第百五話 海のクエスト(1)
「ダメ、全然見つからなかったわ。」
部屋に入るなりニーアがうんざりとした声を上げた。
「あ、お帰り。駄目だったのか、お疲れ様。ちょうどおやつでも食べに行こうとようとしていたところだ、気分転換に一緒にどうだ?」
「んー、私はパス、疲れてるし。なんかお土産買ってきてー。」
「お土産は了解。で、ニーア、その手に持っているのは?」
シンイチがニーアが持っている大きな魚を指さして言った。
「ああこれ、今日の成果よ。せっかくだから宿の人に渡して料理で使ってもらおうと思って。」
「冒険者というよりも完全に漁師って感じだな。。」
逆の手に釣竿を持っていたのでタカキの言うことは的を得ていた。それでも、こんな全身鎧の漁師はいないとニーアの強い抗議がありそれもそうかという結論で落ち着いたのだった。
シンイチとタカキが出て行ったあと少しベッドで横になる。しかし振り返ってみるとやっていたことは漁師のようなことしかしていなかったかという気もしてきた。
気が付くと少し寝てしまっていて、タカキとシンイチの戻ってくる声で目が覚めた。
「お、ニーア寝てたのか、悪いな起こしちゃったか。」
「寝る気なかったのに寝落ちしてただけだから大丈夫よ。結構時間たった?」
「いや、30分くらいだな、一緒に食べようと思ってテイクアウトにしたんだ。」
「マジ?タカキさっすがー、ナイス、ありがとう!」
やはり一人で食べるよりみんなで食べるほうがテンションが上がるというものだ、タカキは自分の判断が間違いではなかったと嬉しくなった。早速三人で買ってきたお菓子を食べながら、クエストに向けた調査の詳細について説明を聞くことになった。
「じゃあ、改めてニーアの苦労話を聞こうよ。そもそも船に乗ってうろうろしていたら出てくるものなの?」
「前に失敗したっていうBランク冒険者たちはみんな船で探しに行って、それほど苦労なく遭遇したけど船底に穴をあけられて、必死に泳いで逃げ帰ってきたらしいのよ。だから船で広範囲に回っていればと思ったんだけど、、あと、血の付いた魚の切り身を餌にして釣り糸たらしてみたりもしたけど全然反応ないわね。本当にいるのかしら。」
「なんとかシャークってことだからサメ型の魔物だろ?サイズ的には結構大きいんだよな?」
「カイフォースドシャークね。通常の個体でも3~4メートル、今回の個体はその倍近い大きさって話だから、いればらすぐわかると思うのよね。」
「さすがに海に潜って探すわけにもいかないよね。」
「それはダメだな、万が一のことを考えると危険すぎる。水の中で海の生き物と戦うのは現実的ではないだろう。」
タカキがすぐに反対したので、シンイチもそうだよねと言ってすぐに提案をひっこめた。
結局、いい案も浮かばず今までと同じやり方で数日やってみようということになった。
翌日からはシンイチとタカキも加わり三人でさらに調査を進めることにした。
船に乗るとやはりテンションが上がる。
「やっぱこの船いいよね、宿じゃなくてここで寝泊まりするでもいいんじゃない。」
「夜中に襲われたどうするのよ、必要のない限りはなるべく安全に寝たくない? と思ったけど、あまりにも見つからなかったらそれもありかもしれないわね。」
二人の会話を聞き、何とか早く見つけないいけないと焦るタカキだった。ニーアの言うように安全な睡眠は何よりも優先される。
昨日のニーアがやったようにたまに釣り糸を垂らしてみるが、反応がない。ニーアがまた魚を釣り上げたくらいだった。
「タカキが海のモンスターをテイムして、水の中探させたらいいんじゃない?」
「それいいね!」
シンイチの提案にニーアも乗っかる、タカキもそれなら悪くないかもと思ったが、テイムできそうなモンスターすら出ないという状態で、そんな無味乾燥な調査が数日続いた。
「もう、諦めてもいいんじゃない。これいないよきっと。」
三人での調査から五日たった日の午後、シンイチが根を上げた。
「そんなこと言って私たちがいなくなった後にまた現れたらどうすんのよ、私たちチームの冒険者としての信用にかかわるわ。」
