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ソフィアの前で大失態……

 俺はいつも連絡係をしてもらっている、例の家政婦? 侍女? 召使い?? のおばさんにソフィアが行きたがっている人魚のユリウルのペアリングを取りに行く事を告げた。すぐに追って返事が届き、ソフィアから冒険の日取りが伝えられてきた。あれ以来セレスティアの武器屋には行っていない……



 そして遂にその日がやって来た! のだが……実はいつも逢引きと言っても侍女のおばさんと、さらには護衛の騎士も付いて来ていた。もちろん真横に立っている訳では無く、数十メートル離れて立ってはいたが、やはりその存在は鬱陶しい物だった。そういう訳で今日も当然その連中が付いて来ているのだが……数が多い! 余程俺の実力が信用ならないのだろう、ちょっとした劇団が出来る程の物々しい装備の軍団が随伴して来ていた。


「お嬢様っ何かあればすぐに我々をお呼び下さい!」

「すぐに駆け付けますぞっ!!」

「最後は自分の身は自分で守るのも貴族のつとめ、今日は一人で冒険していると思うのですよ!」

「貴様、お嬢様に何かあれば命は無い物と思え!!」


 こらこら睨むな、失礼だぞみんなー。しかし色々気になる事が……


「ソフィアすまん、ちょっと一人でダンジョン下見してくるわ! すぐ戻る!!」

「ええっ!?」

「大丈夫だから! 危険が無いか見て来るだけだから!」


 危険と言っても危険なモンスターじゃ無くて、危険なカップルの存在だが……俺はとにかく走ってダンジョンに突入した。


「ザコモンスターよし! 人魚のユリウルよし! 活きの良いのがうじゃうじゃいるぜ。変なカップル無し、よしっ!」


 俺は指差し確認すると、急いで出口に戻った。


「ではソフィア、一緒に冒険しようかっ!」

「はいっアルケイドさま! お供します」


 二人は初心者向けダンジョンに突入した。伯爵令嬢のソフィアは一応革で出来た防具と、習っているクロスボウを持って来た。イメージと違ってなんか割と強そうだが……きゃっ怖いとか言って抱き着く姿を妄想していたが、侍女さんの言っていた通り自分で戦ってどんな危機でも突破しそうな雰囲気がする。


「初めて二人きりですわね……」

「そ、そうだな~~~はは」


 俺は違う意味で緊張した。


「これが……ダンジョンですの、わくわくしますわ!」

「ちょうど俺が前衛でソフィアが後衛の組み合わせになっているから、気になるモンスターが居ればどんどん攻撃してね! 俺が尻ぬぐいするからさっ!」


 俺はれっきとした万年Bランク冒険者だが、ここのダンジョンは初心者向けの弱いモンスターしか出ない、もっと言えば素人さんが棒で戦っても勝てるモンスターしか出ないから安心して強いフリが出来る。まあ前回のレア大型ユリウルは例外だが……


「見ろ! フライクリオネが出た! ソフィア攻撃してみる?」


 ふわふわと半透明の体をした空飛ぶモンスターが出た。これなんて棒を振って当たるとグチャッと死ぬ。でもそれって動物虐待なのでは……


「こ、これは……襲って来るのですか?」


 ソフィアがクロスボウを構えて震えながら聞く。


「いやー至って安全なヤツだなあ。血を吸って来ないだけ蚊より無害かもしれんぞ」

「そ、そうなのですか!?」


 ソフィアはクロスボウを下げる。


「やめます! こんな可愛い子を殺しちゃうなんてわたくし無理です……で、でも冒険者の方を愚弄している訳では無いのですよ!」


 ソフィアが苦笑いした。確かに俺も弱いうちはこうした何の害も無い、動物と区別付かん様なモンスターをばったばった倒して熟練度を上げて行った。スライムとかこのフライクリオネとかはまさにそういう対象だからなあ……等と物思いにふける。


「あ、あの……わたくし、人魚のユリウルのペアリングさえ手に入ればそれで良いのです、ですから害が無いのであればむやみにモンスターを倒すのはよします」


 なんと優しいと俺は感動した……しかし初心者向けのダンジョンでは、ほぼ冒険は終了した。


「おお、それでは俺が前に立つよ、もし襲い掛かって来る様なヤツがいたらばったばった倒して行くぜ!」

「お願いします! 頼りにしますね」


 ソフィアは笑顔で答えてくれたが、もちろん強い敵など出てこなかった……



 遂に人魚のユリウルというオオサンショウオ型モンスターが生息する地下の泉に辿り着いた。今日は通常サイズのユリウル達がぷかぷか泉に浮かび、岩場をのそのそ自由に歩いている。確認した通り乱獲されて無くて良かった。


