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どっちかなんて選べないよっ!! 後 なぬっ高貴なお方からのお呼び出しがっ!






「……なんかこんな事になっちゃってごめん……」

「ううん、いいよ……一緒にどこの国に行く?」


 セレスティアがはにかみながら聞いてくる。凄く可愛いが……


「え? 俺決闘受けるけど??」

「は、はぁ??」


 セレスティアが、がばっとシーツを纏って豊かな胸を隠しダランとなって顔にかかった長い髪を片手でかき上げながら上半身を立てて座った。


「いやー決闘は受けるけど……」

「じゃ、じゃあ何で抱いたん??」

「だ、だって、可愛かったしなんか好きになっちゃったし……いいでしょもう」

「ふ、ふざけんなっ! 抱かれ損だろうがっ!! 勝ってソフィアと結ばれる夢でも見てるの??」

「い、いいじゃん……こんな時に細かい事考えるなよ」


 俺は再びセレスティアを抱き寄せようとした。


「でてけっ!! 決闘でも何でも受けて死んでしまえっっ!!」


 パシッと手を思い切り叩かれる。


「え、えーーーーー?」


 何故か薄っすらと泣き出した彼女を見て、バツが悪くなって店を出た。いや、やっぱりセレスティアは決意を固めてこんな事になったのに悪い事したよな……



 武器屋をよろよろと出ると、外は夕方を越えて薄暮になっていた。


「あ、あの……合わせる顔が無いのは分かっています……一言、一言謝罪をさせて下さいっ!」


 店を出た途端に、伯爵令嬢のソフィアがずっと前で待っていたのか、泣きそうな顔で言ってきた。


「ソフィア……」

「ここでは何ですので、どうぞ馬車にお乗りください。二人きりでお話しします、今日はメイヤーは歩いて帰りなさい!」

「は、はぁ? 何を言っておいでです!」

「今日くらいわたくしの言う事を聞きなさい!」


 いつものおばさん侍女が一緒に乗り込もうとするが、ソフィアが強く拒否した。馬車は適当に町中を走り始める。薄暮の街中では人々が慌ただしく家路についている様だ。



「本当に申し訳ありません……わたくしの為にアルケイドさまとセレスティアさまお二人を危険に晒す事になってしまって、心より謝罪いたします」


 しばらく押し黙っていたソフィアが深々と頭を下げた。


「もういいよ、決闘の事を聞いたんだ? あの嫌味な男は何者なんだ? 本当にフィアンセなの?」

「はい……彼は我が家の伯爵家よりも格上の侯爵家、父も母も大変喜んでいるのですが、あの通り非常に傲慢な御方の様で……しかも色々調査させて知ったのですが、彼には既に何人もの愛人関係にある女性がおり、わたくしは将来に不安しかありませんでした……」


 再び彼女は黙り込んだ。


「それで……憂さ晴らしに適当な人間を人選して、恋愛ごっこがしたかったと? そんな所かなあ」

「ほ、本当に申し訳ありません、幼い頃から物語に強い憧れがあり、おかしな男の家庭に入る前に何か激しい経験がしてみたかったのです……」

「んで、何で俺なんだ?」

「そ、それは……」


 何か言い難い事があるのかソフィアが口ごもる。


「言ってよ! 一応君の為に命の危険に晒されてる訳だし、教えてくれてもいいでしょ」

「申し訳ありません、先程の侍女メイヤーがどうしても言うならと、火遊びの相手として闇に葬っても大丈夫な身よりの無い独り身の尚且つわたくしが本気にならない中程度の男を用意すると言って来て、お会いしたのが貴方でした……本当に本当に申し訳ありません」


 おいおい、火遊びの相手として闇に葬っても大丈夫な身よりの無い独り身の尚且つわたくしが本気にならない中程度の男って、ヤバイだろ。


「そこそこ酷いなぁ中程度って顔が?」


 俺はいつかこんな事になるんではとは思っていたが、その一言がやっとだった。


「いえ、総合的な意味合いで中程度の御方という意味です」


 総合的な意味で中程度って何!?