「ニーアの名は売れてるだけにそこが厄介だよな。」
変わりのない調査の日々を過ごし三人とも少し気持ちがダレてきていた。
一度、陸に戻り昼食を取りに行く。海鮮料理はニーアが釣った魚で食べることができたが、あくまで宿の店主のアレンジで、本格的な食事処ではまだ食べることができていなかった。
昼食も終わり、午後の調査を再開しようと海に戻る途中、港で船を整備している初老の漁師に話を聞いてみた。カイフォースドシャークに襲われたようで船の側面に穴が開いており修復中のようだ。
「今まではこんなことなかったのに、ここ数か月で状況が激変してしまったんよ。この辺の古い物語だと、昔の冒険者がサメの魔物を助けたおかげでこの辺では漁師はサメに襲われないって話もあるくらいなのに、漁に出る船が次から次へと襲われて、すっかり休業状態よ。」
「どの辺で遭遇したのか覚えていますか?」
「うーん、わしの場合は、沖に出て数分のところやね。幸い、船が沈む前に何とか戻ってこれたから命は助かったけど。他の船だと全壊になった船もあるで、ほらあそこのやつとか。」
そう言って漁師が指さしたところには、船の形をなしているとはいえない瓦礫の山が積みあがっていた。
「最近見かけ他のいつくらいですか?」
「最近はもう漁に出れる船がなくなって全て修理中だから被害は減ってるって言えるかもしれんね。まあその分収入もないんだけど。」
お礼を言ってその場からか去った。ニーアたちが来る一週間前くらいからもう漁には出ていないということだ。最後に冒険者がクエストを失敗した時期もその辺とのことだった。
午後の調査は範囲をさらに広げ、かなり陸から離れた場所までやってきた。もう陸がうっすらとしか見えない状態である。この辺は少し浅瀬があるのか岩が海面から飛び出しているところが何か所かある。少し先に小さな島も見える。
「やっぱりいないね。。」
シンイチが海面を見ながらつぶやいた時、ニーアが異変に気付いた。
「ちょっと、こっち来て!なんか変よ。」
ついに出たか、と期待してニーアのいるほうへ向かうタカキとシンイチ。しかし、サメも魔物の姿かたちは見えない。
「何もないじゃないか。」
タカキは期待した分、何もなかったことで反動が相まって、不満げに言った。
「海の色よ、なんかこことあっちの方で違うと思わない?」
確かに、少し離れたほうは少し白みがかっているようにも見える。
「光の反射とかの問題じゃないの、あるいは波とか?」
タカキもシンイチの意見に賛成だったが、とりあえずもう少し沖の方へ行ってみることにした。
近づいてみると、光の反射や波のせいではないことが明らかだった。私の言ったとおりじゃん、とニーアが得意げにしている。
「この白いのはクラゲか?」
釣竿で引き揚げようとしたがうまくかからない。二人係で竿の部分で引き寄せて何とか船の甲板の上にあげる。触手を伸ばしてきたのでニーアが雷属性魔法ライトニングをお見舞いしたところ動かなくなった。
タカキが鑑定スキルを使い調べたところ、やはりクラゲの魔物のようだ。タカキの鑑定レベルでは名前がわからなかったが、レベル的には50~60程度とそこそこの強さで、数も多くいるのでタカキとシンイチの経験値稼ぎがはかどりそうである。
ニーアがライトニングで倒した一匹をサンプルとして捕らえ一旦港に戻った。
「これは、TPJですか。ずいぶんと珍しい魔物ですね。」
ギルド職員も最初はよくわかっておらず、記録された資料と照らし合わせながら調べ上げた。
「TPJ?」
「トリポイゾナージェリー、頭文字をとってTPJと呼ばれます。通常のダメージ毒と、麻痺、あと出血毒っていう三種類の毒をもつのでこの名前がついていて、かなり昔の話ですが陸に上がってくることもあったらしいです。まあ、それぞれの毒素に対して解毒剤が開発されているから特に脅威ではなくなりましたが、、」
英語っぽい略称ですねというつっこみはこらえつつ、珍しいという発言にタカキは先ほど見た景色との違和感を覚えた。
