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第百十五話 参戦

ニーアたちがセルディス王国の王都に着いたのは結局開戦から半月以上経ってからだった。

急いで王様に謁見に行くと、疲れた表情のセルディス王とアストレアが出迎えてくれた。

第一騎士団の団長、クロスウェルや、勇者パーティのメンバーのオスカーも城の中にはいるのだが、軍議続きで忙しいらしい。

「戦況はどうなの?」

ニーアが会うなり一番にアストレアに聞いた。

「正直なところあまり状況は良くないわね。第二騎士団が良くやってくれているけど、ワシュローン帝国を跳ね返すだけの決め手がないのも事実ね。」

開戦の当初はヘルゲスの街の北、国境との間の平原に陣を展開しての戦いだったのが、最近はヘルゲスの市街戦の形になっているという話だ。

「帝国の兵士はそんなに強いの?」

「それもあるけど、数がやっぱり多いわね。町に入れないつもりで北側の入口はしっかり固めていても、すべての兵士を討つのは難しいみたいで、すり抜けた敵兵が北側以外の街の東や西の入口から侵入を許してしまっているという話ね。援軍に行った第五騎士団もすり抜けて南下してきた兵士の対処に追われてなかなか第二騎士団と合流できていないみたい。すり抜けた兵士を相手にしないって作戦も提案があったけど、私が却下したわ。放置したらそいつらが王都まで攻め込んでくるかもしれないし、食料の略奪目的で周辺の村の住民が襲撃されてしまうかもしれないから。」

アストレアの言うことはもっともだ、だが、戦争はそんな生易しいものじゃない。

「このまま守っていてもじり貧になるだけじゃないのか?」

「そこはその通りよ、だからオスティアの第三騎士団が到着したら攻勢に出れると思っているわ。冒険者も参加してくれるらしいし。帝国の王都から進軍しているってことは長く補給路も延びているはず。帝国領土に入り込んでそこを断ちたいというのが当面の狙いね。 戻ってきてくれたってことは、当然あなたたちにも期待していいのよね?」

アストレアの圧の強さに三人は首を縦に振るしかなかった。


長い会議が終わり城を出ると辺りはすっかり暗くなっている。戦場となっているヘルゲスへ向かうのは明日からということになった。

「なんか、僕たちのやっていることってほんとに人類の平和に貢献しているのかな。。」

シンイチが不安そうに言った。

「難しい質問だな、確かに戦争で解決するってのは良いやり方とは言えないと思うよ。だが、このまま何も抵抗せずに敗戦を受け入れて終戦したら、数年後にさらに攻め込んでくるかもしれない。そう言った次の被害を出さないようにここでしっかり片付けておくのが大事なんじゃないかな。」

「でも勝った国が調子に乗って攻め込むんだったら、セルディス王国が勝ったら、逆に侵略したりしないのかな?」

「それはないとは言えないが、アイ含めて勇者パーティのメンバーがそんなことを許さないだろうさ。」

「そうね、もしも不当な侵略をするようなら私は今度はワシュローン帝国側につくと思うわよ。私だけじゃなくてアストレアやオスカーとかもきっと同じ思いよ。自由人のアンナやトォーリィーとかはどうかわからないけど。。」

「それなら一応大丈夫なのかな、、」

「まあ、あの王様だったら大丈夫じゃないか、勇者パーティーの大ファンみたいだし。」

ニーアは他国への抑止力として勇者パーティーを置いておきたいというセルディス王の話を思い出した。しかし、逆にセルディスにとっても抑止力となりうるのかもしれない。


翌日、三人は早速北上を始めた。車を使えれば二日かからず戦場となっているヘルゲスに到着できるが、平地がないことと他の兵士の目についてしまうため仕方なく馬車での移動である。第三騎士団や東側にいる冒険者が合流するまでにまだ一週間近くかかるということで、そこに間に合えばよいという話だった。その移動の間、三人は戦いに備えて各自武具のチェックなどをして過ごした。本当はモンスター討伐をして少しでも二人の経験値稼ぎをしたいとニーアは思ったが、王都からヘルゲスへ向かう道中では強いモンスターがおらず今のタカキとシンイチでは経験値とならないため断念したのだった。

