第百二十三話 勇者vs勇者
「あなた、本物のアンナなの?」
ニーアがそう言い終わらないうちにアンナが切りかかってくる。
さすがに一撃一撃が重い、ニーアは戸惑いながらも防御に専念せざるを得なかった。何とかアンナの連撃を防ぎ間合いを取った。
「ねえ、アンナ、ちょっと落ち着いて、話をしましょう。」
「馴れ馴れしくするな、貴様と話すことなどない!」
そう言いながら、ニーアの呼びかけに聞く耳を持たず3連撃を飛ばす剣技スキル、トライアングルスラッシュを発動する。アンナの得意技であった。二撃目までは防いだものの三撃目はかわしきれず、肩の鎧が切れ肩口から出血する。それほど傷は深くない、隙を見てヒールライトで回復すれば問題ないだろう。
それよりも、長く一緒のパーティーでやってきたのに自分の声と気づいてもらえないとは、、フルフェイスをかぶっていて声がこもっているせいもあるのかもしれないが、ニーアはちょっとショックを受けた。
レア素材で作られたニーアの鎧を簡単に切り裂くトライアングルスラッシュの威力からして、やはり本物のアンナのようだ。
「厄介ね、こっちも手加減はしてられない、本気で行くしかないわね。」
中距離でさらにトライアングルスラッシュを放つアンナに対して、ニーアもエアスラッシュで相殺していく。そこからお互い距離を詰めて、近距離での剣の応酬が続いた。パワーで勝るアンナに対して、スピードで優位性のあるニーアが手数を増やし徐々に押していく、形勢不利を感じ取りアンナが距離を取ろうとするがそれを許さずぴったりと追随して攻撃を続けるニーア。そしてついにアンナの防御を上回り一撃を与えた。
「ちっ、なかなかやるな。」
攻撃を受けた反動で大きく後退し、ようやくアンナが距離を取った。ニーアの攻撃が当たる直前に体を後ろにそらしてダメージを最小限に抑えたようだ。
完璧なタイミングで入ったはずなのに薄皮一枚か、普通なら致命傷を与えられるタイミング、間合いだったのに相変わらずえぐい身体能力しているわね。そんなことを考えながら、ニーアは再び構えて攻め込むタイミングをはかる。
「あのアンナと互角以上なんて、凄い。Aランク、いやSランク冒険者だろうか。」
横で見ていた召喚士がつぶやいた。アンナを援護してあげたいが、向こうで召喚したドラゴンを維持するためには集中する必要があり、戦いを見て応援することしかできないのが実情である。
再び、剣と剣がぶつかり合う。アンナは防御主体でカウンター重視の戦闘スタイルに変更している。
ニーアの方がスピードで上回るとはいえ、アンナに防御に徹したスタイルを取られるとなかなか有効打が奪えなくなった。時折繰り出されるアンナのカウンターの一撃も何とか防いでいるが、ガードの上からでも威力が強く腕がしびれてくる。一発でもまともに貰ってしまうと、一気に劣勢になりそうな勢いのため油断はできない。手数では圧倒しているが、今度の攻防は互角、いや、ガードの上からでも気にせず叩きつけるアンナの方が優勢な状況であった。
「さすがはアンナね。」
ニーアは厳しい戦いの最中にもかかわらず、少しだけ楽しくなってきた。昔の魔王討伐の旅路で模擬戦で訓練をした時のことを思い出す。それでもここで時間を掛けてはいられない、こうしている間にもシンイチがドラゴンを抑え込めなくなるかもしれないのだ。
このままでは今度はこっちがじり貧になると考えたニーアは、マイティストレングスを使い身体能力を大幅に強化し、アンナとの攻撃力の差を埋め再び優位に立とうとする。
「ぐっ」
ニーアの急な能力アップに再びアンナが劣勢になる。