「そんな珍しいのか?」
「そうですね、解毒剤があると言いましたが、ここ数十年の単位で姿を見せていないので、絶滅したと思われているくらいです。解毒剤自体を今はあまり作ってないんじゃないですかね?」
それを聞いて三人はピンときた。
「念のため聞くが、殺傷性のある毒なのか?」
「そりゃー魔物の毒ですからね、普通の人なら数分いや、十数分以内に治療しないと助からないでしょうね。」
すぐさま店を出て海に向かう。あの大群が押し寄せたら大変なことになる。
「一旦、サメのクエストはおいておこう。」
「ああ、そうするしかないな。」
「あの数だけど俺たちだけでどうにかできるか?応援を呼んだ方がいいんじゃないか。」
「それも一理あるわね、シンイチは冒険者ギルドに伝えてもらえる?その間に船の準備しておくから。」
シンイチはうなずいてすぐにギルドの方へ走っていった。
シンイチが戻ってきてすぐに船を出し、一時間ほどかけてTPJの大群の前まで戻ってきた。
「さってと、じゃあ掃除を始めますか。二人ともしっかりと経験値稼ぎしてよね。」
「これってどうやって倒すんだ?俺たちは雷属性魔法は使えないぞ。」
タカキが聞いた。
「ちょっと、何でも私に頼らないでよ。未知のモンスターに遭遇するたびに私に聞くつもり?それも修行の一環と思って自分たちで考えてみて。」
ニーアの言うことももっともだとタカキは反省し、シンイチと相談し始めた。
「とりあえず攻撃してみよう。」
そう言ってシンイチは甲板に上がってきたTPJを切りつける。攻撃は当たり見事に切り裂いたが、すぐにくっついてしまう。タカキも弾丸を撃つが貫通してしまいTPJには効いていないようだ。
「まいったな、物理無効なのか?」
「魔法でやるしかなさそうだね。タカキ、ちょっと下がって。」
そういうとそういうと炎属性の中級魔法フレイムバーストを放った。これは命中し焼け残った後には魔石が残っていた。
「おお、さすがだな。これならいけるか。ただ、俺の魔法のレベルだと倒すのに時間がかかりそうだな。あと、このクラゲの毒を有効活用したいんだが、ここまで燃やし尽くしちゃうと無理よな。。」
とりあえず倒し方がわかったので次々と倒していく。タカキの役目は、もっぱらおとりとしてTPJの気を引いて甲板に登らせるという微妙な仕事となった。
ニーアの方はTPJの原型が残る倒し方なので、クラゲの毒も抽出できそうだということで、シンイチは気兼ねなくどんどん燃やしていった。
結局夕方まで討伐を繰り返し、数百体は討伐しただろうか。MPもだいぶ消費したため、今日はこの辺にしようということになった。
「このクラゲたちここにずっといるのかな?」
シンイチの素朴な質問にタカキもうなずいた。
「それはいい視点だな。ここでずっとゆらゆらしていてくれるならまだいいが、陸の方に迫ってくるとなると、、今日はいったんここまでにしてまた明日様子を見よう。あの浅瀬の岩が目印だな。」
タカキが指さした岩とクラゲの距離は数メートルというところである。
「クラゲの方があの岩より少し沖の方にいるってことね、オッケー。」
その後、陸に戻り討伐したクラゲをギルドに見せたところで職員たちもようやく信じてくれたようだ。ただ、冒険者の手配には数日かかるという点と、船がないということが問題となりそうだった。
「あの漁師のおじさんたちに手伝ってもらったら?」
「シンイチ、それはいい考えね、ギルドから謝礼を出す形にしてもらって。そしたら、漁師の人の収入も増えて一石二鳥じゃない!」
「ちょっと、勝手にそんなこと決められませんよ。予算の問題もあるんですから。」
ギルドの職員が釘をさす。
「じゃあ、私が依頼を出すわ、それなら文句ないでしょう?」
「それはそうですが、、」
言い淀むギルド職員に依頼の報酬用の金貨を渡す。
「こんな時にたらたらやっている場合じゃないのよ、明日にでも依頼を出しておいてよ。冒険者が来たらすぐに海に出れるようにしておいて。」
そう言って三人はギルドを後にした。




