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第百二十七話 静かなる侵攻

レイン将軍と会う数時間前、ニーアはアンナとその後の方針を決めていた。

戦いを終え、タカキ達と合流し状況を説明した後、帝国領内への進軍について作戦を練っていた。たくさんの兵士を送り込むことはできないため、今いるメンバーで混成小隊を編成して、それぞれ帝国領に進行方向を変えて分かれて進軍する。一つはニーアパーティとセルディス兵四名、セルディス兵中心の部隊を二つ編成し、残りの二つはアンナと召喚士ショーン、およびアンナに忠誠を誓う帝国兵十数名で編成した小隊である。

「随分と少数で心もとないな。せめてカレン将軍には報告を入れて、協力を仰いではいかがですか?もう少し援軍を送ってもらえるかもしれません。」

セルディス騎士団のラースからそう言った進言があったがニーアはその案を拒否した。仮にも騎士団の団長が帝国兵と組んで秘密裏に動くことを許可するとは思えなかった。その時点で、今ここにいるアンナについている帝国兵ともたもとを分かつことになるだろう。何より、時間が惜しい。確かに指摘は正しいのかもしれないが、今はこの戦争をいち早く止めるためにいるメンバーでできることをなるはやでするしかなかった。そして、裏工作は人数が多くいればいいというものではないということを、ニーアもアンナも理解していた。

一方で、Bランク冒険者パーティのブレイブファングには、セルディス王国内の探りを入れる役となってもらうこととなった。ニーアもセルディス王国が帝国側の人間を人質に取っているとは思えなかったが、念のため見極める必要はある。セルディス兵だと自分の国ということで判断が緩くなる恐れがある、とはいっても帝国兵を王都の中枢まで入れ判断をゆだねる、というのも許容し難いということで選定されたのだった。

「本当は、一緒に帝国領内に来てくれると心強いのだけど、あなたたちが頼りよ。先入観を持たずしっかりと判断してね。ヘルゲス街中には入らず少し遠回りして南下して、王都に向かってちょうだい。必ずアストレアに直接依頼するのよ。」

「任せてくださいニーアさん。ちゃんとやりますって。」

最初はアンナの所在についてという内容でアストレアに取り次ごうとしていたが、アンナからそれはやめたほうが良いとコメントが入ったため、冒険者ニーアからの重要な報告がある、とすることになった。

「私のことだと、アストレアは怒って冷静な判断を阻害してしまうかもしれない。」

背景を知らないユータは、不思議そうな表情を浮かべながらも少し申し訳そうなアンナの言葉を了承しニーアの直筆の手紙も預かった。

帝国領地内での交渉をスムーズに進めるため、セルディス側の各隊に帝国兵2名をシャッフルさせることにした。彼らは帝国というよりはアンナの私兵という形で、アンナの命令に忠実とのことだった。

目的は制圧ではなく、帝国のどこかに捕らえられているであろう人質の解放である。オスティアに人質がいない場合は、帝国内のどこかでとらえられているはずというのがニーアの予想であった。先ほどブレイブファングのユータとジェイニスが帝国兵を絞り上げて聞きだしたところ、捕虜が捕まっていそうな箇所が数か所あるとの情報が得られている。

