どっちかなんて選べないよっ! 前
「おいおい何だ何だ」
冒険者ギルド内が若い男の決闘の声を聞いてざわざわし始めた。俺は訳が分からなくて名前を聞いた。
「一体あんた何もんなんだよ? なんであんたにいきなり決闘申し込まれなきゃいけないんだぁ?」
セレスティアがずっと腕の部分が伸びそうなくらいに服をぎゅっと握っている。
「ふっ、本来であればお前程度の男にこちらから名乗る必要など無いのだがまあ良いだろう。こちらから決闘を申し込んだ訳ではあるしな」
なんだこいつは? 俺の目の前の男は余程容姿に自信があるのかいちいち格好を付けてしゃべりやがる。しかし確かに女にモテそうなイケメンではあるな。
「だったら早く言いやがれ」
「ふっっ、驚くな僕の名前はファディナ・アルジェ……」
……て誰??
「アルジェだって!?」
ざわざわ騒ぐ人々……って? 一体何者なんだよ~~誰か解説してくれよ。
「そう! 誰あろう、歴代王家にも后を輩出する栄えある侯爵家アルジェ家の次期当主、ファディナ・アルジェとはこの僕の事だっ! どうだ足が震えて立っているのもやっとだろう??」
誰だよ……驚いた方が良いのか? んでそいつが何用なんだよ。
「ほう? それでその次期当主とやらが何用なんだよ??」
「とぼけるなっ!! 貴様が我が許嫁であるソフィアをたぶらかし、連れ回している事は掴んでいる!! それは即ち僕を愚弄する事と同じ事だ。決闘で貴様を倒して白黒付ける!!」
「あ、アルケイド、やばいよ……」
セレスティアがとても怖がっている。侯爵家とやらにビビっているのか??
「はぁ? ソフィアから許嫁なんて一回も聞いてないが??」
「それはそうだ。許嫁とは言え親同士が勝手に決めた相手、まだ正式には公表もされていないから僕も彼女に一度しか会った事は無いし、いまだ本気で愛している訳でも無い。彼女は僕の多くいるコレクションの一人になるだけだろう……が、それでも僕の所有物になる予定の女に手を出した貴様は侯爵家として許せん!!」
な、なんだこの馬鹿で傲慢な男は? マジかこんなのがあの優しくて美しいソフィアの許嫁??
「す、すいません侯爵さま、この人まだBランク冒険者で決闘する権利すら無いんです、だからお見逃し下さい」
突然セレスティアが拝む様に身を屈めて謝罪し始めた。いつも気が強い彼女のこんな姿を見るのは初めてだった。
「ふっふはははははは、それはお前の別の女か? 確かに見すぼらしい男にお似合いの、とうが立ち始めた丁度良い女では無いか! それになんと情けないまだBランク冒険者だと? ふはははは、どうしてお前の様な下等な者がソフィアに接近出来たのだ? そうか、彼女の火遊びという訳か。」
なにから何までむかつく奴だな……
「取り消せ、俺の大切なセレスティアのとうが立ち始めた云々言った事を取り消せ! こう見えてとっても可愛いんだ。それに俺はれっきとしたAランク冒険者だ。決闘を受けて立つ権利があるぜ」
俺はやめとけばよいのに、ナントカ言う侯爵の馬鹿息子の眼前十センチ前に立ちはだかった。落とされた手袋をめっちゃ踏んでいる。
「やめてっ! いいよ、本当にあたしは良いから……お願いやめてっ!」
「良いって、大丈夫だって」
俺は物凄く心配するセレスティアを押しのけた。
「ふっ、確かに聞いたぞ。それにこの場に居る冒険者達が証人だ。決闘の場所は王立闘技場、日取りは今から一週間後だ。まあ逃げて生き残るもよし、闘技場に来て我が剣によって露と消えるもよし、じっくり考えるのだな、ははははははは」
くるりと背中を向けて笑いながら去って行った。な、なんだよコイツ、年下だろうに異常にムカツク奴だな。
「は、せいぜいいきがってろ! 死ぬのはお前だぜっ!!」
無理やりめっちゃ強がったが、俺の声は上ずっていた。
「馬鹿ッ!! なんであんな事言ったの?? 死ぬのに決まっているのに! 私なんて何言われても構わないのにっ!!」
セレスティアは泣きながらギルドを出て行った。へっそんなに強いの?? ヤバイの俺??
