛成していたが、女子であるニーアとしてはなかなか耐え難いものであった(あとから気付いたのだが、一人あまりくらいならリビングのソファーの上に寝てもらえばよかったかもしれない。。。)。
翌日、次の解放目標である軍の施設に向けて移動を開始する、突発的な戦闘もなく順調に進み昼過ぎには目的の建物のふもとまで到着することができた。
「昨日もそうだったけど、モンスターが全然でないね。帝国って実は治安がいいのかな。」
シンイチが素朴な疑問を口にする。それに対してラースが教えてくれた。
「この辺は内陸なので、強力なモンスターは出ません。弱いモンスターはニーアさんの強さを感じ取って逃げていくのでしょう。もっと東に行くとラニキス王国との国境を分ける山脈があり、その辺にはかなり強いモンスターが住み着いていると聞きます。ワシュローン帝国がラニキス王国へ侵攻するのを防ぐ一助になっています。あとは、北部の海沿いでは海の向こうにある北の魔属領の魔貴族との対立があると聞きますね。」
「そっか、どこの国もやっぱり魔族との戦いってあるんだね。」
「そうですね、勇者パーティが魔王を討伐してくれたことにより各国の魔族対策はかなり楽になったと聞きますが、それでもやはりゼロにはならないですね。。」
魔族と争うことばかり考えずに、共存する道を探せばいいのにと思ったが、シンイチはあえて口には出さなかった。今ここで議論しても、解決しない問題であることは理解しているつもりだった。
建物の入り口が見えるところまで来ると、ここにも見張りの兵士がいることが確認できる。
「やっぱり、話にあった帝国軍の施設は怪しいですね。こんな辺境に軍を駐留させておく意味はない。セルディス王国からの防衛というならまだわかりますが、特にセルディスから攻めるという話もなかったので、不自然かと。」
「確かにそうだなあ、むしろ向こうから攻め込んできているからな。」
ラースの意見にタカキも賛成した。
「帝都からヘルゲスに向けて軍を動かすのであれば、少し外れているので、補給経路というのも考えにくいですね。」
「あとは考えられるのは怪しい研究か、収容施設。。。」
「つまりビンゴってこと?」
シンイチが嬉しそうに声を上げる。
「まだわからないさ、その可能性はあるってことだな。」
「まあ、何にせよ今からはっきりするわよ。」
そう言って、いつも通りの手順で制圧しようとしたが、守っている帝国兵が他の収監所よりも人数が多く、個々の力も強かった。ラースが負傷をしたが、そのあとはニーアが少し本気を出したことでいとも簡単に制圧することができた。
「ラースさん、大丈夫ですか?今治療します。」
シンイチがヒールライトで回復をしてやると、ラースはほどなくして元気になった。
「ありがとう、シンイチ。助かったよ。俺としたことが油断してしまった、こんなんじゃ、カレン隊長に怒られちまうな。」
そんな冗談を言いながらもすぐに仕事に復帰する。いつも通りに人質を開放を始めると、ほどなくしてその中に目的の人物を発見することができた。ショーンの父スパースと、妹のシーキィである。シーキィはすらっとしていて大人びた雰囲気だが、まだ15歳とのことだった。
「やっと会えたわ、あなたがショーンの家族なのね。お兄さんに頼まれてあなたを助けにきたの。」
スパースはここにいる間にかなりひどい扱いを受け体力が回復しても話すことが難しかったため、代わりにシーキィがニーアと話をした。
「あなた方は一体? ショーン兄さんの知り合いなのですか!? 兄さんは元気にしているのでしょうか。私たちのせいでひどい目に遭っていないといいけど。」
「大丈夫よ、今のところはね。私の仲間が守ってくれているの。でもなるべく早くあなたたちの無事を知らせてあげないと、帝国を変えるために動くのが遅れて、被害者が多くなってしまうかもしれないわ。今は王都にいるはずだから、すぐに使いを出して連絡するわね。」
「そうですか、いろいろとありがとうございます。いずれ兄に会えますか?」
「ええ、ここが落ち着いたらすぐに王都へ向かうわ、一緒に行きましょう。」
