第百十四話 開戦
急いで シギャラス武装国家とシュテイン王国の国境に到着すると、多くの人々が列を作っていた。どうやらシュテイン王国側で出入国の管理を厳しくしているという話だ。急に戦争となったので仕方のないことだが、
半日後にようやくシュテイン王国に入ることができた。ニーアたち自身はセルディス王国の所属冒険者ということで冒険者証ですんなりと入ることができたが、同盟国以外の所属の人はかなり念入りな取り調べが行われており、それに時間がかかっている。
「なかなか大変だったね、人気のアトラクションに乗る前みたいだったよ。並ぶのは長いけど、メインは一瞬で終わったし。」
「メインが全く面白くないってところが大きな違いだけどな。」
シュテイン王国に入ってからも、国境付近はかなりの数のシュテイン王国の兵士が配置されていた。そして、たくさんの人が各々目的地へ移動しているため人の目が多く、車での移動が難しい状況だった。
「しばらくは歩きだな、こりゃ。結構時間がかかっちゃうけど大丈夫か?」
「そうね、下手に目立って拘束されるのも避けたいし、仕方ないんじゃない。あれだけの騎士団をそろえているんだからすぐに陥落するってこともないでしょう。」
目的地が異なる人が徐々にいなくなり、車移動ができるようになるまで四日ほどかかり、これまで来たルートをたどってセルディス王国に入った。結局、セルディスの王都まで戻るのに20日程度要したのだった。
少し時を遡り、ニーアたちがまだシギャラス三国にいたころ、ワシュローン帝国との国境近くの都市ヘルゲスにて常駐している第二騎士団駐屯地内が騒がしくなった。
「カレン団長、報告いたします!国境沿いに帝国軍が集結しております。国境を破って侵攻してくるのも時間の問題かと思われます。」
「わかった、さっそく編成に入る。シグ、ホルン、王都と、オスティアに増援要請も兼ねて報告に行ってくれ、護衛の部下を数名を連れて行くように。」
「カレン様、私たちは団長直属の配下です、増援要請は他のものに行かせて一緒に戦わせていただきたい!」
シグが訴える、その隣でホルンも同意とばかりに黙って頷いた。
「もちろんそのつもりだ、そんな簡単に終わる話ではないだろう、だからこそ王都や他騎士団への報告・連携が重要になってくる。重要な任務だからこそ、お前たちにませたいんだ。報告から戻ったらすぐに合流して一緒に戦ってくれることを期待している。」
「はっ、承知しました。我々が戻るまで決して無理をなさらぬように。」
そう言って二人は部屋を出て行った。残ったのは第二騎士団団長のカレンと副団長のセリドラとなった。
「大変なことになったわね、援軍が来るまでは私たちだけで持ちこたえないとね。」
「ねぇーどうしよぉ。怖いよ。。」
「ちょっと、しっかりしてよね団長さん。」
セリドラにたしなめられるが、それでももじもじとしているカレン。実力はピカイチなのに、部下がいないところでは頼りない態度が顔を出す。
「第一騎士団は来てくれるかなぁ、、あとはオスティアにいる第三騎士団。。」
「クロスウェルの性格から考えると第一騎士団は動かさないでしょうね。ここで全ての帝国兵を抑えられるならまだしも、必ず討ち漏らしはでるわ。そういう兵士が直接王都を狙うことも考えられる、いや、むしろそっちが本命って可能性もあるから王都の守りは固めないとよね。」
「でもー、私たちもヘルゲスを守るのが精いっぱいって感じよね。そんな兵士を追いかけて討つ余裕なんてないわよ~。」
「それでいいと思うわ。私たちの目的はあくまで援軍が来るまでヘルゲスが落とされずにいること。たぶん第五か第六くらいの騎士団は来てくれるわよ、あとはオスティアの第三騎士団がどうかしらね。」
セリドラの冷静な見立てをなるほどと聞くカレン。そこにノックをして兵士長たちが入ってきた。
「みんなよく集まった、これから作戦をつたえる。我々の目的はヘルゲスの死守だ。
まずは国境側の街の入口3か所に討って出て布陣する。遠く離れていく敵兵は深追いしなくていい。それよりも陣形を保つことを意識してくれ。早ければ2週間ほどで王都からの援軍が来るはずだそれまでは守り抜くぞ!」
急に口調も態度も変え堂々と陣頭指揮を執るカレン。その熱に押され集まった兵士長たちも大きな声で雄たけびを上げる。
そのあとで細かな編成や陣形の動きなどはセリドラから伝達をしていく。
こういった大きな戦で指揮を執った経験がない若い二人にとって不安の種は尽きなかったが、それを部下に悟られまいと必死に振舞っていた。