「兄さん、悪い事は言わん今の優しそうな美人さんと一緒に国を出た方がいい……」
「そうだぜ、アイツはギルドにゃ属して無いが、Sランク相当と言われている。それに仮に仮にだぜ、万が一のまぐれで偶然お前さんが勝ったとして、王家とも繋がりのある侯爵家が裏から刺客を使って、結局お前さんは死ぬ。だから悪い事は言わん、逃げた方がいいぜ」
えーーーーーー、それ最初に言ってよーーー。しかし万が一のまぐれって皆して俺を馬鹿にしやがって。
「は、ははははは、吠え面かくのはアイツだぜ……」
「やべえ、こいつ馬鹿だ……」
「可哀そうに……」
人々は神妙な顔で首を振り、肩をすぼめると俺から離れて行く。お、おいおい死体を見る様な目で俺を見るなっ!!
「ちょっと君……」
お、突然モデル級に美しい強そうな冒険者に声を掛けられたぞ! これは天の助けか!?
「は、はい??」
「棺桶とお葬式の良いお店知ってるんだけど、予約しない??」
ちょ、冒険者じゃ無くて商売人。
「要らん!!」
俺はギルドを出ると、急いでセレスティアの武器屋に駆け込んだ。
「おおーーい! そう心配すんなって! どうにかなるからさあ……て、あれ? 何してるん?」
目の前のセレスティアは必死に売り物を荷物にまとめている。
「何って逃げる準備してるんだよ、アルケイドも手伝ってよ」
「へ? お前さん関係ないじゃん!!」
「……一人で逃げさせるのは可哀そうだからあたしも一緒に行ってやるんだよ! それならふんぎり付くだろ。指輪砕く事が出来なかったって聞いて正直嬉しかった……もうあの子の事は諦めてあたしと暮らせばいいじゃん!」
え、これって逆告白? いやいや別に何も申し込んだ事ないしな……なんていうんだろコレ。嘘から出たまこと??
「い、いや落ち着いてくれよ、俺は何処にも行かないし決闘もきっちり受けて、あのイカレ野郎からソフィアちゃんを解放してやるんだ!」
「何言ってるの? 目を覚ましてよ! お前の実力であのSランク相当の貴族に勝てるわけないじゃん!! 死んじゃったら何もならないんだよ? 誰も知らない隣国に行けばいいじゃん!!」
何と俺を説得する為に目にうるうる涙を滲ませるセレスティア……めっちゃ可愛いが。
「俺にも意地があるんだ……決闘は受けて立つ」
「………………わかった」
「?」
セレスティアは分ったと言うと、すくっと立ち上がって上着を脱ぎだした。
「何やってるの??」
俺の声を無視してどんどん服を脱いでいくセレスティア。上下の上着が脱ぎ捨てられると、下着とキャミソールだけの姿になった。こんな時にあれだが、想像以上に良い身体をしている。俺は気付かれない様に唾を飲み込む。
「あ、あたしと……一緒に来ても損じゃ無い事を証明するよ……み、見て……」
いつも喧嘩っ早く強気の彼女だが、明らかにこんな事は慣れていない事がはっきり分かる。ボタンやジッパーを降ろす手つきが微かに震えていたからだ。もし俺が正義のヒーローだとすると、そっと彼女の肩を抱いて、そんな事はやめてくれ……等と言って止める所だと思うが、俺はじっと脱ぎ続ける姿を見続けた。これ、どうすればいいの??
「はぁはぁ……は、恥ずかしいよ……こ、こういうの初めてなの……」
遂にセレスティアが赤面しながら本音を言った。可愛い!! 安心しろっ妖しいお店のお姉さん方を除外すると俺も初めてだっ!! 等とは決して口に出せなかった。
「安心して……怖がらなくて良いよ」
俺は酷い事に決闘は受けるつもりで、ノープランで裸になったセレスティアを抱き締めた。
「ここは駄目っ……バックヤードで……」
お店の奥にある仮眠室に二人して行くと、お互いぎこちなく幼馴染の裸を見せ合いベッドに倒れ込んだ。
「はぁはぁ……あ、アルケイド……」
「セレスティア」
二人はお互いの名前を激しく呼び合った。
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