第百話 凱旋
色々と騒動があったものの、現実世界の一週間が終わり、再び異世界に戻ってきた。
「なんだか一週間があっという間だね。」
シンイチの言葉にニーアとタカキは微妙な反応を見せる。
「そお?私は結構厄介ごとがあってバタバタした一週間だったけど。。」
「俺も仕事は落ち着ていたけどなぁ。忙しくなくてもだるい仕事はだるいんだよなぁ。」
言ってからしまったとタカキは思った。子供の前であまりネガティブなことを言わないように心がけていたが、こっちの世界に来て成長している二人の姿を見るとついおしゃべりが過ぎてしまう。
「まあ、いずれにしろこっちの2か月の方が長いから、体感的には現実世界の一週間が短く感じるのはしょうがないかもね。」
幸いにもニーアはあまり気にならなかったようだ、スルーしてくれてタカキはほっとした。
「さってと、じゃあ、気を取り直して王都に向かおう。」
「少し、気持ち的にはゆったりできるよね?」
「そうね、魔族の件も落ち着いたからね。今回はこっちの世界を満喫する旅にできるんじゃない。もちろん、それほど難易度の高くないモンスター討伐依頼とかは何回か受けて、戦闘の勘が鈍らないようにしないといけないとは思うけど。」
「だけど、帝国の脅威はどうなんだ。最近はちょっとおとなしくなっているようだが。。。」
タカキの一言にニーアもそれがあったかと思い出したように少し顔をしかめる。それでも、ここ最近のあわただしさを考え休息も必要だという結論になり、急がずにゆっくりと移動するということで三人の意見が一致した。
港町オスティアからセルディス王国の王都へ向かう旅路は、たまに出てくるモンスターを討伐しながらのんびりとした旅路となった。
余裕ができたことで、タカキはかねてからの遠距離移動時の負担軽減リクエストに応えるため夜な夜な車づくりに注力していた。
現実世界での情報収集、こっちの世界での素材集めと少しずつ準備は進めていたが、いよいよその集大成となる。まずは以前大量に採取していた鉱石から金属を錬成し、フレームや、動力駆動部のギアなどを作る。先日の魔族との戦いで弾丸としても大量に使用したので足りるか心配だったが、さすがはニーアのマジック収納ボックスの大きさというところで、まだ十分に在庫はあった。ところどころ重要な部分にはミスリルを使うことで本来消耗する部品を永久的に使用できるようにした。ウインドガラスはその辺の砂から錬成をした。幸いなことに、近くに砂地がありガラスの材料となる、珪砂には事欠かなかった。
「うーんやっぱ錬成スキルってすごいな。ほんとは工場とかで成型してフレームを作らないといけないのに、自由に思いのままに形を決めることができる。こりゃチートスキルだな。」
タカキが一人で作業をしながら改めて唸った。これがあればどんな複雑な機構のものでもすぐに作ることができる。元の世界でも使えたらどんなに製造が楽になるだろう。いや、でも製造業が成り立たなくなって多くの人が職を失ってしまうので良くないな。そんなことを考えながら作業に没頭していく。結局、その日は駆動部分を一通り作ったところで作業を終了した。このペースであれば一週間くらいで完成できるはずだ。早く完成させて、子供たちを乗せてこの世界を走りたいと心が躍った。それによって少しは彼らの身の安全が保障され、心のリフレッシュになればいいなという願いもあった。
タカキの夜更かしでの作業もあり、今回の旅は朝が遅い出発となっていた。
「普段だったら学校で授業している時間よねー。」
朝ご飯を食べながらシンイチと話していると、連日遅い動き出しだとちょっと罪悪感を覚えてしまう。現実の時間軸ではないので気にする必要はないのだが、そんなことに気が回るだけ余裕があるということともいえる。
それからさらに一週間ほど平和な移動を繰り返し、王都まで残り一日で到着というところでようやくタカキの車が完成したのだった。動力はガソリンや電気ではなく、魔力を媒体として動くようにした。魔力のこもった魔石でも代替可能である。燃料の補給を考えると一番てっとりばやいのが魔力という結論からそのようになった。
「よし、ようやく完成したぞ。」
「タカキお疲れ様!ついにできたんだね、早速乗ろうよ。」
「これで王都付近まで行っちゃうとかなり目立っちゃうから、今回は我慢しておきましょう。」