アンナも完全に信じたわけではないのかもしれないが、元勇者パーティの仲間ということで、ニーアの作戦に賛同し、帝国内の捜索に協力するとのことだった。

「この場は一旦、離れたほうがいい、すぐに帝国軍の指揮官であるレイン将軍が戻ってくるはずだ。奴と一戦交えるとなるとかなり厄介だ。」

アンナの提案により、話が終わるとすぐに移動を始め、ニーア達を残し他のメンバーは帝国領内に入り、散り散りに進軍を始めたのだった。


その数時間後、ニーア達はレイン将軍と別れるとすぐにタカキの車で帝国領内を北上していた。先に進んでいるアンナ達に追いつくためである。移動を始めて3時間、とくに敵兵やモンスターに出会うことなく順調に進みアンナたちと合流することができた。日が沈み、あたりはすっかり暗くなっている。遠くに明かりが見え人里の気配を感じた。さらに数十分ほど歩くとようやく小さな村に到着したのだった。人口100人程度の小さな村でローレトル村という名前とのことだった。旅人も少ないため宿泊施設や食事処もないとのことだったので、住人にお金を払い食料を分けてもらいつつ情報収集をしていった。彼らは軍隊の兵士が辺境の村人に対してお金を払うことに驚いているようだった。聞くところによるとたまに帝国兵が立ち寄ることがあったが、その際には国のためという名目で食事や宿泊場所の提供を強制させられるとのことだった。そんな背景もあり、村人はニーア達に友好的で、情報収集はスムーズにすすんだ。さらに宿泊施設の提供の申し出があったが、タカキの提案でそれは固辞し、村の外で野営をすることにした。万が一、帝国軍に見つかった場合、村人たちの立場が悪くなると配慮したのと、セルディス王国軍は謙虚だということを帝国軍の一般市民に示しておきたかったためだ。第一印象は大切であるという社会人経験からである。

野営場所でみんなで火をかこみながらローレトル村の人から購入した食料を食べる。ほとんどが野菜だったが、そこに以前討伐して収納Boxに入れておいた魔物の肉を混ぜて調理した。塩だけのシンプルな味付けだが、文句を言うものはいなかった。

食事の間、村人から聞いた帝国軍人の話になった。ニーアとしては一般市民から食料を強奪するという帝国軍が許せなかったようだ。

「帝国軍人ってみんなそうなのかしら。」

ニーアが少し憤りながら疑問を口にする。

アンナ配下の帝国兵が反論する前に、帯同してきたセルディス王国軍の兵士ラースが口を開いた。

「ニーアさん、お言葉ですが、帝国軍の兵士の中にもまともな人間はいますよ。戦争で神経が高ぶっているせいではないでしょうか。戦争に向けた徴兵で、いろんな人間が入っているせいもあると思います。」

「へーそうなのね、セルディスの騎士団もそんな感じなの?」

「いえ、セルディス王国軍はけっしてそんなことはありません。」

一段階大きめの声でラースが答える。少し意地悪な質問をしてしまったようだ。

「ふふふ、分かっているわ、冗談よ。ごめんね。」

その言葉を聞いてラースがほぉっと息をつく、ようやく緊張を解いたようだ。

村人からの情報だとこの村から北に三百キロほど進むと目的地であるデイトスに到着するらしい。翌日、朝早くから進軍を始めることとした。

進軍の前に、セルディス王国兵の鎧は目立つため、一旦ニーアのマジックアイテムに収容し、代わりの鎧を貸し出すことにした。

「私のお古で申し訳ないけど、というかダンジョンの宝箱でゲットしてそのまま使っていないものだから臭ったりはしないわよ。」

「す、すごい装備だ!近衛騎士団の装備よりも貴重なものかもしれない。」

兵士たちは驚きを隠せない。

「そうね、一応、レア度A+だったかなあ。」

ニーアが事もなげに言う。

「え、A+ですか、これを売れば2,3年は遊んで暮らせちゃいますね。」

しかし、ラース以外の騎士団メンバーは熟練度が足りず、A+の装備を使いこなすことができなかった。そのためレア度B++の武具を装備することとなった。それでもセルディス王国軍の近衛兵が装備する者と同等かそれ以上のクラスである。

「よかった、これよりも低レア度のものは持ってなかったから、、装備できてよかったわ。数もぎりぎり足りてそうね。」

兵士たちが顔を見合わせる。ニーアの言葉を聞いて、タカキも苦笑いするしかなかった。いざとなれば少し時間はかかるが自分が即席で防具を練成しようかと思っていたところだった。

移動開始に向けてタカキが車の点検をしているとアンナがそれを見つけ声をかけてくる。

「ちょっと!何その乗り物!?」

「えへ、いいでしょ、車っていうのよ。タカキが作ったのよ。」

驚くアンナにニーアが誇らしげに説明する。

「これに乗って来たから昨日は追いつけたのね。馬車よりも数倍速いなんて信じられない、こんなものを作れるなんて、、世間に知れたら各国でタカキの奪い合いになるわ。」

「そういうメンドイのは嫌だから内緒にしておいてね。」

「わかった、他の兵士たちにも伝えておく。」

その日からは、アンナとショーンは一緒に車に乗っていくことになった。全員は乗ることができないため、他の騎士団のメンバーはそのまま馬で移動である。ニーアたちが先にデイトスで情報を集めるには内部事情が分かっている者がいたほうが良いという判断で、兵士たちが後から合流するまでに先に情報収集しておこうということである。

