第百四話 リゾート都市
王都を出発した三人は、徒歩で王都からある程度離れてからタカキの車で移動することにした。
「いやーやっぱ楽ちん!」
シンイチが嬉しそうに声を上げる。
「楽なのはいいんだけど、エアコンつけてほしいわ。」
ニーアは少し不満そうに声を上げる
「ぜいたく言うなよ、外の風が入ってくるからいいだろ。」
「うーんちょっと、微妙、、砂埃も舞うし本当は密封された空間にしてほしいところよね。シンイチ、氷魔法でエアコンみたいに何とかならないの?」
ニーアがシンイチにけしかけるのでタカキもあわててストップをかける。
「わかったわかった、いずれ考えてみるよ。車内での魔法はご遠慮くださいだ、とりあえず今日のところは我慢してくれ。必ず改善するからさ。」
耐魔法性能など付与していないため、せっかく作った車を壊されてはたまらない、そう考え二人を制止したタカキだったがまた新たな宿題を背負うこととなった。
数時間のドライブのあとで、昼食をとるため川のほとりで車を停める。
「よし、いったん休憩だ。この辺だと水もあっていろいろと便利だろう。」
「なんかキャンプみたいでいいね。」
「私はじゃあご飯の支度をしているわ。」
他の人がいない郊外のため、全身鎧の装備を外しているニーアが言った。
「この辺で少し魔物を狩ろう、さっきホークの視覚共有で群れがいるのを見つけたんだ。」
「タカキがやる気なんて珍しいね。」
「この前も話したけど、この車は魔力で走っていてな、魔石でも代用できるんだ。普段であればMPが豊富な君たちが入れてくれるからいいんだけど、魔力の無駄遣いができないときとか、魔力が枯渇しているなんてピンチの状況もあるかもしれないだろ。そういう万が一に備えて魔石でちゃんと動くかも試しておきたいんだよ。そのために魔石確保も兼ねての魔物討伐ってわけだ。」
「ふーん、まあいいよ、じゃあ早速行こうよ。どうせニーアにリハビリとか言って強制的に戦わせられると思っていたから。」
「じゃあ気を付けてねー、おいしいご飯作っておくから。」
タカキとシンイチが鉢合わせたのはスカルディアという鹿に似た魔物の群れだった。Cランクモンスターで今の二人だと楽に倒せるレベルである。タカキは直接狙うパターンと跳弾をうまく組み合わせ次々と命中させて魔物を倒していく。
「タカキすごいね、もうほとんど完璧じゃん。」
直接狙う弾丸だと躱されることがあるが、跳弾だと死角から飛んでくるためこのレベルの魔物だとほとんど反応すらできずに命中する。
「まあな、ホークとの視覚共有のおかげか、モンスターが次にどう動くか何となくわかるようになってきたんだ。でもまだ、銃の使い手としてこんなもんじゃないと思っているんだ。ちょっといろいろと試してみたいことがあるんだが、俺一人ではできないんだ。日を改めてシンイチにも手伝ってほしんだけどいいか?」
「了解、じゃあ今度やってみよう。タカキが強くなるのはパーティにとっていいことだからね。」
「それニーアの受け売りだろ。」
笑ってタカキが突っ込むと、シンイチもつられて笑う。
十数頭のスカルディアを討伐し、ニーアのいるキャンプ地に戻った。
食事のあとさっそく入手した魔石を車の燃料タンクに当たる部分に詰め動かしてみた。問題なく動くことを確認しタカキも満足そうに笑みを浮かべる。
「これってどういう仕組みなの?現実世界のハイブリッドカーみたいな感じ?」
「うーんまあ、細かくは説明しないが、普通の車のハイブリッドとはちょっと違うかな。現実世界のは電気とガソリンという全く異なる動力源に対して、これは魔石に残った魔力を抽出してそれを燃料にするって感じだから、結局は魔力なんだ。」
「じゃあ、魔石も数よりも質って感じなんだね。」
「ああ、そうだな。弱いモンスターの魔石でもあとから魔力を注入して質を上げることもできると思う。この間魔石の弾丸を作ったみたいに特に属性魔法じゃなくてただ魔力を注入するだけでいいんだ。暇なときに魔石に魔力をこめてもらえると助かる。もちろん俺自身もやるけどな。」