大興奮のシンイチと反してニーアがすぐさま釘をさす、この世界ではかなりのオーバーテクノロジーだということを理解しているためだ。移動は基本的には馬車が主流で、テイマーは魔獣に籠を引かせたりもしている。
「もう少し早くできればよかったのに、、せっかくだからちょっとだけでも乗りたいよ。」
「じゃあ王都の5キロ手前くらいまでだとどうだ?」
「うーん、5キロ手前って言われてもよくわかんないし、他の場所とすれ違った時点で終わりだからやっぱり今回はダメ!」
それでも、どうしてもということで、動作確認を兼ね10分くらい乗るということで何とか落としどころとなった。
「うわーいいね、いかにも荒野を走りそうな感じ。」
「ああ、やっぱ舗装されていない道がほとんどだから、ジープみたいなのをベースにした方がいいかなと思ってな。でも、現実世界と違って前、後ろそれぞれ三人座れるんだ。道路の幅とか気にしなくていいから大きめに作ったんだ。後ろの席で一人横になって寝ることもできるぞ。」
一人だけ後ろになるというのもかわいそうだということで三人掛けにしたのだが、大興奮のシンイチを見てタカキはうれしくなった。ニーアは周りの目が気になってそれどころではないようだったが、やはり移動が楽になる点は満足しているようだ。
結局、王都の手前まで車で来てそこから歩いたが、幸い誰ともすれ違うことなく無事に王都に到着したのだった。
そのまま冒険者ギルドに向かうと懐かし面々が迎えてくれた。
「おお、アイ、いや、ニーアじゃねえか!」
ギルマスのアンドレイが声を上げた。
「シンイチさん!お久しぶりです!また会えてうれしいです!」
ギルド受付のエミーも相変わらずである。約7ヵ月ぶりの再会を懐かしみ、みやげ話に花が咲く。
「そっちの人は?」
「紹介が遅れたわ、新しいパーティーメンバーよ。」
「タカキだ、よろしく頼む。」
「おお、ニーアの仲間ってんなら大歓迎だ、俺はアンドレイ、この王都の冒険者ギルドのギルドマスターをやってる。」
いつもニーアがお世話になってますと言いかけて慌てて口をつむぐ、ニーアの方が冒険者としては格上なのでタカキが偉そうにするのは違うと思ったからだ。
一通りの話を終え、そろそろおいとましようというタイミングでアンドレイから声を掛けられる。
「すまねえな、ニーア。お前が戻ったら王室へ報告することになっている。たぶんだが、いや、ほぼ確実に招集がかかると思うぞ。」
本当に申し訳なさそうな表情のためニーアとしても言い返しにくい。
「仕方ないわね。」
気が乗らないがそうなったら仕方ないかとは思っていたので承諾する。
そのままギルドを出て、久しぶりとなるニーアの常宿に向かった。
「うわっ、すごいなこの宿は、ずいぶんと高そうだけど大丈夫なのか。」
タカキが思わず声に出した。
「初めて来たときここに3週間くらい泊まってたよ。一泊かなりお高いけどね。。」
シンイチがタカキに小声で伝える。その金額を聞いて、タカキも思わず外国人のようなリアクションを取った。
それでも、ニーアとモンスターを討伐して稼いでいると全然払える金額だと考えると、まあ良いかという気にもなってくる。タカキは金銭感覚がおかしくなっていることを改めて認識し、現実世界での子供たちへのお金の教育をちゃんとしようと心に留めるのだった。
翌日、案の定、お城からの呼び出しがありさっそく出向くこととなった。
タカキのことを説明するのが面倒だったため、ニーア一人で王城へ向かうことにした。
数か月ぶりだったからか顔パスでとはいかず第一騎士団の団長か副団長へという形で取り次いでもらいようやく入城となった。
「アイ、いや、ニーア殿、お久しぶりです。」
出迎えてくれた第一騎士団副団長のセーラが明るく声をかけてくれる。
「そうね、セーラ。ところで、アイでもいいわよ、どうせ王城の中田と誰にも聞かれないと思うし。」
「いえ、トップシークレットということで、王城にいるものの中でもごく限られたメンバーしか知りえないことなので、厳密にしないといけないかと。」
「そうなの、大変ね。」
ニーアは自分が秘密にしてほしいとお願いしたことを忘れているかのようにとぼけた。
「ところで、今日はクロムウェルはいないの?」
