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何を言っているんだソフィアさん……

 ダンジョン内での活躍が評価されたのか、遂にソフィアの伯爵邸にご招待された。しかし……邸宅にご招待されたと言っても庭園の中に置かれたガゼボというあずま屋でお茶会をするだけで、建物内には一歩も入れさせてもらえない。当然館の中のソフィアの父上や母上にはご紹介される気配も無い。その上トイレに行こうとしたらボディーガードという名の監視者が何人も固まってついて来る。なんだこれ。まあ活躍と言っても洞窟の中で泣いただけだしこんな物か。俺は最初から多くは期待していない。


「それでそれで、幼稚園の時のセレスティアさまはお転婆さんだったのですね!?」


 お茶会が始まって以降、先程からソフィアはセレスティアの事ばかり聞いてくる。俺の事はあんまり興味ないんか? という事は無いだろうが……


「ああ、幼児時代によくありがちな女子の方がぐいぐい来るタイプだったなあ」

「それでそれで、幼稚園の時に将来の結婚の約束をしたのですね!? まあロマンチック!!」


 恋人の俺の前でそんな話聞きたいか普通?


「ああ、でももちろんきっぱり別れているよ」

「それは……いつ頃のお話しですの??」


 まだセレスティアの話?? 普通の恋人どうしってこんな話するん? 俺の冒険譚とか興味無いの? いや大した冒険は無い訳だが。しかし……いつ別れた事にする?? 最近だとなんで別れたかとか根ほり葉ほり聞かれそうだなあ。それにセレスティアの後に他の女挟んでる事にした方がモテ度が高いよな……


「ああ、かなり昔の事だよ……」


 俺は見事な庭園の整えられた木々を遠い目をして眺めた。


「まあ……そうなのですね。でもそんな遠い日に別れたのに、新たな他の女性とユリウルのリングは取得されなかったのですね!?」


 うっ鋭いとこ突いて来るなあ。ていうか全然嫉妬してくれないのなソフィアって。


「あ、ああ、君の前で言う事では無いけど、確かに他の歴代の彼女と比べても、セレスティアは特別な女性だったのかもしれないね……」


 片手にティーカップを持ち上げては飲みかけて止め、再び遠い目をしてみた。


「……特別な女性……アルケイドさま程の御方にそこまで言わしめる女性……きっと女神の様な方に違いありませんわ……お会いしてみたい一度……」


 ナヌ? なんで目をきらきら輝かせながらそんな事言うのだ? そこは嫉妬する所では無いのだろうか。


「今、セレスティアさまは何処にいらっしゃるのでしょうか?」


 まずいな、嘘に嘘を重ね過ぎると後でボロが出る。当のセレスティアさんはめっちゃ近所にいるしな……ここは真実の一つも挟んでみるか!


「別れたのは遥か遠い過去なんだが、実は……同じ下町にある武器屋の女主人として、時々顔を合わせてはいる」


 自分としても賭けに出てみたぞ。


「まあ! なんて事、遥か昔に別れた愛しの元彼女さまと同じご町内で顔を合わせられる……プロっぽい……プロのモテ男っぽい……ドキドキします。シチュエーションを想像しただけで、わたくしドキドキしてしまいますわ」


 え? 何言ってるの?? プロのモテ男? シチュエーション?? そこは、まあっそんな頻繁に元カノと顔を合わせて、私心配ですわっとか言う場面じゃない?


「いや、お互いプロの冒険者と武器屋の女主人、やけぼっくいに火が付く事なんて無かったよ」

「はぁあああああ、お会いしたいです……一度セレスティアさまにお会いしてみたいです」


 ソフィアは白魚の様な細い指先を組み合わせ、乙女の顔で目を輝かせている。なんでだよ、なんでセレスティアに会うって発想になるんだよ……ちょっと何言ってるかよく分からないよソフィア。


「そんな事よりさ、今度もまた二人で何処か二人きりになれる場所に遊びに行かないかな??」


 俺は必死に話題の転換を図った。


「お嬢様、そろそろ次の予定のスケジュールが迫って参りました、お急ぎを」

「ま、まあ! そうなのね、凄く残念ですわアルケイドさま」


 なんだよそれー。今回ドキドキしながら敷地に入ったのに、殆どセレスティアの話だけなんだが。



 ―冒険者ギルド。セレスティアは武器を良く買いに来る常連客に注文された剣をサービスで冒険者ギルドに持って来ていた。


「まだ来てないんかー。暇だなあ、こういう時って何故か掲示板とか張り紙とかが急に興味出て来るんだよなあ」


 等と一人でぶつぶつ言いながら張り紙を見た。


「……何々、Aランク冒険者昇格アイテムが追加されましただと? ふむふむあたしにゃ関係無い話だなあ……大型人魚のユリウルの七色のペアリング(レアアイテム)だって?? こ、これ!?」


 セレスティアはアクセサリーとして時々付け始めたあのリングを見てみた。


「お嬢さん、それ昇格認定アイテムですよ!? 昇格されますか??」


 突然ギルド職員に声を掛けられる。


「い、いえ、あたしは冒険者じゃないんで、ハハハ」

(アホだなーアルケイド、念願のAランク昇格アイテムを今頃は粉々……ま、あたしにゃ関係無い話だ)


「セレスティアちゃん! 剣持って来てくれたんだ? 取りに行くのにな~~」


 常連の髭男戦士が呼ぶ声がして慌ててリングを隠す。


「い、いえお客様はとても大切な常連さまですので、これくらいのサービスは致します!」


 セレスティアは笑顔で剣を手渡した。髭男戦士は代金を気前よく全額支払い剣を受け取る。


「あ、あのさあ、セレスティアちゃん……お、俺これだけつぎ込んだんだしさ、そろそろ良いんじゃないか?」

「は?」


 戦士はセレスティアの肩に手を置く。


「一回くらい付き合ってくれてもいいだろ? 凄くいい女盛りなのに一人じゃ寂しいだろ? 心配なんだ」

「はあ? 何言ってるんだ? そういうお店に行けば??」


 肩の手をはらったセレスティアのあからさまな嫌悪の顔に、だんだんと険しい顔になる髭の戦士。


「ちっ寂しそうにしてるから毎度通ってやってたんだが。大金つぎ込んで損したぜ!」


 もはやそれまで必死に保っていた紳士の仮面は脱ぎ捨て、あからさまに品定めする様にセレスティアの体を見ている。 


(なんだよ、結局そんな感じの客だったのかよ……ガックリだな)

「あーそー? じゃあもう無理して買いに来なくて良いよ! しっしっ!!」

「ちっ、二度と行くかブスッ!!」

「……なんつーヤツ」


 セレスティアは捨て台詞を吐いてギルドから出て行く髭戦士を見て意気消沈していた。しかしこの手の客は時々いたのだった。それもこれもセレスティアが隠れスタイル抜群の美人だからという事をあまり自覚していなかった。



 ―それから数日後、下町のセレスティアの武器屋。


「ふーーーあんな男でも喧嘩売るんじゃなかった。急に客が来んわーーー」


 セレスティアはカウンターでたそがれていた。

 カランカラン。

ドアにぶら下げられた呼び鈴が鳴る。


(おっ)

「いらっしゃいませっ! ようこそセレスティアの武器屋へ! 良い物が沢山入荷して御座います、ごゆっくりお選び下さいね」


 店に入って来たのは、皮の鎧こそ装着しているが良家のお嬢様みたいなか細い腕をした天使の様に美しい少女だった。言わずと知れたソフィアだが、セレスティアにはそんな事分からない。

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