「まあ、これまでの戦いを通してかなり強くなったし、大丈夫じゃないか。二人ともBランク冒険者くらいだったら互角以上に戦えるだろうし。」

タカキが余裕ぶってそんなことを言ったので、初日だけはニーアとの模擬戦で鍛えることになり、ぼこぼこにされその後現地に着くまでは回復という旅程となった。

「タカキが変なこと言わなければ僕も巻き添えになることなかったのに、、」

シンイチは若干不満そうだったが、それでもニーアと久々に模擬戦できたことで体の切れを取り戻せたような気がした。

四日後、ヘルゲスの手前10キロほどの場所に展開された、第五騎士団の陣営に到着した。

ニーアは第五騎士団の団長と面識があるわけではなかったが、素通りするのもどうかということで一言挨拶をしていこうということになった。

陣営の中央に位置する作戦本部のテントを覗いた。

「こんにちはー。」

気持ち軽めのあいさつで中に入る。そこでは、第五騎士団団長のカヤマオと第一騎士団副団長のセーラが部下数名と共に作戦会議中だった。

「なんだお前は! 勝手に入ってくるんじゃない!」

ニーアのことを知らないカヤマオが怒鳴った。セーラがすぐに間に割って入る。

「ああ、ニーア様!来てくれていたのですね!」

急に呼ばれて動揺するニーア。

「ちょっと、セーラ。様はまずいわよ、今はただの冒険者なんだから。」

ニーアが周りを気にしながら慌ててたしなめる。カヤマオを筆頭にニーアの正体を知らない騎士団のメンバーが戸惑っている。周りの目を気にしてセーラは我に返り平静を取り戻した。

「失礼しました、まさかAランク冒険者ニーアが来てくれているとは。その、私の、昔からの知り合いでして。後で少しお話しできますか、ニーア。」

周りの者に説明するような言い方でをするセーラ。ニーアも快諾する。

「ええ、私は構いません。」

「それは良かった、ではまた後程。」

第一騎士団の団長、副団長は王都に常駐しているため、ニーアのことを知っているが、第五騎士団はセルディス王国内の様々な地域で任務に就き転々としているため、知らないのも当然のことだ。

セーラが、先日魔貴族討伐を成し遂げた凄腕のAランク冒険者パーティということで紹介をする。実は勇者アイというところはトップシークレットということで言わないでくれたようだ。少しざわつく中、カヤマオが口を開いた。

「ふーん、その冒険者さんが帝国を蹴散らしてくれるってのかねえ、どの程度のものだか。魔族相手と人間相手だと勝手が違うぜ、しっかりやり切れんのか。冒険者ってのは自分勝手で、国のために戦うって意識が低い人種だと思っているけど大丈夫なのかねぇ。俺は信用できないぜ。」

「カヤマオ団長! さすがに無礼ではありませんか。」

「セーラいいのよ、確かにそういう冒険者がいるのも確かだもの。でも一部を見て全てをわかったように語るのはどうなのかしらね。」

冷静に言い返すニーアだったが、こりゃあかなり怒っているな、とタカキは感じた。ただ、カヤマオの言う通り人間相手の殺し合いは勝手が違うというのはその通りだなと思った。

「我々は、帝国の刺客として送り込まれた冒険者とも命のやり取りをしてきましたので、対人戦の経験がないということではありません。」

補足的にタカキが説明を加えたが、カヤマオは「へーそうかい」とつれない返事をしただけだった。

少し緊迫した空気の中、作戦の説明を受け、ニーアたちの役割はヘルゲスの市街に入り、第二騎士団に合流して、帝国の本隊との戦闘に加わるということだった。カヤマオは不満そうだったが、セーラが王都からの命令だと強く主張し、最終的には、冒険者を最前線に送ることで騎士団の負担を減らせる、と本意ではない理由付けをしてようやく納得させたのだった。

