第百二話 証明
夜遅くまで続いた会食がようやくお開きとなり、自分たちの宿に戻ってきた三人は一息ついた。
「もう12時過ぎてるよ、眠いよー。。最後はボーっとしているだけだったし。」
目をこすりながらシンイチが訴える。
「はは、そうだな。さすがのシンイチもずっと食べ続ける訳にもいかないもんな。今日はもう寝な。」
タカキがねぎらうと、シンイチは寝る準備をしてすぐにベッドにもぐりこんだ。
「こんな遅くまで飲み食いしたのは久しぶりだな、前の会社で三次会に参加した時以来か。やっぱ、日本酒が飲みたくなるな。」
ふと現実世界のことを思い出す、今の会社は特殊で全体の飲み会など皆無だ。タカキ自身、それほどアルコールに強くなく、外でお酒を飲み歩く習慣はないため会社の全体の飲み会以外で遅くまで飲食するのはかなりレアである。
「ニーアもお疲れ、いや、今日はアイだったか。どうだった、久々の勇者ムーブは?」
「お疲れー、チョー疲れた。。堅苦しいったらありゃしないわよ、何とかして自分たちに陣営に引き入れたいっていう、欲望にまみれた人達ばかりでいやになっちゃう。アストレアは毎日あんなのを相手にしていると思うとやっぱ偉いわね。」
「勇者様は大変そうだな、でもこれでお勤めは果たしたからしばらくはまたのんびりと旅ができるんだろう?」
「まあ、そうね。その点を考えたらよかったと思うしかないかな。そういや、アストレアと何か話していたでしょ、あれはなんだったの?」
「いや、なんか俺のことをいろいろと聞かれたよ。どうしてニーアのパーティに入ったんだとか。」
「あら美人と話ができてよかったじゃん。アストレア、美人だったでしょ?」
ニーアが冷やかし気味にタカキに問いかける。タカキはうんざりした表情を浮かべた。
「なんもいいことなんかなかったぞ、ほとんど尋問だぜ。いくら美人でも初対面であのきつい当たりはなあ、、」
「へーそうなんだ。アストレアが人にきつく当たるなんてあんまり見たことないけどなー。なんか失礼なこと言ったんじゃないの?」
「いや、そんなことは言ってない、、はずだが。。。」
タカキは必死に会話の細部を思い出そうとするが、やはり怒らせるようなことを言った心当たりがなかった。
「まあ、人によって怒るポイントはそれぞれだからわからないわよね。エルフって種族的なことについてなんか言ったりしてない?」
「そんなこという訳ないだろう、俺はどちらかというとエルフ支持派だぜ。」
エルフ支持派ってなんだろう?と自分でも思いながらも、タカキとしては否定的な印象は持っていないとアピールをする。
「そういえば帰り際に、明日、王城へ三人で来てくれってアストレアに言われたのよね。特に、王族とかへの謁見ではないらしいのだけど、何の用なのかしら?」
タカキは非常に嫌な予感を覚えた。
「まあ実質もう今日だけどな、ちょっとやめておかないか? 会談の疲れもあるし。」
「あら、そんなに疲れた?タカキなんて、会議のときはただ座ってて、パーティのときも食べていただけじゃない。私は会食時にいろんな人の相手をしないといけなかったから疲れたけど。」
確かにニーアの言う通りで反論ができない。とりあえずゆっくり休んで起きてから考えようということになった。
翌朝、タカキは階下の騒がしさで目を覚ました。遠くから足音が聞こえてくる、そして、部屋の前で止まった。
「ちょっと、タカキさん、お客さんが来ています。」
宿の主人がわざわざ部屋の前まで呼びに来たようだ。
誰だ、こんな朝っぱらから。タカキは少しムッとしながらもドアを開けた。宿の主人の他に二人の兵士が付き添いで来ている。
「ご連絡ありがとうございます。でもこんな朝から誰でしょうか、相手の名前を聞いていますか?」
そういうと、宿の主人の後ろにいた兵士が前に出てきた。