その言葉にシーキィは小さく頷いた。
その会話の終わりを待っていたかのように横から入ってくるものがいた。
「もし、すみません、少しよろしいでしょうか。あなた方は、この国を立て直そうとするものですかな。」
ニーアたち話を聞いていたようで、捕えられていた一人の初老の男性が聞いてきた。
「正確には、私の友人が立て直すのを手助けするだけです。」
その言葉を聞いて、その男性はひざまずきこういった。
「私の名はキースコート、元々帝国の外交大臣を担当してました。他国への侵略戦争の方針に反対したところ、このような場所に収監されてしまい。。」
服はボロボロのものを着ているものの、所作には気品が感じられる、国の要職についていたと言うのも全くのでたらめには聞こえなかった。そんな偉い人がこんなところにいるのかと思ってきいているとキースコートは言葉を続けた。
「どうか私も連れて行っていただけないでしょうか。現政権を打倒した際にはぜひに新しい主君を補佐させていただきたく思う次第です。」
悪い人ではなさそうだが、この人を信用してよいものか。ニーアの頭にそんな考えがよぎった。自分一人ではなく、シンイチやタカキ、それにセルディス王国の兵士の命を預かっている状態である。さらには、これから帝国政権の転落を仕掛けようとしているアンナ達をも危険にさらす可能性だってあるかもしれない。ここはいわば敵地である、いくら反政府的な理由で投獄されていたとしても安易に信用してよいものだろうか。
「少し相談してもよいかしら。」
「ええもちろんです。」
ニーアはシンイチ、タカキとともに少し離れたところで話を始めた。
「帝国にもまともな人はいるんだね。」
開口一番シンイチが言った。
「ちょっと失礼よ。」
ニーアがたしなめる。
「いや、でもそういう人がいても、帝国の侵攻が止められなかったってことだよな。」
「まあそうね、でもそれはしょうがないんじゃない、いち大臣が反対したところでどうにもならないんじゃないかな。」
「うーん、そういうもんかなあ。」
「で、どうする気だ。」
タカキが本題に入るよう促した。
「ちょっと私だけじゃ決めきれないから相談したいなって思ったの。どう思う、信用できるかな?」
「僕はいいと思うよ、優しそうな人だし。」
シンイチに聞いたのは間違いだった、彼は人を疑うということを知らないようだ。
「タカキはどう思う?」
「そうだな、さっき鑑定スキルで見たが、見える限りの情報だと特に危険はなさそうだ。もちろん、見えてないヤバい情報を隠し持っている可能性はあるが。。ニーアが問題なさそうと思うなら連れて行けばいいんじゃないか。その代わり連れて行く人数はかなり絞ったほうがいい。あのご老体一人、はさすがに厳しいかな。プラスもう一人くらいでよければという条件を付けるのはどうだろう。」
「なるほど、いいわね。」
タカキの提案に乗り、キースコートともう一人の元役人というものを連れていくことにした。ただし、ニーアたち三人はタカキの車で先に王都に向かい、ショーンの家族とキースコートたちは王国兵とともにデイトスで馬車を調達してから追いかけるという形となった。
アンナたちを帝国に縛り付ける枷となっていたショーンの家族を解放したことを知らせるため、タカキの従魔であるエンシェントホークのエースに手紙を括り付け帝国王都に向けて飛び立たせた。エースの速度であれば一日とかからないだろう。
「アンナさんの部下の人がうまく見つけてくれるといいね、、魔物ということで狩られたりしたらたまらないよ。。」
「大丈夫だろ、エースにはアンナの部下の顔を覚えさせていたし。あいつは賢いやつだよ。」
「これでやっとアンナとの約束を果たせそうね、次は帝国の現政権を倒す手伝いに行かないとね。まあ、私たちが王都につくまでに終わっているかもしれないけど。」
久しぶりに三人での移動となりマジックアイテムのコテージに泊まれることとなり、ニーアのテンションは高かった。しかし、その翌日には現実に戻されることになったのだった。