会議が終わり、さっそくヘルゲス市街に向かおうとテントを出たところ、ニーアたちにセーラが声をかけた。

「ニーアさん、すみませんでした。カヤマオ団長は実力は申し分ないのですが、ちょっと性格に難ありというか、冒険者をあまり良く思っておらず、、国を想っての言動なので理解いただきたく思います。。ニーアさんの正体を知ったらあんな態度にはならないと思いますが。。」

「セーラ、いいのよ。味方同士で言い争っている場合じゃないことは理解しているわ。このストレスはワシュローン帝国にぶつけることにするわ。後ろの守りは任せるからね!」

やっぱりイラついてるんじゃん、とタカキとシンイチは思わず顔を合わせたのだった。


第五騎士団の陣営地を出て30分ほど歩くとすぐにヘルゲスが見えてきた。帝国との国境の都市ヘルゲスは大きな川で南北が分断されていて、今は北半分を帝国に奪われ、南の半分で防衛戦を強いられているセーラからと聞いた。その大きな川には中央と東西の3か所に大きな橋が架かっている。その他にも小さな橋はいくつか掛かっているが、大軍を動かせるほどの大きな橋ではなく、斥候部隊や冒険者の主戦場となっているらしい。

「やっと着いたね、また騎士団にあいさつに行くの?」

「そうね、ヘルゲスの市街で戦っているのは第二騎士団で別の人だから一応ね。」

街に入ってそのまますぐに戦場の指揮を執っている第二騎士団団長のカレンと会った。最年少で騎士団長となった美貌も兼ね備えた女性騎士である。

「Aランク冒険者ニーアのパーティーか、参戦の協力感謝します。」

「お世話になっている国の危機ですもの当然のことです。」

ニーアもそう言って固い握手を交わした。カヤマオのような冒険者に対する偏見はなさそうだと少し安心する。

「戦況はどんな感じでしょうか。」

「そうですね、奇襲を受けてヘルゲスの半分が落ちたのは聞いているかと思います。そこから何とか巻き返しを図っているところで、今は、町を南北に分断するヘルゲス川にかかる三本の橋で交戦中ですね。ずっと押されていましたが、数日前から、王都にいた冒険者が加勢にきて、少し巻き返しています。とはいっても、今のところどの戦況においても一進一退というところ拮抗していますね。」

「なるほど、ありがとうございます。それで私たちはどうしたらよいでしょうか。」

「昨日、オスティアからの冒険者が到着して、数日以内に戦いに加わってもらうつもりです。その方たちと一緒に入ってもらえますか。この戦いに参加してもらっている冒険者達は、大きく二つのパターンに分かれています。それぞれの橋で騎士団に加わって戦ってもらうか、3つの大橋以外の小さな橋を渡って敵陣に突入を図るというパターンです。どちらでも選択は任せますが、騎士団とともに戦うのならば騎士団の指示に従ってもらいます。」

穏やかだが、有無を言わせぬ迫力のある口調であった。

「もうすぐ第三騎士団が来るので、それまでは戦況の維持が重要となります。」

「わかりました、とりあえずどんな形で参戦するかは少し考えさせていただければと存じます。」

ニーアは丁寧に受け答えし、その後も会議は終始穏やかに進行した。


会議後、割り当てられた宿の部屋に入り、タカキとシンイチと今後の動きを確認する。

「やっぱり細い橋での戦いになるんだね。」

「川に落ちないようにね、結構川幅も大きくて、水の流れも急らしいから。」

「逆に敵を川に落とすのもありかもね、戦力を無効化するという意味では。」

シンイチが言った。

「うーん、それをやっちゃうと、偶然でも南岸に辿り着いた場合、想定していないところから奇襲される恐れがある。可能性は低いかもしれないが、万が一を考えて出来るだけ押し戻す方がいいだろう。」

タカキがそれらしいことを言う、意外とちゃんと考えているようだ。

「なるほど、そっか、りょーかい。」

翌日、オスティアから来た冒険者との合流し、戦場を見て回り、参入の場所とタイミングを探ることとなった。

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