第百九話 シギャラス三国
ディサウススを出発してから数日後、ニーアたち三人はシュテイン王国に入っていた。誰もいない海沿いの平原を快適にドライブ中である。国境の手前で車から徒歩に切り替え、余計なトラブルを起こさないように気を付けたおかげで、スムーズに入国でき今に至っている。
「魔物も出なくて平和だね。」
「そうね、予定通りにシギャラス三国を目指しましょう。こんな穏やかな日が続くといいけど。」
ニーアの希望通り、その後も平和な移動の日々が続いた。いくつかの町や村に寄り道をしたが、冒険者ギルドの依頼も強いモンスター討伐といった殺伐とした依頼は出ていなかった。ついでにという形で、アンナやトォーリィの聞き込みをしてみたが全く手ごたえがない。ついでというのは、本気で探す気であれば、こんな田舎の街ではなく大きな町に行って探すべきだからである。仕方なくまっすぐに目的地を目指すことにする。その期間、タカキはいつものように夜更かしをして、大量に仕入れたTPJの素材を使い麻痺特性を持つ弾丸の製作に取り掛かっていた。
「これくらいの分量でどうだ、ちょっと試してみるか。シンイチ手伝ってくれ。」
ある日の夕食後、そういうとタカキはTPJから抽出し配合を変えた液体を取り出した。そしてシンイチが見守る中、注射器で自分の足に打ち込んだ、全身に麻痺が回り、体の自由が一気にきかなくなる。
「シ、シンイ、、チ、、」
「はいはい、ちょっと待って。」
シンイチがあきれたように麻痺の解毒剤を飲ませる。これもタカキが錬成で作ったものである。
「ふー、助かった。ちょっと麻痺特性が強すぎるみたいだ、、今のは危ないな。それとやっぱり毒成分が抜けきっていない気がするな、しびれと共に痛みもあってダメージを受けている気もするし。」
そう言いながら自分のステータスを確認するとやはりHPがわずかだが減っている。
「死なない程度のダメージであればいいんじゃない。」
「うーん、まあそうなんだけどな。切羽詰まった状態で相手も負傷している場合だと、この地味なダメージが致命傷になるかもしれないだろ。とりあえず、今の状態ではだめだ、麻痺が強すぎて呼吸まで厳しくなる。」
「思ったより難しいね。」
「体がしびれて動けないけど命には別条ない、くらいの塩梅がいいんだけどな。」
ここ連日、こんな感じで試作品の麻痺成分配合を作っては自分の体で効果を試してといった試行錯誤をしていた。
「せめて、自分の体じゃなくて魔物とかで試せばいいのに。。」
「それは一理あるんだが、魔物が全然でないから仕方ないだろう。まあ、魔物も生死をかけた戦いで散るならまだしも、こんな実験に付き合わされるのはたまらんだろうさ。これはこれでマッドサイエンティスト感があってよくないか?」
そんなことを言って笑っているタカキを見てニーアとシンイチはあきれ顔でお互い目を合わせた。
その後、シュテイン王国横断の道のり半ばくらいまで来たところでようやく望んだ配合を完成させることができた。
「できた!28番目でようやくか、、これで今後は模擬戦になっても思う存分戦えそうだな。失敗作が色々できちゃったが、これはこれでモンスターと戦うときに使えそうな気もするし、遠回りしてよかったということにするか。」
「どうやって弾丸にするの?表面に塗るとか?」
「いや、さすがに表面に塗ってたら弾を銃に装填するときに自分がやられちゃうよ。こないだのゴム弾をベースに真ん中に抽出した液を入れるような空間を作るか、表面に塗った上でさらにゴムでコーティングとかかなあ。当たったときにうまくコーティングがはがれて麻痺成分が相手に付着するようにしないとな。」
「なんかさあ、凝った弾丸を作るより、普通の弾丸に打つ瞬間に毒を縫ってくれるような銃を作ったほうがいいんじゃない?」
「!!! それもありかも、、」
その後、タカキは弾丸のコーティングも試行錯誤のうちに完成させ量産体制に入った。対人用の配合の弾丸だけでなくいろいろな種類の状態異常弾を作成し、その傍らでシンイチの提案の銃も別で作ったのだった。
さらに数日経って、ようやくシュテイン王国の西の国境に到着した。
「これでシュテイン王国ともお別れかー。国内は、どこも平和そうでよかったね。」
「そうだな、セルディス王国もこれくらいだといいけど。」
「南の方の田舎ばかり通ってきたからかもね、首都とか大都市は北側に多くて、そっちはもっと治安は悪いのかもしれないわ。」
「でも魔物は少ないでしょ。」
「それはそうね、どっちかというと人間の犯罪の方が多いのかも。」
そんな話をしながら国境の検問を超えた。急に人工的な整備された道路や、建物が目に入ってくる。
「結構栄えている感じだね。」
「みたいだな、ここはえーと、シギャラス魔導国家というみたいだな。」
「へー魔法の国なの?」
「そうみたいね、なんか、シギャラス国は、魔導国家と武装国家、それと商業国家で分かれているみたい。それぞれの得意な分野があるって感じね。」
