決闘を申し込まれてしまった……
「あのー分からない事があれば何でも聞いて下さいね!」
「は、はい……」
セレスティアは最大限の笑顔で入って来たソフィアに言った。しかし入って来た少女は武器の見方に定見が無く、剣を見たかと思えば槍を見て槍を見たかと思えば短剣を見てと、専門分野が何か分からないという様な感じで、しきりに店内でキョロキョロし続けている。
(ん? 挙動不審少女……万引き犯きたーーーー!!)
セレスティアは入って来てウロウロするばかりのセレスティアの真横に立った。
「どんな武器をお探しですか? お嬢さんの専門分野は何なのですかぁ?」
「う、あ、あのクロスボウ使いです」
ソフィアは突然セレスティアに真横に立たれてさらに挙動不審になった。
「あ、ごめんなさい! うちは飛び道具関係は無いのよねーーー」
戸惑う少女の横でセレスティアはにっこり笑った。
「あのぅ、貴方さまがあのセレスティア様ですか!?」
突然名前を呼ばれて戸惑うセレスティア。当然名札は付けていない。
(おおう? あたしそんな有名人になってたんか?)
「え、そうだけど、何ですか?」
「う、こ、この方が……」
少女は武器を使っているとは思えない真っ白い綺麗な指先で口を隠すと、ウルッと目を潤ませた。
「う、何なに? どうしたの??」
カランカラン
その時再び武器屋の扉が開いた。
「おーいセレスティア、ローン払いに来たぞーー」
俺はセレスティアの武器屋に入った瞬間に背中がビクッと跳ね上がった。お、おいなんで店の中にソフィアが居るんだ……何故武器屋の中でセレスティアとソフィアが仲良く並んで立っているんだよ!
「あ、アルケイドさまっ! 偶然ですねっ!!」
入って来た俺に気付いたソフィアがいち早く俺に声を掛けて来た。一体何が目的なんだ??
「わたくし武器の事が良くわからなくて、このお姉さまに色々教えて頂こうとしていたのです」
そう言いながらソフィアは俺の腕にしがみ付いた。しがみ付くと俺の腕にやたら健康的な少女らしい胸の膨らみを押し付けて来る。当然彼女のこんな積極的な行動は初めてだった。
え? 何これ……てっきりソフィアって実は俺の事なんて興味無い人間なんじゃって思いかけてた所なのに、何がしたいん??
「あ、あー~~、この子が例のおま、いやアルケイドさんの彼女さんの伯爵令嬢の? あー凄い可愛い子だねえ」
セレスティアが興味なさげに腕を組んで白い目で二人を見ながら言った。
「ね、ねーー、アルケイドさまっ! 今度もまた二人でダンジョン攻略しましょうねっ!」
「あ、ああ、そうだねえ」
ってつい先日、俺がそういう話しててもけんもほろろだったじゃないかっ。
「三角関係、三角関係、修羅場ッ、修羅場ッ……」
ソフィアが目を輝かせながら俺の横でぼそっと小さな声で呟いた。
え、この子何言ってるの??
「おおおーーー仲いいじゃん? 頑張りなよ」
セレスティアは全く二人に興味無いって感じで言うと、カウンターに戻って行った。
「あ、あれ……想像していたのと違いますわ……」
「ちょ、ちょソフィアちゃん?」
「い、いいえ何でもありませんの」
心の声が思わず出ていた事に気付いて、ソフィアが慌てて口を押さえた。
もしかしてソフィアの中では、セレスティアが嫉妬に狂って喧嘩でも仕掛けて来るという計画だったのかなあ? でもソフィアって俺がリングを割る事が出来なかった時に涙流して許してくれた子だよなあ? 何がしたいのか分からん……急にシュンとした顔をし始めたぞ。
「ソフィアさん二人でゆっくり見て行ってね! なるべく高い物を買って頂けると有難い」
カウンターからセレスティアの声が聞こえると、さらにソフィアはシュンとした。
「きょ、今日はこの辺で帰らせて頂きます。馬車を通りの影に隠してありますので」
「そうなの!? 折角会えたばかりなのに? だったら馬車まで俺が送るよ!」
「い、いえっっ! 本当に一人で大丈夫ですから!!」
なんでだよ!! なんで断るの?? これ見よがしに抱き着いて来たかと思えば今度は見送りすら断るって訳が分からないよ!!