翌日の午後、ようやくセルディスの南方の街、ディサウススに到着した。高い建物はなさそうだが、海岸線に沿って広く広がった街で、遠くに街並みが見えた時点で車をマジック収納ボックスにしまい歩いていくことにする。
「あっついな、さすが南国だ。」
汗をぬぐいながらタカキが愚痴をこぼす。それにつられてニーアが思い出したように言った。
「エアコン早くしてよね。」
「わかったわかった、その全身鎧だとしょうがないような気もするけどな。でも日差しは強いけど、乾燥しているからそこまで嫌な暑さじゃない、どっちかというと任本よりはハワイみたいな感じだな。」
「いいなーハワイ。ずるいよ、僕も行きたい。」
「俺が行ったときは仕事だったんだよ。夏休みとかでみんなで行けるといいな。」
「言質取ったわよ。」
ニーアも横から割り込んできて話に加わった。
やれやれ、現実世界でも宿題を負わされたな。そう思いながらタカキは少しげんなりした。
三人はそのまま宿に向かい、まずは寝床を確保しに行く。
「おっ、あれってゴムの木じゃないか。野生なのか?ちょっと宿の人に聞いてみよう。」
宿の前に着いた時、タカキが気づいた。
ニーアが部屋の予約を確保している横でタカキが隣に生えているゴムの木について確認すると、誰かが管理しているものではなくどうやら野生のものとのことだった。
「ゴムの木なんかでそんな騒ぐ必要あるの?」
「実はちょっと思いついたことがあってな。シンイチはいなかったけど、この間、勇者パーティメンバーのアストレアと模擬戦をやったんだ。そのとき、どうしても負けられなくて、相手との力量差もあったから銃を使わざるを得ない状況だったんだが、ニーアにこっぴどく叱られてな。」
「あーなんか、戻ってきたときニーアとタカキ、目を合わせてなかったもんね。」
「そうなんだよ、だからゴム弾を作ればそういう対人戦で相手を傷つけることなく制圧できるんじゃないかなと思ってな。」
「そんなうまくいくのかな?」
「んー、まあ色々調整しながらだなぁ。試し打ちして弾の硬さを調整して、致命傷にはならないけど動きを制限できる強度みたいなところを見つけられないかなと。」
ニーアとシンイチは部屋で一休みした後、冒険者ギルドに受けたクエストの情報収集に向かった。タカキはその間一人、ゴムの樹液採取に勤しむとのことだ。
ニーアとシンイチがギルドから戻ってきてもまだ採取し続けていたため、二人は再び外に出て観光がてら街中を散策することにした。
「ここは勇者パーティ時代に来たことあるの?」
「正直あんまりないわね、リゾート地だからね。」
「確かに、みんな明るいというか、楽しそうにしているね。」
「魔族の居住地(帝国領のさらに北側)から一番離れているから治安もいいのね。それが、あんな依頼が入っているなんてやっぱ海は油断できないわ。」
先ほど冒険者ギルドで聞いた話を思い出す。どうやら、海の魔物 カイフォースドシャークに困っているようだった。本来であればBランクモンスターであるが、強化個体らしくBランク冒険者パーティーが何組か挑戦したものの失敗が続いたため、依頼自体がAランクに格上げされたというわけである。
海岸に着くと砂浜が広がっており、海水浴を楽しんでいる人々が何組もいる。ただ、海には入らず砂浜でゆったりしているだけである。
「普段だともっと多いらしいけど、今は魔物騒ぎで観光客も10分の1以下ですって。」
「これの十倍の人がいるってちょっと想像できないけど。。」
「そうね、でも砂浜に沿って大きめの宿がいくつも並んでいるから、ピーク時はやっぱすごいんじゃない?」
「ビーチで座るスペースもなくなりそうだね。」
砂浜は1キロ程度続いており、ニーアの言う通り大きめの宿が等間隔に連なっている。
しばらく砂浜を歩いた後、街の中で一番にぎわっているという通りに行った。
「王都とかと比べると規模は小さいね。」
シンイチは少し期待外れといった感じの声を上げた、ニーアも同じ感想である。事前に聞いていたおいしいと評判のレストランも見に行ったが、観光客がいないせいか休業の札が下がっていた。
しばらく散策した後、宿に戻るとタカキは既にゴムの採取を終えて部屋に戻ったようだった。部屋に入るとタカキはさっそくゴム弾の製作に着手していた。
