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第十一話 日常

目を覚ますと、見慣れた家の天井の木目が見える。

あれ?戻ってきている、というのが最初の印象だった。

昨日までの向こうの世界での行動は直前まで見ていた夢を覚えているように、いや、それよりももっと鮮明に記憶していた。普通の日々の記憶として刻まれているようで、今回はちゃんと覚えている、、

なんでだろう。。この辺はよくわからないと思いすぐに考えるのをやめた。

ふと左腕に痛みを伴う重さを感じた。記憶にはないが、また何か怪我をしてきただろうか。

横に目を向けると慎一の頭が乗っかっているだけだった。

その慎一の顔は、元の幼い顔に戻っている。向こうの世界での慎一は少し大人びていて、しかもちょっとイケメンだった。これが2,3年もするとああなるのか、、、

そう思うとよくわからないが自分のことのようにうれしさと楽しみが入り混じったような気もちになった。

先週残っていた腹部の傷も、きれいになくなっているようだ。向こうの世界でしっかり回復していればこちらにも影響はなくなり、残っていた傷もなくなるようだ。これは一つ朗報と言えるだろう。逆に現実世界で傷を負った場合、向こうに引き継がれるのか、そしてそれを回復して現実世界に戻った場合、回復しているのだろうか。もしもそうなら、現実での怪我はすぐに感知できることを意味するのでかなりうれしいことである。

向こうの世界へ行くための条件も、まだわからないことだらけだ。

指輪の光が輝きが強くなっていたことが契機と考えられるが、慎一が一緒に来れたのはなぜか。就寝時に体の一部が接触していたことで、慎一も一緒に向こうの世界へ転移することができたのだろうか。慎一のさらに向こう隣にはパパが寝ていたはずだが、向こうの世界には来ていなかった。あるいは年齢制限があるのだろうか?(大人は禁止、的な?)。

いずれにしろまだ確証はないが、次行く時には調べてみよう、そう考えると少し待ち遠しくなる。

また向こうの世界に行けるという保証はないものの、すぐにまた行けるような確信めいたものが藍にはあった。

藍は体を起こし、スマホの画面で日付を確認した。覚えている限りだと最後は金曜日の寝る前だ、そして今は次の日、土曜日の朝になっている。約11時間寝ていたようだ。向こうで過ごしたのは1か月半くらいだったから、こっちの一時間で向こうの4日分、100時間くらいに相当する計算だ。もちろん、こちらの時間と向こうの時間で何か因果関係があるのかわからない。(例えば、こちらで急に起こされたりした場合、もっと短い期間で戻ってこれるのだろうかなど、気になる点はいくつもある。)

例の指輪も光を失っている、光を失ったから時間切れで戻ってこれたということだろうか。

次にステータスを確認する。引き続きステータスウィンドウは有効で、やはりLV10に下がっていた。慎一をたたき起こして確認してみると、慎一も現実世界においてもステータス確認ができるようになっており、Lv3にとのことだった。異世界に行く前はLv0 だったはずなので、現実世界でのステータスが上がっている。向こうの世界での慎一の最終LvはLv38ということで、Lvが10分の1になっているという仮説は間違っていないとみてよいだろう(残念ながら1の位は切り捨てか、、と思ったりもしたが。。)。

慎一も異世界で体験してきたことをしっかりと覚えており、向こうの世界に行った初日と同じように意識合わせをした。結果、二人の記憶が一致しており、やはりただの夢というわけではないことの裏付けができた。慎一が異世界に行った最初の日と同じように興奮している。

「あの特訓は実際に体験したのか、、今思い出してもげんなりするよ。。」

「まあ、そう言わないでよ、私としても慎一を鍛えないと一緒に帰れないかもしれないって必死だったんだから。」

「そっか、それならまあ許そうかな。でも、これはすごいね、前にも言ったかもしれないけど、現実世界がゲームみたいだ。」

「誰にも言っちゃだめよ。」

「こんなこと言っても誰も信じないよ。」

まあ、それもそうかもしれない、と藍も同意した。

同じ体験をしない限り、頭がおかしくなったのかと思われるのがおちだろう。

目覚めたばかりにもかかわらずテンションMaxな慎一と一通りの確認を終え藍は部屋を出た。


姉にたたき起こされ現実に戻ったことを知った慎一は、一通り興奮したあと、いつの間にか藍がリビングに行ってしまったことに気づき、自分も落ち着くことにした。もう一度布団をかぶり、昨日までに経験したことの記憶をたどってみる。

いよいよ旅立ちというところでこちらの世界に戻され、RPGゲームでイベントに向かう前にもう時間だよとばかりに電源Offされたような喪失感も覚える。せっかく死に物狂いで特訓したんだからその成果を発揮したかったな。そんな思いも浮かんだが、すぐに、「いや、ゲームじゃないんだ、気を引き締めていかないと。」と思いなおす。

「また行けるといいな、、、」

そう呟いて目をつぶった。


藍が居間に行くと、パパがコーヒーを飲みながらスマホゲームに勤しんでいる。三国志のソシャゲを2アカウント分とRPGゲームと複数を同時進行しているらしく忙しそうだ。コーヒーとスマホゲーム、好きなものに囲まれて至福の時なのであろう。そんな必死にやって何が面白いんだかわからないが、毎日数時間は費やしている。こんな体たらくでも一流企業に勤めて、結構いいお給料をもらっているらしいので、世の中わからないものだ。とは言っても、出世欲がなく、研究職で研究も趣味の一環とのことだ。(ママのお給料のほうが良いらしいというのは聞いたことがある。)