「で、ではごきげんよう」
「お、おうまたなっ!!」
そそくさとソフィアが店から出て行って、凄く恥ずかしい俺。セレスティアの顔を見るのが怖い。
「よ、よう! ローン払うわ!!」
「何事も無かったみたいによう! じゃないよ。あの子とお前本当に交際実績あるんか? 全部お前の妄想かもしくは妖しいお嬢様プレイが出来る店の子なんじゃないの? マジであの子挙動不審なんだけどさ」
「いや違う! 断じて違う。妖しいお店の子じゃなくて、本当に伯爵令嬢なんだって! お屋敷にも招待された事があるしさー本当なんだよ」
「館の中に入ったんか??」
「い、いや……お庭で足止めされた」
「お前もしかして……盗賊団とか劇団に騙されてるんじゃ?」
え、なにそれ?? 貧乏人の俺を騙してどんなメリットが??
「劇団って何だよ。あの子は本当に伯爵令嬢なの!!」
「はいはい、わかったわかった、伯爵令嬢なんだね、良かったじゃん! んじゃ金払っていけ」
俺は半信半疑のセレスティアに嫌々高い剣の今月分のローンを支払うと、店を出ようとした。
「あ、ちょっと待てい! 面白いていうかお前にとって衝撃の残念な情報を教えてやろう!」
え、何々!? 今度は何だよ怖いな。セレスティアは意地悪な笑顔を浮かべているぞ。
「一体何だよ、早めに教えてくれよ」
「お前、ユリウルの指輪あの子の目の前で叩き壊した所だろ? 実はあの指輪、新しいAランク冒険者への昇格認定アイテムの一つでしたーーっ。はい残念っ!!」
セレスティアは満面の笑顔で俺の頬に指をびしっとさした。
「これか? まだあんぞ」
俺はポケットから無造作にきらきら輝く大型人魚のユリウルのレア七色のリングを出して見せた。セレスティアが絵に描いた様なギョッとした顔をする。
「……なんで? あの子とは??」
「あーーーー、叩き割ろうとした時にお前の顔が浮かんで割れんかった」
さすがにソフィアの前で情けなく泣いた事と、幼稚園時代の結婚の約束を思い出した事は伏せた。
「え」
いつも軽快にしゃべりまくるセレスティアが言葉が出ない様子だった。
「あ、でもソフィアめっちゃ良い子でな、指輪は要らんからこれまで通り付き合って欲しいと」
「………………良かった……じゃん」
いつも饒舌なセレスティアがあまりにも言葉が出ない。どうした??
「そうだっ! 今からAランク昇格しに行かんか? 見届け人になってやるよ」
くるりと後ろを向くと、セレスティアは急に話題を換えた。
「別に良いけど、どうしたっ!?」
「ううん、別に何でも無い、早く行こうよ」
「お、おお」
今度はセレスティアに腕を引かれながら冒険者ギルドに連れられて行った。
「ジャーーーン! ほらっ見ろよ、遂に俺がAランク冒険者になったぞ!!」
冒険者ギルドで手続きを終えると、俺はもらったばかりの証書をセレスティアに見せびらかした。
「ほぉーーー良かったじゃん!! んで、Aランクになると何が違うん??」
「そうだなあ、まずは国家指定のクエストを受けたり出来るわな。つまり王家のお墨付きの実力の持ち主という訳だ、ははは。あと決闘を許可されたりもする」
「ふぅーーーん、なんだかお前の実力に見合って無いと思うなあ。偶然の産物だしなあ」
「し、失敬な!」
「ははは、まあでも良かったじゃん!」
「でも……実はお前にも感謝してるんだ、今までずっと支えててくれてたしさ」
「はぁ? 不気味な事言うなよ! そんな糟糠の妻みたいな言われ方されたら誤解を生むわ、バカ」
と、言いながらセレスティアがまんざらでも無い顔をして頬を赤らめている。こうして見るとセレスティアもなかなかに可愛い。
「貴様がアルケイドか?」
お? 何だ?? セレスティアと話していると、突然長身の20代ではあろうが少年の様な顔つきをしたイケメンに名前を呼ばれた。
「そーだが? 何か」
ペチーン!!
長身のイケメンは何を思ったか、いきなり嵌めていた手袋を脱ぐと、俺の足元の床に叩き付けた。その瞬間、セレスティアは俺の腕に不安げにしがみ付いていた。
「あ、お兄さん手袋落ちましたよ!」
俺は親切に教えてやった! 何故かセレスティアは俺の服を持ちながらズルッとこけた。
「アルケイド、僕の許嫁であるソフィアに手を出した貴様を許さん! 決闘を申し込む!!」
「へっ?」
俺は一瞬固まった。