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第百二十四話 勇者vs勇者(2)

槍と剣では間合いが異なるため離れていると槍が有利である。ニーアは何とか距離を詰め懐に入ろうとするが、アンナもそれをわかっているため、なかなか距離を詰めさせてもらえない。槍が有利な間合いでの応酬が続く。ニーアは間合いの不利を埋めるためエアスラッシュやトルネードスラッシュといった魔法剣技中心で攻める、通常の剣士と違い、間合いが離れていても戦えるのが魔法剣士であるニーアの強さでもあった。アンナは槍と剣の間合い差による有利性が活かせないことに違和感を覚えていた。

なんだこいつは、不利な状況だってのにスキルでカバーして互角以上の戦いを繰り広げてくる。別の武器に変えるべきか、いや、それこそ悪手だろう。間合い優位性がある状態で互角ならば、もっと厳しくなるかもしれない。それなら、、アンナは考え方を変えることにした。一つの武器にこだわることをやめる、バトルマスターの通り名にかけて1対1の物理攻撃戦で負けるわけにはいかない。アンナは高速三段突きを繰り出した、威力よりもスピード重視のスキルである。しかしそれもギリギリのところですべて防がれてしまった。だが、それはアンナの想定通りである、三回目の突きを終えた状態からそのまま胴薙ぎに変化させる。ニーアは何とか反応して剣で防御したが吹き飛ばされてしまった。

「くそ、これも防ぐのか。」

アンナは小さな声でつぶやいた。それでも、ニーアが体勢を立て直し終わる前に再び攻撃を仕掛け、今度は両手持ちの剣に持ち替え先ほどよりも間合いを詰めて上段からの打ち下ろしを連続でたたき込む、体勢を崩したニーアは回避することができず身体強化をしながら必死に強烈な打ち下ろしを防御する。アンナはその二撃目を片手での打ち下ろしに切り替えると同時に空いた片手でアイテム収納ボックスから取り出したナイフを投げつけた。しかし、そのナイフも簡単にかわされてしまった。

「くっ、ちょこまかと動く。」

アンナは悔しそう言った。ニーアの後ろで躱された短剣が爆発を起こした。ボムナイフという武器で、投げナイフとして使用すると、ぶつかった衝撃で爆発し敵を巻き込むという代物である。加速度の付いた方向に爆発も制御されるため自身の近くで爆発しても巻き添えとなることがなく、アンナは好んでよく使っていた。

今の攻撃は危なかった、ニーアは余裕で攻撃をかわしたように見せていたが内心はほっとしていた。ゼロ距離からのボムナイフ攻撃、これも見ていたことがあるので反応できたが、マイティストレングスを使用して回避せざるをえなかった。この調子で防御でMPが削られると、アンナの体力と自分のMPの持久戦となりこちらが不利なのは明らかだ、そんな状況はあまり考えたくはなかった。さっき一撃を入れたようにやはりこっちから仕掛けていくのがいいのだろう。

それなら、と、遠い間合いから攻撃を仕掛けるアンナに対し後ろに下がって攻撃範囲から逃れ、すぐさまエアスラッシュを二撃放つ、そしてすぐに間合いを詰め自分の剣に雷属性の魔力を帯びさせたライジングスラッシュで追撃を狙っていく。しかし、アンナはエアスラッシュの斬撃には気に留めずニーアの追撃に合わせてきていた。いつの間にか両手剣から片手剣に持ち替えて、右手での打ち下ろし、それに合わせ左手でより間合いの近い片手斧で横薙ぎを繰り出してくる、変則ゼロクロススラッシュである。上からの打ち下ろしはライジングスラッシュで相殺できたものの、腹に片手斧での横薙ぎをまともに食らってしまった。

「ぐぁぁっ!」

しかし、ダメージの大きいのはアンナの方であった。ライトニングスラッシュの雷属性の魔力が体内に走ることでダメージを与えアンナの動きが止まる、ニーアはさらに雷属性を帯びた剣で風魔法剣技のトルネードスラッシュを使い雷属性を乗せた竜巻を放つ。アンナはそれに反応して何とか竜巻から逃れようとするもライトニングスラッシュを受けたダメージで動きが鈍りかすってしまい、再び雷属性の魔力の餌食となった。アンナの動きが止まり、そのままトルネードスラッシュに巻き込まれ吹き飛ばされる。

そこまで見届けてニーアは思わず片膝をついた、自分の腹部を見ると鎧が吹き飛ばされ、腹がざっくりと切れている。こりゃきついはずだ、そう思いながらヒールウォーターをかける。少し時間はかかるが止血はできそうだ、だが、失った血はすぐには戻らないためこの後の戦いはさらに持久力がきつくなりそうだ。左手での胴薙ぎが普通の片手剣であれば間合いが詰まってもっと傷は浅かったはずだが、その辺の戦闘センスはさすがアンナである。全身鎧を身に着けていなければ、あるいはライトニングスラッシュが一瞬速く入っていなければ自分が真っ二つになっていただろう。もう立ち上がってこないでほしいと切に願うニーアだった。

