第百三話 飲み会
どうしてこうなったんだ。。
タカキはテーブル越しに座っている容姿の整ったエルフの勇者を見ながら思った。酒場の個室で一対一でアストレアと飲み会中である。
「さ、乾杯しましょう。」
にこやかに笑いかけてくるアストレア、タカキも笑顔を作ってみるがうまく笑えているか自信がなかった。
模擬戦の終了後、疑ったお詫びということでアストレアから食事に誘われた。最近は政治がらみの堅苦しい会食ばかりなので、気楽におしゃべりしながら飲み食いがしたいというのも理由の一つだったらしく、城下町の居酒屋で飲みたいということで急遽部屋を取った。本当はニーアとシンイチも一緒のはずだったが、急遽ギルドからのA級冒険者ニーアへの指名依頼が入り、二人はそちらの対応をすることになってしまい今に至っている。タカキが一人で参加となった経緯を説明したがアストレアは気にしていないようだ。
「それなら仕方ないわ、ちょうど二人で話をしてみたいと思っていたし。最初はちょっと怪しい人だと思ったけど、よく見ると優しそうで人の好さそうな感じよね。さすがアイの父親って感じ。」
あからさまな、お世辞でタカキとしても背中がむずがゆくなってしまう。
「もういいよ、あれはこっち側がちゃんと情報を伝えなかったのが悪かったんだから。俺だって、事前に説明を受けていない人とアイが親しくしていたら、どんな奴だ?って疑った目で見ることもあるだろうし。」
「そう、それならよかったわ。それにしても親と一緒にいるところを見られたくないなんて、アイったら幼いところがあるのね。」
楽しそうに言いながらグラスのお酒を飲み干す。タカキがすかさず酒を注いだ。
「最近さ、俺に冷たいんだよな。さっきの模擬戦のときだって、飛び蹴りした後は話も聞いてくれなかったし。」
「アイも年ごろの女の子ってことなんじゃない。ねえ、アイは小さなころはどんな子だったの?」
どうやらアイのいる場では聞けない昔話を聞きたかったらしく、しばらくはそんな話題で盛り上がる。
その後、話は変わって、セルディス王国の情勢に移る。
「実は、勇者パーティも五人のうち二人が行方が分からなくなっているから、帝国の抑止力という観点では万全といい難くなってきているのね。アイも居場所は何となく連絡もらっているけど王都にはいないじゃない。あ、それを責めているわけじゃないわ。ただ、見えていないところで勇者パーティのメンバーに近寄ってくる他の人に対してはどうしても慎重にというか疑り深くなっちゃうのよね。」
「なるほど、シュテイン王国との会談で、頑なに勇者派遣を拒んでいたのはそれが理由か。」
「ええ、そういうこと。正直、言っていることはシュテインの国王の方が道理が通っていると思うけど、正論だからと簡単に呑み込めない理由があるってわけ。」
なかなか切実な状況だなと思う。アイは自由にさせてもらっているのに他のメンバーを無理やり縛り付けるというわけにもいかないだろうし。タカキは黙って聞きながら思いをはせる。
「それで、あなたたちにお願いなんだけど、どこかで、アンナと、トォーリィを見つけたらセルディスに戻ってくるように説得してほしいのよ。」
タカキとしては意外なお願いだった。てっきり、しばらく王都にとどまるようにアイを説得してくれといったようなことを言われるのかと思っていたためだ。
「トォーリィってのはアンナを探しに行っているだけなんだろう?それなのに報告がないってことか。」
「そうなのよ、アンナはともかく、トォーリィは途中経過の連絡くらいよこしなさいっての。もう、半年くらい音沙汰なしなのよ、どこで何やってるんだか。」
アストレアはまた怒りを思い出したかのように語気を強める。
「まあ、見つかっていないと連絡もしにくいというのはわかる気もしなくはないが。。」
特にアストレアのこの剣幕で迫られたら、、と思ったがそれは口にはしない。
「見つけたらってのは、アイ、ニーアに言ってもいいんだよな?俺は二人の顔もわかっていないし。」
「ええ、もちろんよ。二人を知らないあなた一人で探しては無理があるのはわかってる。ただ、ニーアの旅を邪魔したくないって気持ちがあるのも本当なの。だから直接ではなくてあなたにお願いしたってところもあるわ。あの子、真面目だからが私が直接お願いしたら、やりすぎなくらい一生懸命捜索するでしょう。」
「それは確かに。でも、本当に早く見つけたいならその方がいいんじゃないのか?」
タカキの問いにアストレアは首を横に振る。
「そうではなくて、他に旅の目的があって、ついでに見かけたら位でいいのよ。」
アストレアはそうは言っているが、帝国の不穏な動きもあり内心は切実なのかもしれない。そんな心の機微をニーアに悟られてしまうことも想定して俺に話を持ってきたのではという気がした。
「わかった、それほど重い話ではないけどという感じにしつつアイと話してみるよ。」
「ええ、お願いするわ。さってと、もう仕事の話はやめにして飲み直しましょう。」
アストレアが気持ちを切り替えたようにパっと明るくなった。
「まだ飲むのか?俺はもうかなり出来上がっているが、、、」
「何言っているの?まだ飲み会の序盤よ。」
そのあともプライベートな話題で盛り上がり、飲み会は深夜まで続いた。
翌朝、タカキは記憶があいまいな状態で目が覚めた。どうやら自分の宿に戻っているようだが、どうやって戻ってきたのか詳細を思い出せない。実家だと最寄り駅までの終電が、、などと気にしないといけないが、この世界では徒歩圏内で完結できるからその点は助かる。ニーアとシンイチも無事に戻ってきていてまだベッドで寝ていた。
