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第百十八話 反攻(2)

翌日、西の橋のセルディス軍は士気が高かった。

「さあ、みんな一気に行くわよ。冒険者には負けていられないわ!」

カンナの呼びかけに対し、オォー! と騎士団兵士たちの呼応する声が響く。

「なんだよ、急に大将のお出ましか。何かあったのか?」

ライジングサンのリーダー、ツォーガがそれを見てつぶやいた。

「なんか、三つの橋の戦場のバランスが悪くなっているらしく、ここだけ遅れているみたいだな。そのため騎士団のメイン戦力を投入して戦線を押し上げるつもりらしい。」

ペドロがさっき聞いたばかりの情報を伝える。

中央と東の橋は比較的近く、互いに状況がわかるが、ツォーガたちが守っている西の橋は中央との距離が遠く、向こうの戦況が見えない。

「なんだよ、そんなことだったら言ってくれりゃ俺たちだってギア上げたのにな。」

今回の戦争は、こちらから攻め込むというよりも守りに徹するのが作戦だと伝えられ、それを忠実に実行していただけに、他と比べて進軍が遅いと非難されたようで少しだけ不満を感じた。徐々に押し込まれていたのも騎士団の指示に従っていただけに過ぎない。しかし、ツォーガはすぐに気持ちを切り替えた。

「よし、じゃあ気兼ねなく暴れさせてもらうとするか、みんな準備はいいな。」

前衛のペドロとリンカが頷いた。

「私たちの本当の実力を帝国兵に見せつけてやらないとね。」

そう言ってリンカは待ってましたとばかりに両拳を胸の前で叩く。

「では私たちは後ろでフォローします、くれぐれも無茶はしないように。今までの戦いで分かっているとは思いますが決して帝国の兵士たちは弱くはないので。」

ヒーラーのリューレンと召喚士のシモンが後方へ下がる。

「ああ、仮に負傷したらすぐに引くさ、その時は回復を頼む。」

ツォーガたちはそう言って前線に向かって行った。


前線ではセルディス軍の士気が高く次々と帝国軍を倒している。

「すごい圧力だな、ほんとに昨日までの消極的な戦いは何だったんだ。」

ツォーガがつぶやきながらかき分けるように前に出ていくと、帝国軍の兵士が襲い掛かってきた。

「ふんっ!」

ツォーガは帝国軍の攻撃を巨大な斧で受け止めそのまま押し飛ばす。飛ばされた兵士が別の2人の帝国兵にぶつかり、体勢を崩したところにリンカとペドロが追撃を加え素早く制圧する。