トルネードスラッシュで吹き飛んだアンナは、雷属性のダメージと吹き飛んだ衝撃により意識がもうろうとしていた、それでも何とか立ち上がろうとする。リジェネリングという魔道具を装備しているため、死にさえしなければ徐々に回復はしていくのだが、すぐに回復するような状態ではない、かなやばい状態であるのは間違いなかった。ここまでダメージを負ったのは魔王討伐のとき以来かもしれないとぼんやりと考えていた。

ようやく立ち上がったものの、無意識のうちに武器を下ろすアンナ。あまりのダメージの深さに、今の自分では勝てないということを認識してしまっていた。

その時、横で見ていた召喚士がアンナに伝える。

「すみません、アンナ、私たちの負けのようです。さっき召喚したドラゴンも倒されてしまったようです。MPを回復しないと再召喚はできないので、今日はこれ以上ここで戦う意味もありません。」

どうやらMP枯渇を起こしているらしく、つらそうな表情を浮かべている。それを聞いて、シンイチ達が倒してくれたようだとニーアはほっとした。

だがアンナには、召喚士の言葉は届いておらず別のことを考えていた。

魔法と剣を操りどんなレンジでも効果的な攻撃をする、昔こんなやつがいたようなと記憶を探っていた。こんな強い冒険者なら対峙したら忘れないはずなんだが、、

「アンナさん?」

召喚士の呼びかけに我に返り、そして、ようやく思い当たった。

そうか、アイだ!仲間だったからあまり手合わせしたことがなかったから時間がかかってしまったが、いつも隣で見ていたのだった。

ゆっくりと近づいてくるアンナに、警戒し立ち上がるニーア。まだお腹の傷を治療しきれてはいない、ここで追撃を受けるとかなりピンチになる。しかし、アンナは攻撃をすることなくフルフェイスの兜をかぶったその戦士に向かって問いかける。

「あなたアイなのね。」

武器も収めこれ以上争う気はなさそうだ、ニーアは黙ったままそっと近づき、アンナの耳元で今は訳アリでニーアって名前の冒険者なのと伝えた。

昔の仲間との再会に少し気を許したのかアンナが話を続ける。

「なんだ、初めから言ってくれればよかったのに、いや、それでも私は戦うことをやめなかったか、、アイ、いや、ニーア、話を聞いて。セルディス王国は仕えるべき国なんかじゃない、裏でひどいことをやっているんだ。」

アンナの真剣な表情にニーアも黙って話を聞くことにした。


ニーアがアンナの戦いに決着をつける少し前、シンイチたちとドラゴンの戦いも大詰めを迎えていた。

ブレスを発動しようとしていたところをシンイチが片足を集中して攻撃することでバランスを崩させたのだった。

「やってくれたか。」

タカキがつぶやいた。

「よしっ、今だ!畳みかけるぞ。」

タカキがそう言うと次々と撃ち込み始める。

周りにいる護衛の兵士たちにも自分の護衛よりも攻撃に専念するよう促した。

皆で一心不乱にドラゴンに攻撃をするが、皮膚が固く、ユータ達の攻撃ではかすり傷を作るのが精いっぱいだった。しかし、何度も同じ場所に攻撃を重ねることでその傷口を深くすることができた。この辺は、ニーア達とオラキ島での修行で学んだ成果である。体勢を崩したもののさすがはドラゴンでその攻撃力はけた外れである。流石にブレスはなかったが、大きな爪であたりを無差別に破壊していった。

「気を付けて、まずは防御集中で。」

シンイチは近くに来たユータ達に注意を促した。

「リョーカイ!」

シンイチは黒魔法を発動しながら、絶えず攻撃をしている。アブソーブスラッシュで相手の体力を吸収し、合間に、パワーアブソーブとマジックアブソーブを併用することで、ドラゴンの攻撃力を下げながら自身を強化し続け戦っている状態である。

大ダメージを受けた場合は一気には回復できないため追撃を食らうとやられてしまう可能性がある。そのため、デバフをかけるのは防御を安定させるためにも必須で、硬いドラゴンにダメージを与えていく上で疲労なしでかつ攻撃力を上げて叩き続けられるという観点も非常に重要なファクターだった。

ドラゴンの最後の悪あがきともいえる無差別攻撃を凌ぎつつ、集中攻撃の末、何とかドラゴンをしとめるとができた。(致命的なダメージを与えていたのはシンイチとタカキだけであったが。。)

「やったー!ついに倒した。」

「これで俺たちもドラゴンスレイヤーの仲間入りだな。」

討伐したドラゴンを見てジェイニスが笑顔でそう言うと、ユータは残念そうに、

「いや、今回のドラゴンは召喚されたものなので、称号獲得するのは難しいでしょう。」

と言った。その間にもドラゴンが消えていく、どうやら召喚魔法の効果が切れたのだろう。

「また、ドラゴン討伐はお預けかよ、、」

ユータの言葉を聞いてガッカリするタカキ、シンイチが笑顔でタカキの背中をポンポンと叩いてあげる。

そんな二人を見て、

「どっちが大人かわからないですね。」

とロザーティアが笑う、それを聞きタカキも苦笑いを浮かべるしかなかった。

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