「ハハハハハハハハハハ」


 俺は乾いた笑いで誤魔化した。


「どうぞ、お怒りとは思いますが、お金と亡命先をご用意致します。セレスティアさまとお逃げ下さい!」


 ソフィアは両手を組んで涙目で訴えて来た。


「俺は決闘受けるよ! 闘技場に行ってすっぱりと斬られてしまうかもしれんが」


 セレスティアもソフィアもどいつもこいつも俺が負ける負ける考えやがって!! いや冷静に考えればそうなるとしか思えないが。


「違うのです! わたくしは単に厄介払いしたい訳では無いのです。信じてもらえないかもしれないですけど、初めて殿方と色々な所に行ったり逢瀬を重ねたりしたというだけでは無くて、いつしか本当に純朴で優しい貴方様をお慕いする様になったのです。それにセレスティアさまとのご関係も素敵……だから斬られて死んでほしくないのっ!!」


 ソフィアの表情は目が潤んで、本気で言っている様に思える……けれどこれまでの経緯が経緯だけに素直になれない。


「そんな事言われてもな」

「証拠をお見せします」


 そう言うとソフィアは突然目を閉じて微妙に上を向いた。


「わ、わたくしの最初のキスです」


 え!? ファーストキスを差し上げるので信じて欲しいって事!? なんかさっきもそんな事あったばかりの様な。どうなってるの俺、運が悪いんか良いのか分からん様になって来た! もし俺が正義のヒーローだった場合、俺にはセレスティアという心に決めた女性がいるんだ! とかかっこ良い事言ってソフィアのキスを拒否するのだろう……が、俺は正義の味方でも無ければ姫を守る騎士様でもない! よしここは麗しき伯爵令嬢のソフィアちゃんのファーストキスを貰いましょう。最低と言うならば言うが良い!!


「ん、んんん……」


 カーテンを閉めた二人きりの豪華な馬車の室内でしばらくキスを続けた。


「はぁはぁはぁ……あ、アルケイドさまっ」


 キスが終わった途端に伯爵令嬢は上気した顔で俺に抱き着いて来た。


「君の気持は分かったよ……だからこそ決闘を受けて君を解放するよ。俺に負ければいくら奴でも恥じて婚約を公の約束にせずに解消するだろう。知っているのは冒険者ギルドに居た人々だけ、そうなりゃ君は自由だ」

「そんな……貴方様が心配です……お願いします決闘しないで下さい。お二人で逃げて!」


 おいおいソフィアも結局セレスティアと同じ結論かよ!! 腹立って来た!!


「いや、俺にだって男の意地があるんだ、必ず勝つ!!」

「………………」


 ソフィアは何も言わずに抱き着いたままだ。いや絶対信じて無いでしょ、負けると思ってるでしょ!! 確かに俺もノープランだが。


「まだ一週間あります……どうぞお考え直しを」

「ソフィアも変な考え起こすなよ」


 二人は多少ズレた受け答えをすると何となく無言で別れた。



 次の日、俺はセレスティアの武器屋に行く気にもなれず、かと言って残り数日で急激にパワーアップする方法なんてある訳も無く、目的も無く街を歩いていた。


「もし、貴方様はアルケイドさまではありませんか? 例の一件で悩みも多い事でしょう」


 突然知らない女性に声を掛けられる。よく見ると凄い美人だが、冒険者ギルド内での一件もあって嬉しくともなんとも無い。


「はいはい、どこで聞いたのか知らないが、棺桶も葬式も要らないから、負けないからな」

「いいえ、私は葬儀屋でも棺桶屋でも最後の思い出作りの妖しいお店の者でも御座いません。さる高貴な御方から、貴方が決闘に必ず勝てる耳よりな情報があるのでお知らせしたいと」


 ナヌッ!? さる高貴な御方から、絶対に勝てる情報とな。


「これを……耳栓と目隠しで御座います。これをお付けになられて、窓の無い馬車にお乗り頂ければ、必ず勝てる方法をご伝授致しますわ」


 耳栓と目隠しで窓の無い馬車だと? それ絶対乗ったら駄目な話だ! ていうかこの女、よく見ると凄い美人なのにめっちゃ胸元開いているし……妖しいお店臭しかしないが。こんな話、立派な男なら絶対に乗らないだろう……が、セレスティアとソフィアのこの一連の流れを考えると万が一この美人の女性と何かあるかも……俺は一縷の望みに賭ける事にした!


「よし、俺も騎士の端くれ、勝負に勝てるというのならば、どの様な困難も恐れはしない!」


 勝手に騎士に昇格して適当な事を口走ると耳栓をして目隠しをした。綺麗な女性の手を取り窓の無い馬車に乗せられる。馬車が動き出すとさすがに緊張したが、誘導した女性はずっと手を握り続けてくれる。案外本当に妖しいお店なのかも……




「ここで御座います。階段や長い通路があります。ずっと私の手を離さないで下さいね」

「はーい!」


 降りてからも移動する距離が長い長い!! こりゃ普通に妖しいお店じゃないな、なんて思い始めていた時だった。


「どうぞ、お取り下さい」


 言われて耳栓と目隠しを外すと、どう見ても王の玉座の間にしか見えない場所に居た。

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