「もっと大勢乗れるように大きい車を作れればよかったな。まさかこんなことになるとは思わなかったからなぁ。とは言ってもバスとか造っても運転したことないからそっちが問題か。。なんか案がないか考えておくか。」

「まあ、いいんじゃない。今は私たちだけでも先行してやれることをやっておくのが大事だから。」

ほぼ休みなく走り続けたことで、その日の夕方にはデイトスに到着した。

「やっぱすごいわ、一日かからずデイトスについちゃうなんて。もう一日は野宿を覚悟していたけど、今日はベッドで眠れそうね。」

「タカキ、運転お疲れ様。今後も考えると私たちも運転できた方がいいんじゃない?」

「うーん、そうだな。ずっと座っていたせいで腰が痛いよ。こっちの世界にはそもそも運転免許なんてないし、それもありかもな。」

ニーアの提案にタカキも興味を示した。車にはシンイチに防御魔法も施してもらっているため、現実の車よりも安全性能は高い。しかも、対向車などはいないため事故のリスクも少ないといえるだろう。

道路がないため道は悪いが、そもそも舗装された道路での運転経験がないニーアとシンイチにはあまり影響しないともいえる。車が運転できるかもと聞いてシンイチが興味深々と言った目で見つめていた。

アンナが宿を手配してくれ、その日の夜はデイトスのレストランでアンナたちと一緒に食事をすることになった、アンナが個室を確保してくれたのだ。ショーンは乗り物酔いで宿で寝ているとのことで、ニーアたち三人とアンナの四人での食事である。

「いろいろ手配ありがとうね。急な出発ってこともあって、ワシュローン帝国の通貨をあまり持っていないから助かるわ。冒険者ギルドに行けばお金下せるのかもしれないけどあまり目立っちゃうのも良くないし。」

「大丈夫、これくらい。私だってこれまでの旅で結構稼いでいるんだから。それに、今回のことだって、アイ、いや、ニーアにはお世話になっているわけだから。」

アンナが笑顔で言った。

「それにしても器用に食べるわね。」

フルフェイスの兜をすこしずらし食事を口に運ぶニーアを見ながらあきれたようにアンナが言った。

「もう長いからね、慣れたわね。」

「個室なんだから外してもいいような気がするけど。。そんなことに慣れるなんて、、元勇者の冒険者暮らしも大変ね。」

「アンナはセルディス王国を出た後はどうしていたの?」

「私?私は冒険者ではないけど、このままの格好で活動していたわよ。でも、結果的には帝国に利用されるような形になってるから、変装は正解だったかもね。もっと自由に生きたいんだけど、勇者の肩書が重いって思うことは正直あるわね。」

「そうよね、戦争を終わらせて自由になったらまた冒険とか行きたいわね。」

またそんなフラグ立ててとシンイチは横目で無邪気に話しているニーアを見た。しかし、同年代の女子と楽しそうに話すニーアを見るのは悪い気はしなかった。タカキも同じ思いらしく、優しそうな目で二人の会話を見守っているのに気付いたシンイチであった。


翌日、デイトスでの聞き込みに一日を費やし、それらしい情報をいくつか集めることができた。

「ここから東に10キロの地点、西に40キロ、あとは北東と南東に15キロの地点に帝国軍の施設があって、何をする場所かよくわからず怪しいってことね。西にはもっとたくさんあるかもってことだけど、、逆にたくさん候補がありすぎて困っちゃうわね。」

「それだけ、虐げられている人が多いってことじゃない?」

「じゃあ、私たちは西のところに行ってみる一番遠いし。」

「それより、一番近い東の地点にみんなで行ってみない。私とショーンは西の方で活動していたこともあるから、関係者の人質を隠すなら遠い方が怪しいんじゃないかな。たぶんみんなが合流する前に探索が終わると思う。」

「そうね、いいけど。町の周辺だと人が多いから車での移動は無理よ。」

「大丈夫よ5キロだったら徒歩でも30分くらいでつくんじゃない。」

それは常人の徒歩の速さじゃないだろう、とタカキは言いたかったが黙ってついて行くことにした。

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