「おはようございます、アストレア様の命によりお迎えに参りました。」
城の使いという兵士が無表情に言った。タカキはぎょっとする。
「ちょっと早くないか、まだシンイチは寝ているんだが。。」
「逃げられるわけにはいかないのでしっかり確保するようにとのことでしたので。もしもニーア様やシンイチ様がお休みのようであればタカキ様だけでも良いとのことです。」
相変わらず無表情である。こっちが行くのをやめようと考えていたのを見透かされたようでタカキはどきりとした。
「わかった、わかったよ、準備するから待っててくれ。」
一度ドアを閉め、準備を始める。
「アストレアからのお迎えだって?ずいぶんと早いね。」
ニーアが目を覚ましたようで声をかけてきた、シンイチは昨日の夜更かしが効いたようでまだ寝ている。
「ああ、起きてたか。俺だけでもいいって言ってるぞ、逃げても追いかけて来そうな勢いだからちょっと行ってくるよ。」
「え、じゃあ私も行くよ。どんな用なのか興味があるし。」
シンイチにはメモ書きを残し二人は出迎えの馬車に乗り王城に向かった。
城に着くと、馬車の降り場ですでにアストレアが待ち構えていた。
「良く逃げずに来たわね。」
逃げたってどうせ捕まえに来るんだろ、と思ったが言わないことにする。場所を移動して、城の中の広場に出た、普段兵士が訓練をしている場所だろう。
「それで、今日はいったいどういう用なんです?」
タカキは努めて冷静になるよう質問したが、それでも少し言葉にとげが残る。
「あなたが若いニーアとシンイチをだまし、利用している疑いがあるのでその調査よ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ、アストレア。タカキは私たちをだましたりなんかしていないわよ。だって、、、」
ニーアが慌てて間に入ろうとするが、それをアストレアが遮る。
「ニーアは、黙っていて!すでにあなたはうまく言いくるめられているようだから、わからないのよ。ここで目を覚まさせてあげるわ。」
そう言って再びタカキを睨みつけた。
なんだか厄介なことになってるなと思いつつも、勘違いがここまでくるとタカキはだんだんと面白く感じてきた。
「じゃあ仮に俺が二人をだましているとして、どんな風にそれを証明する気だ?」
「あなたは強さを全く感じない、だから模擬戦でその実力を見せてもらう。ニーアたちと肩を並べるほどの力がないと証明された時点で、あなたは二人の戦闘能力を利用しているって証明になるわ。」
なるほど、尋問とかであぶりだすのではなく、脳筋だったか。まあ、それで済むならいいか、圧勝してびっくりさせてやろう。ニーアやシンイチほどではないにせよ、そこそこ修羅場はくぐってレベルも上がっている、周りを見る限り騎士団長クラスはいないのでいい勝負ができるだろう。
「で、誰が相手をするんだ?」
「もちろん私よ。」
「えっ!」
ニーアも驚き声を上げた。てっきり騎士団の兵士のだれかが相手なのかと思っていたが、状況が大きく変わってしまう。
「あなたが二人を不正に利用していたことが証明され次第、私の権限で処刑するわ。」
、、、ちょっと極端すぎる、シャレにならんな。タカキは少し慌てるが、表情に出ないように努める。何か良い作戦を考える必要がある、少しでも考える時間を稼ぐべくタカキは質問を始めた。
「勝負の形式を確認したい、戦いは三本勝負か?」
「何を言っているの?戦いに二回目、三回目なんてないわ。」
「同感だ、じゃあ一本勝負だな。勝敗はどうやってつける?」
「相手が立てなくなるか、参ったと言えば終わりじゃない。」
「それに加えて、どちらかの攻撃手段、武器がなくなったら、終わりにしないか。実質負けと一緒だろ。俺は別にこぶしを武器に戦うわけじゃないし、多分あんたもそうなんだろう?」