「よし、どんどん行くぞ。」

「さすがのパワーね。私たちは楽させてもらえそう。それにしても相手もすごい数ね、昨日よりも多い気がするわ。」

リンカが笑みを浮かべ、ペドロが同意する。三人のコンビネーションで派手さは無いものの確実に帝国兵を倒し、ツォーガたちは徐々に前線を押し上げていく。

「さすがは、Aランク冒険者だ、我々も負けていられないな。」

セルディス王国の騎士団メンバーも思わず感心する。そんな彼らの横を騎士団長カレンたちが駆け抜けていく。

「あなたたちやるわね、私たちが来るまでもなかったかしら。」

ツォーガたちにそう声をかけて、軽やかに帝国兵の攻撃をかわし、カウンターで倒しさらに前進していく。

「あいつを倒せ!敵の大将だ!」

帝国兵が次々と襲い掛かっていくが、次の瞬間には何人もの帝国兵が地面に崩れ落ちていく。

「なるほど、あれが騎士団長か、とんでもない動きだ。」

その動きに思わず見とれ、女性騎士が敵を圧倒する姿にデジャブを覚えたが、ツォンガはすぐに我に返り目の前の戦いに身を投じていった。


ワシュローン帝国の本陣にて戦争の指揮を執っているレイン大将軍の元に、時間が経つにつれその日の戦況の報告がされてきた。

「昨日から状況変化はあるか?中央と東は押し込まれていると聞いたが、どこか一本でも突破できれば一気に攻め込める。そろそろヘルゲスを落としたいところなんだけどな。」

「それが、西の橋も今押し込まれている状況です。」

想定外の報告を聞き、レインは少し不機嫌な表情を浮かべた。

「西の橋の戦力を手厚くして一点突破って作戦を指示していたつもりだったけど、ちゃんと伝わってないのか?」

「いえ、作戦通り西に戦力を集めています。ただ、第二騎士団の本陣が出てきたようで向こうの士気が高いようです。」

「へえ?本陣がね。」

それを聞いてレインは腕を組み少し考えこんだ。

じゃあこっちも、挨拶に行くとするか。」

そう言うと立ち上がり支度を始めようとする。

「レイン様、出陣されるのですか?」

「ああ、この戦場における向こうの大将が出てきたんだ、こっちも大将が挨拶に行くってのが礼儀ってもんだろ。」

「しかし、危険では?」

「なあに、まだまだ先は長いんだ、そんな無理はしないさ。これから王都まで進軍しないといけないんだからな。とりあえず、調子に乗らせすぎるのも良くないだろ。ずっと本陣で待機しているのも俺の柄じゃないんでね。」

「承知しました。それと、中央と東がますます劣勢になっています。どうやらそれぞれの戦場で腕の立つAランク冒険者パーティが加わり士気が上がっているらしく。」

「へぇ、相変わらずか。ほんの2,3日まで迄は互角だったと思ったんだが。。そっちはそっちで面白そうではあるな。だが、やっぱりまずは大将だろう。そっちは大佐クラスを複数送り込んで対処してくれ。」

「はっ、承知しました!」

レインは立ち上がり準備に向かう、すれ違いざまに副将のギュンターに声をかけた。

「じゃあここは任せるぜ、ギュンター。秘密兵器もじきに到着するらしいからさ。」

「御意。」


中央の橋では、タカキが数日かけ自分の武器の改造を終えて戻ってきた。

「待たせたな、今度はばっちりだ。」

昨晩、ニーアたちと相談して、この戦いではスナイパーとして後方支援に徹するということで話をつけた。スコープをつけ麻痺弾をライフル仕様にしたことで、的確に狙いをつけ戦闘不能にするという作戦である。試射もしたがかなりの精度が出せることが確認でき、100m以上の距離があっても誤差数センチ以内で命中させることができる。もっと上達すればさらに射程距離を延ばせるだろう。残念ながらそこまで練度を高める時間がないため、ここからはOJTとなる。

「遅れた分、しっかり取り戻してよね。」

「ああ、任せておけ! 橋の手前の高い建物から狙いをつけるよ。」

ユータやユニテアと話をしているニーアにBランク冒険者のゴウンとタサダが話しかけてきた。

「この数日の戦いは素晴らしいかった、ユータの言った通りの実力だった。これがAランク冒険者の実力かとまざまざと見せられた感じだ。最初に来てくれた時に失礼なことを言ってすまなかった。」

ゴウンたちは自分の考えが間違っていたことを認識し謝罪に来たのだった。

「ああ、別にいいわよ、気にしてないわ。それよりも今まで通り後ろ側のフォローお願いね、今日もガンガン押し込んでいく予定だから。」

「ああ、任せてくれ。」

力強く頷く二人を見て、この場にいるメンバーの気持ちが一つになったとニーアは感じた。

ニーアの宣言通り、中央の橋の戦況はこれまでにも増してセルディス王国軍が優勢となった。しかし、しばらくすると帝国軍もセルディス側の勢いを止めようと小隊長クラスを何人も投入してきた。

ニーアのスピードに乗った連続攻撃を3人がかりで防ぎ、押し返そうとしてくる。

「へえ、なかなかやるわね。」

一般兵よりワンランク上の彼らと対峙し、通常剣技のみでかつ、狙うところがばれている状態ではこの相手は倒せないとニーアは思った。狙いどころをランダムに解禁するか、あるいは身体強化や魔法剣技を使うか。。そうなると殺してしまう可能性がある、ちょっと面倒だ。狙いどころを腕だけではなく、体全身の致命傷を与えない場所としようかと考えている。その間にも帝国側はどんどんと兵士を投入してきた。