第一騎士団団長かつ近衛騎士団団長なのでいつも城にいるはずである。そして、ニーアが来たらいの一番に出迎えると思っていた。
「はい、団長は今第一騎士団を引き連れて演習に出かけています。近場ですのですぐに戻ってきますが何か用事でも?」
「いやいや、クロムウェルがいるとすぐに模擬戦やるぞーってなるから、、それがなくてほっとしているの。」
それを聞いてセーラは笑みを浮かべる。ニーアの気持ちをわかってくれているようだ。
早速王様への謁見となり、セルディス王は嬉しそうに迎えてくれた。側近のほかに、アストレアがいたが、他の勇者メンバー、オスカー、トォーリィ、アンナは不在だった。
「おお、よくぞ戻ったニーアよ、活躍は色々と伝え聞いているぞ。」
「ちょうどいいタイミングで戻ってきてくれた。実は五日後にシュテイン共和国の王が来訪されるのだ。その場にぜひ立ち会ってもらいたい。」
「すみません、実は三日程度の滞在ですぐに旅立つ予定です。他の勇者パーティのメンバーがいるので良いのではないでしょうか。」
「実は今、私しかいないのよ。」
アストレアが会話に割って入る。今の状況の説明を受けると、アンナは飛び出して行ってしまい行方不明、トォーリィはアンナを捜索するために追って旅に出ている、オスカーは商業独立国家カプトル商業へ国の用事でお使い中らしい。シュテイン国王の来訪に伴う、周辺諸国への事前調整の一環らしく、第一騎士団の演習もそこに向けたものという話だった。そんな状況を聞いてしまうとアイは、シュテイン国王の来訪の話を断ることができなくなってしまった。
「それで来訪の目的は何なんです?もし差し支えなければですが。」
「うむ、主に会談の目的は二つある。アイよ、おぬしにも全く無関係な話題ではないぞ。一つはワシュローン帝国に対する防衛の協力体制の改めての確認と、もう一つは先にラニキス王国で討伐された魔族についてじゃ。ぜひ、その辺の土産話を聞かせてほしいとのことだ。」
「その話はセルディス王からお伝えしたのですか?」
「いや、むしろシュテイン国王から聞いたのだ。」
「そうですか。」
シュテイン王国はずいぶんと情報が速いじゃないか、隣国でもない国の中で起きた戦いの詳細を知っているなんて。まあ、魔族関係はどの国も敏感になっているか。そんなことを考えながらどうしようか悩んでいると、ふと一つの矛盾に気づいた。
「ただ、私がしゃべるわけにもいかないですよね、勇者メンバーのアイとして参加するので。」
勇者メンバーはセルディス王国から動いていないというのが対外的な情報である。(といいつつ、現状はバラバラな気もするが。。)
「なあに、そこはシンイチ君がいるじゃないか。今日は来ていないが王都にはいるんだろう?」
「はい、、それはそうですが。。。」
シンイチの指名ときて嫌な予感がしたが、断るわけにもいかない。ちゃんと説明できるだろうか。パパならプレゼンの練習だ、とか言ってうまくこなしそうだが。。仕方ないので、もう一人おまけがつく旨説明し、会談の場への参加を認めてもらった。
王様との謁見終了後、アストレアと少し話す時間を取った。わざわざ一部屋確保してくれて、紅茶まで出される厚遇ぶりである。
「アストレアは最近訓練とかしているの?」
「私? そうね、王国軍の兵士と模擬戦くらいかしら。騎士団団長はじめ、みんなの訓練にはなっているけど私はあまりかな。レベルも全然上がってないし、今のニーアと比べたらかなり弱くなっていると思うわ。」
そうなのか、アイは視線を落とす。自分は好き勝手冒険させてもらって少し申し訳ない気持ちにもなった。そんなアイの気持ちを見透かしたのかアストレアが言葉を続ける。
「でも、それだけ平和ってことなのはとてもうれしいことよ。前にも言ったかもしれないけど、私は別に戦いがなきゃ死んじゃうっていうような戦闘狂でもないし。」
ニーアは旅に出た自分が戦闘狂と言われたようで複雑な気分になったが、どうやらニーアのことではなく、アンナのことを意図していっていたようだ。
「ほんと、戻ってきたらきつく言ってあげないとだわ、どこで何をやっているのやら。あの態度は改めさせないと。」
アストレアの言動を見て二人の間に何かあったな、とニーアはすぐにピンときた。それに振り回されるトォーリィにも同情するのだった。