ヘルゲスからの伝達係であるシグの報告を聞き、王都では会議が連日続いていた。なかなか結論が出ずシグとしてはややイライラしていた。こうしている間にも団長たちが追い詰められているかもしれないと思うと心臓がギュッと握られるような思いである。しかし周りは自分より階級が上のものばかりである、ぐっとこらえ結論が出るのを待っていた。しかし、ここでの会議に参加することにより新たな情報も入手した。シュテイン王国との国境都市であるサリアからも伝達役が来ており、どうやら、シュテイン王国とカプトル商業都市国家もワシュローン帝国に攻め入れられいるようだ。三か国同時に攻撃するとはさすがの軍事力である。
「第一騎士団はサリアを経由してヘルゲスに入りましょう、四日以内には到着できるはず。第三騎士団もオスティアから向かっていただきます。こちらは十日、いや七日くらいで行ってもらいたい。とにかくものすごい数とのことですから、こちらも騎士団の主力部隊を送り込まないと止められないと思われます。第五騎士団は王都からオスティアに向かい、第三騎士団の代わりにオスティアの守護を。第四騎士団はそのままサリアに駐屯ですね。第六、七騎士団はサリア付近で演習中と聞いていますので、1日か2日ですぐにヘルゲスに入れるかと思います。」
「アストレア殿、残念だが第一騎士団は出せない、第五騎士団をヘルゲスに向かわせ、第六騎士団をオスティアに向かわせよう。」
「その心は?」
「あまりに戦力をヘルゲスに集めすぎると王都の警備が手薄になってしまうのを懸念します。王都と、ヘルゲスの間にある山を越えてくる可能性もないとは言えないのではないでしょうか。」
クロスウェルがアストレアに問いかけると、オスカーが代わって答えた。
「その可能性はゼロではないですが、主軸の軍隊が抜けてくるのは無理があるでしょう。来るとしても少数の斥候部隊かと思われます。それであれば、近衛騎士団と、私たちで対応可能かと。」
「おお、オスカー殿、さすが勇者パーティの言葉には重みがありますな。」
セルディス王が言葉をはさむ。
「とは言っても、今は私とアストレアしかいないので、どっちかというと火力不足ですがね、アイかアンナのどちらかでもいてくればさらに安心でしたが、まあ、斥候程度の部隊が相手であれば我々二人でも十分でしょう。」
「わかりました、第一騎士団の一部の部隊は第五騎士団と一緒に行きましょう。ただ、第一騎士団全軍をヘルゲスにというのは同意しかねます。」
「クロスウェル、あなたの懸念も理解するわ。分かった、その案で行きましょう。」
「話は決まったようだな。みな、よろしく頼むぞ。」
アストレアと第一騎士団団長クロスウェルのやり取りを聞いて、セルディス王は力強く頷いた。
「ニーア、アンナ、今頃どうしているかしら、オスティア王国内にいてくれるといいのだけど。トォーリィが早く見つけてくれるといいけど。。。」
アストレアがやや不安そうな表情を浮かべた。そしてオスカーに向かって言葉を続ける。
「とりあえず私たちは引き続き鍛錬を続けましょう、半年間寝ていてなまった身体を鍛えなおさなくてはいけないわ。王都が戦場になる可能性はゼロとは言えないものね。」
「そうですね、王都で戦いになるとしてももう少し先のはず。。少しでも戦いの勘を取り戻さなくては、、」
そう言ってオスカーとアストレアの二人は、退出していった。近衛騎士団メンバー数名が訓練に付き合いますと後に続く。
二人を見送った後、クロスウェルが口を開いた。
「セーラ、第一騎士団の斥候部隊を引き連れてヘルゲスの様子を直に見てきてくれ。ヘルゲスで討ち漏らし王都に向かってくるような敵兵がいるようであれば、遊撃部隊として対処してくれ。」
「はっ。わかりました。」
騎士団長クロスウェルの指示に対し、第一騎士団の副団長である女性騎士セーラが敬礼をして応えた。
「それではさっそく出立いたします。」
「うむ、頼んだ。何か大きな変化があれば戦闘よりも王都に戻って報告することを優先してくれ。」
クロスウェルの言葉にセーラは頷いた。
「セーラよ、くれぐれも無理をしないようにな。そなたの健闘を祈る。」
「セルディス王、もったいなきお言葉を。」
片膝をついて敬礼をし、そのあと、くるりと踵を返し部屋を出たのだった。案内役として任命されたシグも一礼をし続いて部屋を出た。
皆が退出した後、セルディス王、王妃、騎士団長クロスウェルが残った。王様の疲れた表情を見てクロスウェルが声をかける。
「王よ、まだ戦争は始まったばかりです、今から気を病んでいても仕方がありません、今はしっかりお休みになって英気を養っておいてください。」
「うむ、そうだな。クロスウェルよ、そなたもな。それにしても、ワシュローン帝国がついに動いたか、魔族のことを考えると人族同士で争っている場合ではないというのに。。」
悩ましい表情を浮かべ、王は目を閉じた。