パパと一緒に朝ご飯をすました後、勉強を済ませる。殺伐とした世界から帰ってきたせいか、普通に机に向かって勉強をすることにすら幸せと感じることができる。それがモチベーションとなったのか、頭も冴えわたり、わからない問題はいつもはパパに教えてもらうのだけど、今日は教えてもらわずに済んだ。

勉強を終えて体を伸ばし宙を仰ぐ、やはりあの世界のことを考えてしまう。

まさか、弟の慎一まで一緒に来ちゃうなんて。。。自分だけならまだしも、弟を守らないといけないというのは無意識のうちにプレッシャーを感じてしまう。さっきシンイチには冗談めかして言っていたが、まぎれもなく本心と言える。しかも、その世界で自分が一番強いというならまだしも、そうではない状態になってしまっているという点も追い打ちをかける。暫く考えていたが、すぐに打つ手を思いつくはずもなく、やがて諦めて目をつむり首を振った。今は元の世界に戻れている喜びを噛みしめよう、そう思いなおした。


そんな藍の葛藤を知らず、慎一は、朝ご飯の後すぐに近所の子たちと虫取りに行ったようだ。小学6年生にもなって虫取りって、と思うのだが、面倒見がよく近所の年下の子から慕われている。たまに土日の暇なときは一緒に遊んであげているようだ。ほんとあの両親からは想像もできないほど優しくて、立派な子に育ったものだと藍は思わず感慨深くなる。

反対に藍はというと、0か1か、善か悪かといった割り切った考え方をしがちで、いわゆるデジタル人間というやつで理系人間のパパ寄りといえる。年下と遊ぶのは、弟の慎一ならまだしも、近所の他の子と遊んであげるということはほとんどなくなっていた。

これは性格というよりも、自分が中学生で大人になったこともあるかもしれない。

また、曲がったことが許せない性格のため、友達とケンカをすることもしばしばであった。勉強がそこそこできるおかげで、学校では不良とは思われていないけど、やんちゃなほうかもしれないと自分でも思う。(なるべく目立たないようにしているつもりではあるが、、)

藍は午後からは友達と遊び、そのあとパパと夕飯の買い物と、いかにも平凡な休日を過ごした。その日の夜も、寝るときは念のためと先に眠りについた慎一の手の上に自分の手をのせて就寝した。しかし、残念ながら何事もなく日曜日の朝を迎えたのだった。やはり指輪が光っていないとだめなのか、、残念ながら?、いやむしろ喜ぶべきか、と藍は複雑な気持ちになるのであった。


次の日の日曜日も、藍はゆっくりとして過ごす。昼食の後、軽くジョギングをしたが相変わらず体の調子は良さそうだ。慎一は朝から同級生と、そのあとまた近所の小さい子供たちと遊んであげていたようである。

「アイちゃん、俺、レベル上がったよ!レベル4になってる!」

夕方、シンイチは家に帰ってくるなり大きな声を上げた。

「え、ほんと?なんで?なにやってたの?」

藍は驚きのあまり、矢継ぎ早に質問を投げかける。

「んーとね、クラスの友達とはドッヂボールで、小さな子供たちとは基本は虫取りかな。」

当然だが、別に魔物を倒したわけではなさそうだ。

「へー、そうなんだ。その中での具体的な結果を教えてよ。なんかレベルアップのヒントがあるんじゃないかな?」

藍はさらに突っ込んで質問をした。

うーんと少し考えこむそぶりを見せたが、すぐに慎一が明るい声で答えた。

「虫取りでは、セミにトンボにバッタとか、いつも取れるような虫を取って、そうだ、大きいアゲハチョウを取ってあげたよ。飛ぶのが結構早くて捕まえにくいんだよね。でも、こうやって網を振り下ろしてかわされたところをすかさず切り返して捕まえたんだよね。あれは我ながら華麗な技だったな、槍での斬りつける技みたいな感じ。」

嬉しそうに身振りを交えながら説明をしてくれる。

「なるほどねー、他にはなにかある?」

腕を組み首をかしげながら藍は次の慎一の報告を促した。

「ドッヂボールでは2回くらい一人で相手チーム全員を倒したかな。目の前で投げられたのをがっしりキャッチしてファインプレー連発、みたいな。ボールをよけるのも余裕だったし、いつもよりも調子が良かったというか、反応が良かったし、速い球を投げれた気がするね。」

うーむ、どちらも経験値を得られそうといえばそんな気がする。どちらが支配的かわからないが、とにかく、何かしら達成したらレベルが上がるのかな。そういえば、私も体育のときにレベル上がってたっけ。あの時は確か砲丸投げでいい記録を出したんだった。何かしら自己ベストを出せばいいのだろうか?

というかそもそも慎一もレベルが3に上がっていたので藍ほどではないにせよ、能力が上がっているはず、ドッチボールで調子が良かったのもそのせいという可能性はありそうだ。

自分も何かトレーニングした方が良かったかも、とのんびりとした休日を過ごしたことを少し後悔したのだった。


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