しばらく考え事をしているとニーアとシンイチが起きてきた。
「おはよう、昨日は遅くまでお楽しみだったようだね。」
「酔ったら、キュア系の魔法で解毒して飲み直してを繰り返していたんだ。アストレア自身はお酒に強いのか俺ばっかり治癒されていた気がするけど。そんなことやっていたら、なんか途中からおかしくなっちゃって、、アストレアは自分が満足したら、最後はキュア掛けてくれなかったし。。。」
「そうなの、でもアストレアが楽しんでくれたのなら目的は達成できたんじゃない?」
「まあ、そうだな。それより、次の旅の目的を考えよう。いつまでも王都に滞在ってわけにもいかんだろう。」
「あら、奇遇ね。私たちも同じことを話していたの。王都でゆっくりとしていても結局、昨日みたいに指名依頼とか来てゆっくりできないかもしれないし。次はセルディスの南にある街に行って一つ依頼をこなしてから、そのまま西のシュテイン王国、さらにその向こうにあるシギャラス三国を目指すわ。」
「お、聞いたことがない国が出てきたな。」
「なんか三つの小さな国がくっついているみたいだよ。小さなといっても、一つ一つは本州くらいの大きさはあるみたいだけど。昔は一つの国だったけど、三つに分かれてそれぞれを兄弟で国を治めているんだって。」
横からシンイチが口をはさむ、昨日のニーアから聞いた内容のようだ。
「なんかきな臭いな。内紛で国内が荒れていたりしないのか?」
「大丈夫みたいよ、何年か前に行ったときは既に三つの国に分かれていたけど、そんな争いとかなく落ち着いた雰囲気だったし。」
「そうか、じゃあ、特に反対することはないな。」
「一応、ワシュローン帝国のスパイが各国に入り込んでいないかって目的も兼ねているから、いろいろな国を見て回りたいなってことで。予定では2,3か月でまた戻ってこれると思うし、まあのんびりしつつ当初の目的を忘れず調査って感じ。」
方針が決まり、旅の準備を数日したのちに新たな旅に出発したのだった。
ワシュローン帝国の西に位置する大国、オースターリア王国の小さな町のとある酒場、Sランク冒険者のスタークはカウンターで飲んでいた。
はぁ、とため息をつく。ダミアンたちがラニキス王国で魔族の一派閥を壊滅したというニュースがここオースターリアにも届いていた。
「くそ、ダミアンめ。抜け駆けしやがって。。」
大きな功績を上げたということではなく、ニーアたちと一緒にというところに憤りを感じていた。自分は、国からの指名依頼で縛られていたため、もう数か月会っていない。最近、全身鎧を装備した冒険者を見るとつい目で追ってしまう自分がいた。先日、ようやく依頼を片づけ少し休暇を取ろうと思った矢先にその情報を聞き、もう少し依頼の完了が速ければ早ければラニキス王国まで行ってやろうかと思ったほどだ。
「しばらく姿消すのも悪くないか。」
働きづめは良くないとわかっているが、スタークの見た目も相まって貴族や国からの人気が高く、依頼が絶えない日々が続いている。ここにいるのもその一環であった。
「スターク、どうしたの。元気ないじゃない。」
そう言って隣の席に腰を掛けてきたのはSSランク冒険者、最強の7人の冒険者、ウェルテクス・セプテムの一人、雷帝アイーダ・ゴメスだった。
「ああ、君か。働きすぎでストレスがたまっていてね。」
「あら、私がいろいろと相手をしてあげてもいいわよ。」
露出の多い服装で挑発してくる。お酒を飲みながら横目でスタークを見つめる。
「君と付き合ったら、けつの毛までむしられてしまうよ。」
アイーダは別名、富の女王 リッチクイーンと言われており、お金に執着していることで有名である。報酬の高い高難度クエストを狙い撃ちで次々と攻略していったことで、短期間でSSランク冒険者まで上り詰めた。SSランクになったことで、指名依頼が来るようになったが、その依頼のほとんどは大国の国家予算の数か月分に相当するほど高額なため、本人が依頼を受けるのはレアなことになっていた。
「つまらないわね、あなたくらいの男だったらほんとによかったのに。はい、これ、次の依頼よ。」
「君が依頼を受けるなんて珍しいな、かなり高難易度なものってことか。」
スタークはそうって依頼書を受け取った。アイーダが依頼を受けるということはイコール高額報酬、高難易度という論法である。
「そうね、決して簡単じゃないわ。けど、あなたとだったらいけると踏んでいる。うちの高ランクのメンバーが出払っていて使えそうなのが残っていなかった、っていう背景もあるけど。」
うちの人間というのはアイーダの組織するクラン、エクストリームサイトのことだ。アイーダを筆頭にSランク冒険者三名、Aランク冒険者五名が所属しており、規模は大きくないもののメンバーが全員Aランク以上という、世界最高峰のクランの一つである。そのメンバーの中で依頼ごとに数名でパーティを組んで依頼をこなしているが、今回のように外部の人間と臨時パーティを組むこともある。当然、選ばれたものしか組むことができないため、エクストリームサイトと合同パーティを組むというのはフリーの冒険者にとって一つの栄誉となっていた。
Aランクでもお荷物になりそうな依頼ってことかよ、、スタークは内心うんざりしたが、どうせ指名依頼で断れない。依頼書を見ると拘束期間も長そうだ。
「やっぱ、不公平だよな。。」
スタークはつぶやき、残ったお酒を飲み干し立ちあがった。




