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第百八話 動き出す大国

そこからさらに数日の間、ニーアたちは他の冒険者と一緒にTPJの残党狩りに勤しんだ。

狩りは順調に進み、TPJを見つけるのが苦労するくらいまで減らしたところで、冒険者ギルドが終了の判断を下しクエスト完了となった。

最終日の狩りを終えて港に戻るとき、ニーアは小さな二頭の魔物を見つけた。

「あれってカイフォースドシャークじゃない?今までどこにいたのかしら。」

「ずいぶんと小さいね。まだ子供かな?」

シンイチの言う通り2メートルもあるかどうかというくらいのサイズである。

「そうか、、あの大きなカイフォースドシャークはこの二頭を守りたかったのかもしれないな。」

タカキはTPJの刺し跡だらけになっていた巨体を思い出しながら言った。

「親子だったってこと?この二頭は隠れていたけどTPJがいなくなったから出てきたのか。確かにまあ、話の筋としては通るわね。」

「じゃあ、別に人間を守るためじゃなかったってこと?」

「いや、そこはどうだろう、わからないな。人間の船を壊すだけで岸に帰るよう仕向けていたから、その気持ちもあったかもしれないし、子供たちを守るという気持ちだけだったかもしれないし。」

もはや何が真実なのかはわからないが、人々がそうであってほしいと思うように解釈されていくのだろうとタカキは感じていた。


翌日、クエストを全て完了したこともあり、三人はディサウススを後にすることにした。自分たちが出した依頼クエストの報酬(TPJの麻痺毒素材)は、また別の機会に受け取りに来るということで取り置きしてもらえることになった。すでにニーアのマジック収納ボックスにはたくさん在庫があるため、しばらくは必要ないかもしれない。

街を出てもすっきりしない感情がしこりのように残っている感じがしている。人間と魔物、必ずしも敵と味方と割り切れないという可能性が三人をモヤモヤさせていた。テイムしたモンスターは主人である人間を守るという意味ではわかりやすいが、野生のモンスターまでそんな話となると複雑である。これからもモンスターと戦う機会は数えきれないほどあるだろう。ニーアは勇者パーティ時代の経験もあるので割り切れるだろうが、シンイチは優しい性格だ、変な足かせとならなければいいが。。

つい、そんなことを考えてしまいタカキは口数が少なくなっていた。

「せっかくのリゾート地だしもう少しゆっくりしたかった?」

ニーアが無理に場を盛り上げようと二人に話を振った。

「うーん、まあそうだな。でも、ニーアじゃないけど娯楽があまりないからか飽きるってのもあるから、もう十分って感じもしたな。」

結局タカキもニーアと一緒でせわしく動くタイプじゃんと心の中で思ったシンイチだったが、それは言わないでおく。

「でしょう、私の言ったとおりだったわね。シンイチはどうだった?なんか気に入ったところとかあった?」

「うーん、砂浜は確かにきれいだったけどね。ゆっくりとしながら、たまにビーチでトレーニングとかして過ごすも良かったかも。そういやタカキはビーチ歩いていないんじゃない?」

確かニーアと二人で街の中を観光した時だったと思い出す。

「ビーチか、、そんな青春する年でもないしなぁ、、家の近くの海の公園の砂浜で充分かなぁ。」

「あんまりきれいな砂浜じゃないと思うけど、それでいいの?」

タカキの枯れた回答を聞いて苦笑するニーアとシンイチ。

「ダミアンに海がきれいで、かつ楽しい街で最高だって聞いたんだけどね。海はそうだけど、楽しさって観点だとちょっと期待外れだったわね。さ、じゃあこのまま海沿いを西に行って、シュテイン王国に入るわよ!」

ニーアの号令に従って、タカキはアクセルを踏んだ。


ニーアたちが隣国のシュテイン王国に向けて出発しているとき、大陸の半分の面積を誇るワシュローン帝国の王都で軍議が開かれていた。王との謁見の場に帝国を代表する将軍たちが並んでいる。その中でもワシュローン帝国の2大将軍として名を馳せている、ランスベルと、レインが最前面で王と話をしていた。