こいつ、まだ余力を残していたのか。まだ本気ではなかったということなのか?勇者だった私を相手に舐めた真似をするとは、まったくもってイラつかせるやつだ。アンナはそのことを思うと腹が立ってきた。振り返ると、ここまでの旅は思い通りにいかないことばかりだ、旅のきっかけは些細なことだったけどそのあとは嫌な事件がいくつか続いた。自分の力で問題を解決してあげたはずなのに、みんなが幸福になるような思い描いた結果にならない。この戦争への参加も最初はそんなつもりは全くなかった。自分が勇者パーティとしてお世話になった国セルディスに攻め込むなんて、いくら破天荒と言われるアンナでも普通に考えるとあり得ないことだ。だけど、今はその判断自体は後悔していない、自分の信じた道を進むだけだ。それでも、やはり世界はアンナに優しくはなく、常にストレスをかけてくるような状況が続くことにイライラしていた。
こういうときに怒りに任せるとろくなことにならない、短期的には相手を倒し勝利することができても最後には思いもよらないような顛末を迎えてしまう、そう分かっているのについつい楽な道を選んでしまうだった。
相手が力を隠しているというなら、それを上回るのみだ!アンナはさらに勢いをつけカウンターを放つ、威力の増した相手の攻撃を受けさらに強いカウンター攻撃をするため全身の筋肉がきしんでいるように痛みが走り始めた。
ニーアはアンナのカウンターが大振りになったのを見逃さず、すかさず魔法剣技トルネードスラッシュを放ち、アンナの剣を弾き飛ばした。マイティストレングス中の別スキルの使用はMPをかなり消費するので避けたいところだがそうもいっていられなかった。
「勝負ありね。」
武器を失って立ち尽くすアンナに、剣先を突き付けニーアが言った。固有スキルであるマイティストレングスを使えばあるいは自分だと気づいてもらえるかもと思ったが、アンナは若干冷静さを欠いているようで気づかなかったようだ。
アンナは、飛ばされた自分剣を見たあと、突きつけられた切っ先を見つめる。強い、この冒険者が自分を殺す気で来ていたならもう勝負はついていただろう。アンナは、ここまでの戦闘で相手が完全に自分を上回ったことを認識し、怒りの気持ちも萎えてしまった。だが、同時に何としても負けるわけにはいかないということを思い出した、一緒にここまで来たショーンのためにも。
「勝負あり?それはどうかしら。」
そう言うと、アンナはアイテム収納ボックスから取り出した手斧をニーアに投げつける、それを躱すことでニーアが一瞬気を取られた隙に今度は槍を取り出し三連突きのスキル攻撃を発動する。一撃目がわき腹をかすり再び鎧が裂けた、が、鎧だけでニーアへのダメージはほとんどない。さっきまでの力任せのカウンターからまた雰囲気が変わったことを感じ取る。
そうだった、オールマイティウエポンの異名を持つアンナにとっては、メイン武器を失っても、アイテム収納ボックスから取り出した武器でメイン武器と同等かそれ以上に戦うことができる、ということをニーアは思いだした。メイン武器はその日の気分で決めていたようだったが、敵が強くなればなるほど、最後は別の武器でとどめを刺していた印象がある、むしろメイン武器は相手に間合いや攻撃力を錯覚させる擬態なのではと思ったほどだ。
「全く、相変わらず往生際が悪いわね、といってもここからが厄介で本番って感じかしら。」
ニーアがそう言うとアンナもそれに応えた。
「あなたには感謝しないといけないね、いつもなら最後は力でごり押しで勝てていたから冷静になる間もなかったから。こんな感覚は久しく忘れていた気がする。」
先ほどまでの口調とは変わって少し柔らかくなっているような気がした、冷静になったというのは嘘ではないだろう。今なら説得できるかも?という考えがニーアの脳裏をよぎったが、しっかり勝ち切るため今一度気合を入れなおした。
「そお?感謝の言葉は受け取っておくわ。でも、最後に勝つのは私だけど。」