「これを……本当に狩るのですか?」


 ソフィアに感化されて、よく見るととてものどかで可愛いユリウル達を見るにつけ、何かいけない事をしている気がしてくる。


「そ、そうだよ、でないとペアリング出ないんだよ!」

「ですわよね……」


 シュンとしないでよソフィアさん、貴方が頼んで来たのですよ。


「で、ではここで俺のかつての元カノのリングを破壊しますね!」


 俺はそこら辺のユリウル共に見せつける様に七色に光りまくるリングを取り出した。これで本当にユリウル共が反応しているのか凄く不安だ。


「ええええええ!? ユリウルのペアリングってそんなに凄い物なのですかっ!?」


 ソフィアさんナイスリアクション!! 凄いでしょうこれ。


「い、いやこれなんか後で知ったんだけどさ、レア品かなんかみたいでさー、なかなかドロップしないヤツみたいなんだ。ま、今日こいつともオサラバする訳だけどね、ははははは」

「そ、そうなのですか……」


 ソフィアはだんだん怪訝な顔になって来た。およ、俺なんか変な事言ったかな? 


「じゃ、見ててくれよーっ」


 俺は一番近くのユリウルの視線の先の岩場にカチャッと七色に光るリングを置くと、剣の柄頭をぐいっと振り上げた。


「ごくり……」


 真横でソフィアが口に両手を当てて神妙な顔で見ている。その瞬間、何故か俺はこれを手に入れた時に子供の様に無邪気に喜んでいたセレスティアの顔が浮かんだ。


 何で浮かぶんだよこんな時に……


「うおーーーーー!!」


 再び柄頭を振り上げて、思い切り叩き付ける。

 ガシャン!!

手元が狂い、遠い地点に柄頭がぶち当たる。


「は、ははは、おかしいな。こんな近い距離なのにな」


 俺は引きつった笑いでソフィアを見たが、ソフィアの顔もこれから恋人のワクワクイベントが始まるという雰囲気では無かった。俺は再び柄頭を振り上げる。


『アルケイド、あなた絶対あぶれるだろうから、あたしがけっこんして上げる!!』

『お、おう』

『お、おうじゃないわよ! もっと喜んでっ!!』

『お、おう……』

『はい、これ』

『これは?』

『ゆびわ交換ごっこするの!』

『はずかしいよ』

『大きくなったらいっしょにユルルルのリングとりに行こうねっ!』

『お、おう』


 思い出した……そんな事があったんだった。俺はなんて事を……セレスティアなんも言わんから。情けない事に気付くと目から涙が出ていた。

 幼稚園の時の事を思い出し、捏造の元カノの捏造の想い出のペアリングを叩き壊す事に躊躇して、神妙な顔して見てる伯爵令嬢の前で涙をポロポロ流す俺。カオス過ぎて訳が分からないよ。


「はぁああああああああああああああ、ソフィアとくと御覧(ごろう)じよ!!!」


 俺は男らしく無い情けない涙をポロポロ落としながら決心して剣の柄頭をリングに打ち付けた。


「……おやめになって!!!」


 と、思った瞬間、なんとソフィアがリングの真上に覆う様に両手を被せた。


「危ない!! 何をするんだ!? ソフィアの指を打つ所だったじゃないか!?」


 本当に危なかった。俺としては信じられない反射神経が発揮されて寸でで止まった。


「これは、壊してはいけない物です。貴方のとてもとても大切な物なのでしょう……」


 え? 何故泣いてるの??

気付くと何故かソフィアの目からも大粒の涙がぽろぽろ流れていた。


「でも……でないとリングが出ないよ」

「そんな物要りません! アルケイドさまの大切な思い出を壊してまで新しいリングなんて要りません!」


 なんていう優しい子なんだろう……気付くと本当に無意識にソフィアを抱き締めていた。こういう行動は二人の仲では初めてだった。


「今日は一緒にここまで来れただけでわたくしは満足ですわ。そのリングは大事にしまっておいて下さい」

「う、うん……」


 本当にこれで良いのか? という思いの中、そっとソフィアの肩を離すと、二人はダンジョンを後にした。

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