「ようやく準備ができたようだな。ランスベル将軍。」

「はい、陛下。この数か月間、兵士たちを鍛えあげ練度を上げてきました。準備は完全に整っております、待ち遠しかったくらいですよ。」

「ふふ、頼もしいな。内政の方で反対派を抑えるのに少し時間がかかってしまったが、ようやくだ。攻め入るのはシュテイン王国、セルディス王国、カプトル商業独立国家の三国だ。シュテインとカプトルはランスベル将軍、セルディス攻略はレイン将軍にやってもらう。」

「ラニキスとオースターリアはいいのですか?」

「ラニキスは魔族の襲撃でボロボロだ、今すぐに攻め込まずともいつでも落とせる。もうすぐ冬になることを考えると、国境となっているワシュラ山脈を越えるのもやや面倒だ。オースターリアは他の国と一緒に一度に相手にするにはちと厄介な国だ。一旦は不戦の約束をして置き、領土拡大して安定してからとなる。我が国ほど広い範囲ではないにせよ、奴らも領土の北方は魔族の脅威にさらされている。その点では我が国とは同じ立場にある、今回の戦争の動機付けとしては矛盾はないだろう。」

「なるほど、賢明な判断ですな。」

ランスベルは納得したとばかり頷き一歩引いた。そのあとすぐにレイン将軍が声を発する。

「王よ、恐れながら私からも一言進言させてください。本当に戦争を始めるのですか。北方の魔族の脅威が迫っているというのに、人族同士で争っている場合ではないのではと考えますがいかがでしょう。」

「レイン将軍、我々は、常に魔族の脅威にさらされており、人類の盾となっていつも最前線で戦っている。それなのに南方の国々はそれに胡坐をかき、のうのうと生きているのだ。わずかな対魔族義援金を支払えば済むと思っている、実に不平等ではないか。今後も魔族と対等以上の戦いを維持するためには我が国がさらに強国になる必要がある。そのための領土拡大だ、大義名分は我々にある。」

「だが、その間に魔族が攻め込んできたりした場合はどうするのです?」

これまでは2大将軍も北方の魔族の対抗として広い北方の領地を分担し守護を担ってきた。その任を解いて南方の国々に攻め込むというのだから北方の守護にかなりの影響があることは必死であった。

「そこも心配いらんよ、先日、ラニキス王国が5大魔貴族の一つを滅ぼしたという話は知っているな。それによって、魔族どももひとまず様子見をしようという動きが出ている。この先、数か月は奴らも動かんだろうよ。」

「しかし、、」

レイン将軍が言葉を続けようとしたが、それを遮るようにワシュローン王が言葉を続ける。

「それでも、レイン将軍の懸念はわしも理解しておる。念のため、そなたの軍のギュンター将軍を 征魔大将軍と格上げし、北方の魔族対策軍を編成させる。これまでの2大将軍制から、3大将軍制へと再編をすることとなる。そなたらの軍も再編成を行い、現在の12の部隊の内それぞれ4隊をギュンター将軍の配下に移すこととなる。」

「ギュンター将軍は確かに優秀ですが、まだ若すぎます。彼には荷が重いのではないでしょうか。」

「くどいぞ! 自分が育てた将軍に立場が並ばれるのがそんなに気に入らんのか、レインよ!」

「いえ、そういう訳では。。」

これ以上は、何も言えないと考えたのかレイン将軍はそのまま黙って引いた。長い髪で隠れその表情は良く見えなかった。

「よし、これですべて話は終わりだな。戦闘の開始までどれくらいかかる。」

「王都から軍を動かして国境まで1か月といったところでしょう。到着次第始めたいと思います。」

「うむ、よい戦果をきたしているぞ。レイン将軍の言う通り魔族のこともある、そんなに時間をかけず数か月で結果を出すのだ。」

「ははっ。」

謁見が終わり二人の大将軍が退出していった。

「いよいよか、私の長年の悲願である大陸統一に向けての第一歩だ。」

「楽しみですな、ワシュローン王。ところで、シュテインやカプトル商業独立国家はまだしも、セルディスは大丈夫ですか?勇者パーティも健在ですし、騎士団もしっかりしている。なかなか骨の折れる相手かと。」