「また、いびつな感じだな。本当に大丈夫か?」
「国家間の紛争はないのは事実よ、ただ、法律が異なるみたいね。例えば、今いる魔導国家だと、武器を表立って持ち歩くのは禁止されているみたい。二人とも町中で武器を出さないようにね。唯一、魔法の杖とかは問題ないみたいね。」
「じゃあ、剣のような杖ってことにすれば、、」
「いいわけないでしょ!」
ニーアに睨まれ、照れ笑いでごまかすシンイチ。周りを見渡すと確かにいたるところに魔法が使われているようだ。道路にも魔法陣が刻まれており、どうやら、線路のような役割で人を乗せた荷台がその上を移動している。車輪のようなものはなく、ただ箱が摩擦係数ゼロですーっと移動しているように見える。
「あれ乗ろう!」
早速シンイチが食いつき並び始める。頻繁に荷台がやって来るのでそれほど待たずに乗ることができた。
「乗り心地もいいな、それに思ったよりスピードが出ている。リニアみたいな感じなのかな、地面の魔法陣と、おそらくはこの荷台の裏面に刻まれている魔法陣で反発させ合って、、」
「もう、そういうややこしいのはいいのよ。それよりなんかちょっと違和感がない?」
タカキの言うように振動もなくスーッと進んでいくのだが、ニーアにはなんだか居心地が悪く感じられた。しかしそれも最初だけで、すぐに慣れることができた。
10分ほどのっていると、一番栄えている国の中心部に到達した。ここからいたるところに向かって荷台を走らせているらしく、放射状にいくつもの乗降場所が設けられている。
「大きくないとはいえ本州くらいの広さがある国土をああやって、移動手段を巡らせているのか。国力としては結構強いのかもしれないな。」
荷台を下りた後、タカキは素直に感心した。
その足でさっそく寝床を確保すべく宿屋に向かう、幸い部屋は空いているようだ。
「3名様ですね、ありがとうございます。では宿泊料1泊一人当たり銀貨5枚となります。」
日本円にして約2.5万円、やや高級な部類といった値段だろうか。とりあえず4泊分を支払う。
「あとは魔力の抽出がいりますので、こちらに手を当てていただけますか。」
宿の受付がそう言ってカウンターの端においている機械を指した。
「え、なにこれ?どういうこと?」
シンイチが聞くと、受付は慣れた口調で説明を始める。
「シギャラス魔導王国は初めてですか。ここでは、税金として全てのサービスを受ける際に魔力での支払いをすることが技義務付けられています。なので、宿泊費の10%分の魔力を支払っていただく必要がございます。その魔力での支払いをするための機械がこちらとなっています。」
「なんか魔力を取られるなんて怖いね。銀貨20枚の10%ってどれくらいなんだろう。」
「普通の魔法使い系のジョブであれば数時間休めば回復するくらいです。お客様方は十分な魔力をお持ちのようにお見受けしますので、心配はいらないと思います。」
「はあ。。」
そう言ってシンイチが手を乗せる。確かに魔法を使用しているときと同じようなMPを消費している感覚がなった。
「はい、ありがとうございます。それでは次のかたお願いします。」
ニーアも言われるがままに手を乗せる。その間にタカキがシンイチのステータスを鑑定スキルで見てみると、MPの消費は60ほどであった。銀貨1枚当たりMP3の税がかかるようだ。
「こんなMPを徴収して何するのよ?」
ニーアが宿の受付に聞く。
「公共の乗り物や街灯、水道や下水、道路の整備工事といたるところで魔力が要りますのでそう言った公共事業を進めるために使われています。」
なるほど、確かに税金みたいなもんだとニーアは思った。
「払えない場合はどうなるの?」
「その場合は現金で払うことも可能です。ただし通常の金額の10倍になってしまいますので、魔力で支払う方が断然お得かと思います。逆に魔力で現金分を補填して支払うことも可能ですよ、この場合、少し割引が効いてお得になることもございます。あいにく、当宿屋ではそのサービスはやっておりませんが。」
チェックインを済ませ部屋で一息ついた。
「どうしよっか?」
「とりあえずしばらくは観光客を装って、町中を探索してみましょう。当然冒険者ギルド俳句にせよ、バカンスに来ている体で、ガチな依頼は受けない感じで。目的はあくまで帝国側の冒険者が潜り込んでいないかと、アンナたちの捜索ね。」
「バカンスだったらディサウススの方が合っていたんじゃない?」
「それは言わないの、ここは魔法が発達しているから、帝国も目をつける可能性があるんじゃないかって気がするのよね。」
「きれいで便利そうな国だけど、あんまり無駄遣いはできないな。特に俺はMPの最大値は少ないし。」
「じゃあ、私とシンイチは豪華なご飯食べよっか、タカキはその辺の屋台で買ってくるのね。」
ニーアがそう言って意地悪な笑みを浮かべる。
MPが多い二人が自分の分の税も立て替えてくれと懇願するタカキであった。