少し考えて、アストレアは「いいわ」と了承した。よし、ここまでは想定通りだ。
「魔法は?」
「使ってもいいわ。まあ私は使わないけど、それくらいのハンデはあげましょう。もういいでしょう、さっさと始めるわ。」
アストレアに促され、仕方なく武器を選ぶ。タカキは、短剣を模した木刀を両手に持った。
「ほう、二刀流か。」
そう言いながらアストレアは一般的な片手剣のサイズの木剣を選んだ。
「まあ、俺の専門じゃないんだけどな、短い方が扱いやすいんでな。」
「始める前から負け惜しみとは、情けないぞ、それならば専用武器を選んだらどうなんだ。」
「まあ、いいさ、負けたとしてもこれを言い訳にすることはないさ。」
「ずいぶんと余裕だな、だからと言って手加減してもらえると思うなよ。行くぞ!」
開始の合図も特になくアストレアがタカキに切りかかってくる。
アストレアの速い斬りこみに対して、タカキは二本の短剣を交差して受け止める。
「よく受け止めたわね、まあこんなもので終わっては面白くない。」
「へへっ、そいつはどーも。」
剣を受け止めたのは良かったが、そのまま力で押し潰されていく。タカキは一気に力を抜き距離を取ろうとしたが、アストレアは距離を開けさせず踏み込んできてさらに一太刀浴びせてきた。
「ぐはっ!」
タカキが吹き飛ばされたがすぐに立ち上がる。かろうじて受け止めたが痛みが残っている、完全に凌げていないのは明らかだった。さらにアストレアの追撃はやむことなく、連続で切りかかってきた。必死に両手の短剣で捌くがボディがガラ空きになっていたらしく、みぞおちに蹴りを食らい再び大きく吹き飛ばされる。剣術だけの問題ではなく、戦闘経験が違いすぎる。おいおい、ニーアから聞いた話だと、全然戦闘訓練してないから体がなまっているってはずなのに、この動きの切れか、やはり勇者パーティのメンバーだけあってやばいな。そんなことを考えながらもなんとかチャンスを待つべく戦い続けるタカキ、休む間もなく次から次へと仕掛けてくるアストレア、ニーアも心配そうに見守っている(とは言っても昨日の勇者姿とは異なり、全身鎧のため顔の表情は見えないが)。
タカキは何とか斬撃をそらしているものの、完全にはかわせず、何度も木刀が体のいたるところに当たっていた。
「私がその気なら、いや、これが模擬戦でなければとっくにあなた終わっているわね。」
「いやあ、戦場では強力な防具をつけているから軽い怪我くらいで済んでいるかもしれないさ。」
「口が減らない詐欺師ね。」
アストレアは怒りに任せて突進して、剣を振り下ろす。
よし、少し頭に血が上って、攻撃が単調になったなタカキがそう思って先ほどと同じように両手の短剣を交差し受け止める。
次の瞬間、アストレアは剣を緩め素早く引いて、急に突きに変えた。連続付きを左肩から腕にかけて何発も受け、腕がしびれて思わず左手のナイフが手から落ちる。そのナイフをアストレアが踏みつけ折ってしまった。
「くそっ、冷静じゃねえか。」
「あなたごときに熱くなるはずはないわ。本当ならあなたの左腕はもうなくなっている、武器も一本になって次で終わりかしらね。」
そう言い終わると再び素早い動きから距離を詰め切りかかってくる。タカキは何とか反応してアストレアの斬撃を受け止めた。わざと吹き飛ばされるような形で距離を取り初級魔法も放つことでけん制し、なんとか時間を稼ぐ。すぐに魔法も見極められたが、左手の感覚が戻ってくるには十分な時間だった。
「往生際が悪いわね。魔法の威力も並以下、やはり力がないのは明白ね。」
再び、剣と剣の競り合いのような形になるが、やはり先ほどと同じように力で押されタカキが追い詰められる。力で押し負けながらもつばぜり合いの形から何とか剣を下向きにすることができた。アストレアが体術で引き離そうとしたとき、タカキがマジック収納ボックスから銃を取り出し足元に向けて三発打った。一発はアストレアの木剣を打ち抜き、残りの二発はアストレアの足をかすめた。