「わかっておる、だからこそレイン将軍をぶつけるのだ。さっきは煮え切らない態度だったので強く言ったが、実力は間違いなく我が国で一番だ。常日頃から魔族討伐で最前線に立ち部下を守っている、ギュンター将軍など足元にも及ばんよ。しかも今回はさらに切り札も用意はしている。今輸送中だから、少し遅れての投入となってしまうがな。」

そう言って、ワシュローン王は不敵に笑った。


謁見を終え、二人の大将軍が並んで通路を歩いている。

「どうした、レイン将軍よ。そなたが王に意見を言うなど珍しいではないか。」

しわが多いその顔を正面に向けたままランスベルが話しかける。この国の中でも最年長の将軍でありながらも衰えることなく、長年頂点に君臨している大将軍である。戦いで受けた顔の傷も、しわと相まってより一層強さを引き立たせるように感じさせる。

「純粋に魔族の脅威が気になっただけだ。確かに、王の言う通り最近は魔族の侵攻が弱まっているのは確かだ、だがそれがいつ攻勢に転じるかはわからないだろう。」

「だが、王の言うことはもっともだろう。」

「確かに、帝国の現状を考えると間違ったことは言っていないが、、」

「まあ、頑張れよ!いずれにしろ我々は、帝国の剣となって道を切り開くしかないのだからな。」

「ああ、ランスベル将軍ありがとう、健闘を祈る。」

「お互いにな。」

そう言ってそれぞれの部隊がいる方向へ別れていった。


「レイン将軍、お疲れ様です。どうでしたワシュローン王との謁見は。」

「ギュンターか、思いとどまるように進言してみたが駄目だったな。そなたは制魔大将軍となり、北方の魔族対応の第一人者となることが決まった。私とランスベル将軍の部隊から4隊ずつ選び引き連れていくようにとのことだ。」

「えっ!そんな!? 私には荷が重すぎます。」

「そなたの実力は私が一番良く知っている。経験はまだ足りない部分があるかもしれないが、自信を持っていけ。4つの部隊だが、生きのいいところから連れていけ。」

「それではレイン将軍の方が、、」

「ふっ、生意気にも俺の心配か。こっちは対人間だ、どう考えても対魔族の方が厳しい戦いに決まっている。」

「それはそうですが、、」

「いいか、一つだけアドバイスだ。仮に魔族が攻め込んで来たら、無理に攻めに出ず、守りに徹しろ。状況が悪くなれば、さすがの王も私やランスベル将軍を呼び戻すだろう。」

「わかりました、そうならないこと願っています。レイン将軍もご無事で。」

「心配ない、ぬるま湯に浸かったセルディス王国軍など、吹き飛ばしてやるさ。」

そう言ってレイン将軍は出征していった。ギュンターはその後ろ姿を見送ったあと、すぐに自分の軍の編成に取り掛かる。ランスベル将軍からも4部隊譲り受けるということでランスベル将軍にも話に行った。 

「レイン将軍はもう出発したのか、相変わらずの仕事の速さだ。」

「はい、つい先ほど。ランスベル将軍、部隊編成の話は聞いているでしょうか。」

「ああ、好きなところを持っていけ。どの部隊もしっかり仕上げているから心配はいらんぞ。」

レイン将軍と同様に気前が良い。レイン将軍とは異なりどこをとっても遜色ないと自信を持っているようだ。ギュンターは4隊を選定し終えて最後にランスベル将軍にあいさつをする。

「頼むぞ、我が国のために。われらが、他国を制圧したとしても北方の守りが崩壊しては元も子もないからな。」

「はいっ!頑張ります! ランスベル将軍もご武運を。」

「ああ、任せておけ。我が力をラニキスと、カプトルに存分に味わわせてやるわ。」

そう言って鋭い目つきで笑い、そのまま去っていった。

「怖いな、ランスベル将軍は。まあ、あの二人が負けるなんて考えにくい、私は自分のことに集中しなくては。」

ギュンター将軍は見送りながらひとり呟いた。

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