「今だ、ここは構わずどんどん行け!」

小隊長の指示により他の兵士がニーアを追い越して他の冒険者やセルディス王国騎士団に斬りかかっていく。

「こいつら強いです、油断しないように!」

ユータが後ろの仲間に声をかける、騎士団の動きも止められこれまでの勢いが消え、逆に押し込まれ始めた。帝国軍の精鋭により騎士団兵士が何人も討ち取られていく。

「くっ、ここまで来たのにまた戻されてしまうのか。」

「ここで引いては駄目です! ニーアさんやシンイチさんが孤立してしまう。」

ユータが騎士団の前線指揮を執っている兵士に声をかける。

「それはわかるが、、このままでは、こっちが全滅してしまう。」

しかし、そうなることはなかった。ニーアの相手をしていたうちの一人が突然動けなくなりその場に倒れこむ。それに動揺した隙をついてニーアが残りの二人の腕を斬り、一気に勝負を決したのだった。

「タカキ、やってくれるじゃん! 期待通りね。」

ニーアはタカキの姿を視認はできなかったが、弾丸が飛んできた方向に親指を立てて感謝の意を示した。これにより相手に傾きかけた形勢を取り戻し、その後もユータや王国の騎士団が苦戦する戦闘の中で、動きが止まった一瞬のタイミングをタカキが狙撃で打ち抜き帝国軍の小隊長クラスが次々と戦闘不能となっていった。

「くそっ!いったい何が起きてやがる。ここはまずい、一旦、退け!」

帝国軍は混乱し後退し始め、セルディス王国側がついに橋を渡り切ったのだった。


「ようし!ここに陣を張るぞ。周辺の建物に帝国軍が潜んでいないか警戒しろ。」

騎士団がすぐさま資材を運び入れ、簡単な侵入防止用の策を作り始める。冒険者たちはその間に周辺の建物の陰や建物内に潜んでいないか確認をした。

「これでひと段落ね。シンイチもお疲れ、かなり戦いに慣れたみたいね。今日はランクが上の相手が多かったけど問題なく対処で来ていたみたいだし。」

「うん、まあね。この数日間の研鑽のたまものかな。っていうか、相手の動きを止めたらタカキが何とかしてくれるって感じだったから、後半はいかに相手の動きを止めるかってことを考えて戦ってた感じ。」

「あれはやっぱりタカキさんの援護だったんですね、手練れの相手が勝手に倒れていくのでちょっとびっくりしました。」

ロザ―ティアとユータが会話に加わり、戦いの振り返りを始めた。まだ息のある兵士が大勢いるという話だったので、シンイチは、負傷した騎士団メンバーの治療に向かった。

「おおーい、無事か!?」

しばらくして、タカキが後ろから駆けてきた、どうやら中央の橋の制圧が完了したと聞いて移動してきたらしい。

「タカキ、こっちよ。」

ニーアの合図に気づきタカキも合流する。

「無事制圧できたみたいだな。」

「タカキのおかげってことにしておいてあげるわ。みんな感謝しているみたいよ。」

それに呼応するように他の皆がタカキにお礼を言いに来た。

「素晴らしかったです、次から次へと小隊長クラスを倒してくれたので戦いが楽になりました。どうやって強い相手を見分けていたんですか?」

「ああ、まずは相手の装備かな、ちょっと偉そうな格好をしている奴から狙っていったんだ。あとは、戦場で目立つ奴だな、他の兵士より明らかに相手を倒しているぞってやつを見つけて狙うようにしたんだ。」

周りの冒険者たちだけでなく騎士団メンバーからも感謝を受け満足そうなタカキを見て、この数日のタカキの試行錯誤のかいがあったと思うニーアであった。

「今日は日も暮れてきたしここまで見たいね。さあ、明日からはいよいよ敵の本陣を目指す戦いになるわね。一気に終わらせてやるわ。」

そうして、中央の橋はこの日も大きな戦果を挙げ締めくくったのであった。

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