「!!!」
アストレアが顔をしかめ距離を取った、手に持った折れた木剣を見つめている。弾丸がかすった太ももと足のすねは、切り傷のようになり出血している。
「お言葉に甘えて俺の専用武器を使わせてもらったぞ。これでどうだ、俺がその気だったらあんたはとっくに死んでるぜ。武器も破壊したし俺の勝ちだな。」
「ウソ、、油断したわ、もう一回よ!」
「いや、いや、勝負に二度目はないんだろう。勇者様ともあろうものが、最初の約束を違えたりはしないよな?」
「ぐっ、、仕方ないわね、、認めるわ。ほんとに強かったのね。」
悔しそうな表情だったが、潔く負けを認めるアストレア。
きれいに締まったな、二回戦があったら対策されて銃で剣を打ち抜くなんてことはできないだろう。最初に色々確認しておいてよかった。あまり経験のない二刀流にしておいたのも結果的に功を奏したようだ。そう思いながらタカキが銃をしまった時、後ろから何かがすごい勢いでぶつかってきた。タカキは思わず前につんのめった。
「こらーっ!銃を出してイきり倒すなんて大人げないわよ!しかも女子の体に傷をつけるなんて。」
ニーアがタカキの背中に飛び蹴りを食らわせてきたのだった。タカキが何か言おうとするも、聞く耳持たずで、タカキの方を見向きもせずアストレアに声をかけている。
「ごめんねアストレア。早く治さないと、傷跡が残ったりしたら大変だし。ヒールウォーター!」
その姿を見ながら、今後のためにも対模擬戦用の弾丸を作ったほうがよさそうだ、とタカキは思った。
「模擬戦のたびに後ろから蹴られたらたまらんもんなぁ。」
思わず独り言が漏れた。
アストレアの傷も治り、ようやく落ち着いたのでいろいろと状況を説明した。タカキはどちらかというと後衛職で近接戦闘は得意ではないこと、錬成スキル持ちでオリジナルの武器を作れ、ニーアやシンイチの武具も作っていて役に立っている決して戦闘を二人に頼り切りというわけではないことを話し、アストレアも納得してくれた。
「こんな武器見たことがないわ。」
「ああ、そうだろうさ。これは俺のオリジナルで専用武器だからな。」
「あなたが作ったの? なるほど、これだけの威力のある遠距離武器はなかなかないわよね。ごめんなさい、私たちの元のパーティの仲間のニーアが騙されているかもしれないと、思って許せなかったの。」
そういうことか、ニーアもいい仲間に囲まれていたんだな。タカキは思った。
その後、ニーアもおずおずとアストレアに話を始める。周りにいた兵士たちには聞かれたくなかったため、少し席を外してもらう。
「あの、アストレア、私も謝らないといけないことが、、、実はね、タカキは私の父親なのよ。シンイチと二人で旅に出た後、偶然が重なって一緒に旅をすることになったの。」
「え、そうだったの?! それなら早く言ってくれれば、、いや、でも早とちりした私が悪かったわね。そういえば最初に何か言いかけていたわね。」
二人でお互いに謝り合っている姿を見てタカキはなんだか心が温まるような思いに駆られる。それと同時にこうなった原因のニーアの態度にも一言苦言を呈しておきたくなった。
「アストレアの言う通り、なんでもっと最初から、昨日のうちに父親だって言わなかったんだ? そしたら俺だって処刑されるような状況にならなかったのに。」
二人の視線を浴び、言いにくそうにしながらもニーアが口を開く。
「えっと、それは、、、だって、この年で親が一緒について回っているなんて、ちょっと恥ずかしいじゃん。」
「思春期か。。。」
ニーアのそれほど深刻ではない(?)理由で殺されかけたタカキはがっくりと肩を落とした。