「うーんこれじゃあだめか、威力が弱いか。」
「めちゃめちゃ念入りに考えているじゃん、どんだけ対人戦やる気なの?」
「いや、そういう訳じゃないんだが、これが使えないと近接戦闘でCとかDランク冒険者並みの実力だからな、すぐやられてしまう。銃が使える、使えないっては俺にとっては死活問題なんだよ、これがあるからAやBランクの相手とも渡り合えるわけだし。」
「まあ、気持ちはわかるけど。。」
「いいんじゃない好きにやらせておけば。シンイチご飯食べに行こ。タカキの分はルームサービスお願いしておくね。」
「ああ、ありがとう。それで頼む。」
結局タカキはその日の夜遅くまで試行錯誤を繰り返していた。
翌日からタカキのゴム弾の調整が始まった。シンイチがその手伝いで、ニーアは先に一人で海に出てクエストの対象となっている魔物が出そうな場所を調査することになった。ギルドの情報では、目撃情報は多々あるものの正確な住処がわかっていないということだったためだ。
「とりあえず調査だけだから問題ないわよ。遭遇しても逃げるし。」
もう少し待ってくれたら三人で行けるというタカキの説得も届かず、さっそうと出て行った。他にすることのないこの街で、ただ待っているのがしんどかったのだろう。
「ニーアはワーカーホリックだなぁ。もっと気を張らずにやってもいいだろうに。」
タカキがボヤいたが、すぐに気を取り直した。
「まあいい、俺が心配するほどやわじゃないか。Sランクモンスターと戦うわけでもないしな。じゃあ早速始めよう。昨日10種類くらいの弾丸を作ったんだ、柔らかい方から試してみよう。」
「僕はどうすればいいの?」
「手とかで受けてみてくれないか、なるべくケガしなさそうな部分で。」
「えーなんかやな役だなぁ。」
文句を言いながらも引き受けてくれるようだ、左手伸ばし小さな盾を持って構えた。
「よし、行くぞ。」
タカキは次々と弾を入れ替えてシンイチの盾に向かって試射していく。結局四段階目までの弾丸では痛さは伝わるが、相手の動きを封じ込めるまではいかないという結論になった。五段階目の弾丸でシンイチが持っている盾を吹き飛ばした。
「これはずいぶんと重くなったね、さっきまでとは別物だよ。」
シンイチも驚く。
「基本はゴムと細かく砕いた鉱石を混ぜて作っていて、その割合を変えているだけなんだけどな。ここからは鉱石の比率が上がっているんだ。」
結局七段階目のゴム弾では相手に致命傷を与えかねないという結論になり、五か六段階目の配合比率にするという結論になった。検証を終え、満足そうなタカキとは対照的にシンイチが悩ましいといった表情を浮かべる。
「うーんでもなぁ、確かにダメージは大きいんだけど、これが一発、二発当たったところっでAランク冒険者の動きが止まるかっていうと難しいかもしれないよね。もちろんダメージは大きいしうまくいけば骨折とか、弾丸の速さに全ついていけなくて戦意喪失ってのはあるだろうけど。それを苦にせず距離を詰めてくるっていう冒険者も多いんじゃないかなって。」
「それは、そうなんだよな。。高ランクになればなるほどそうなると思う。クワッドヴァルキリーのシュッタウとかジェイミーのような近接タイプだと抑えきれない気もするのは確かだ。」
「ちょっと発想変えて、麻痺弾みたいのは作れない?当たったら体が動かなくなるような。」
「麻痺か、悪くないな。ただ、麻痺耐性とか持っていたら効果なくないか。」
「じゃあ、雷属性を付与して感電させるとか?」
「それだと製造コストが、、、」
そんな議論を繰り返し案を出し合った結果、強度六段階のノーマル弾と強度五段階の弾丸の中に針を忍ばせて麻痺を付与する弾丸、雷属性を付与した小さな魔石を強度五段階のゴムでコーティングする弾丸の三種類を作ることになった。
「麻痺はどうするか、、魔法で付与するかなあ。」
「ちょうど目の前が海だし、クラゲの魔物とかいないかな?」
「あ、それいいな。明日からはクラゲ狩りだな。」
そんな計画を立てて盛り上がっていたところに、見回りに行っていたニーアが戻ってきた。




