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国王からの提案、というか命令

「これはさすがに嘘っぽいだろう……」


 俺は目の前の遠い所の玉座に座る王様っぽい人を見て嘘にしか思えなかった。


「ははは、ここまでしたら俺でも信じる事は出来ん、わざわざ王様っぽい爺さんまで用意して来て何が目的だ? 俺全く金無いぞ……ははーん、もしかしてあのイカレ貴族の手の者か??」

「貴様っ! 王の前でなんという無礼を! 許せん斬るっ!!」


 玉座の間っぽい場所に居る騎士っぽい者達が本気で俺に斬りかかろうとしてビクッとするが、その瞬間に王様っぽい人がしゅっと片手を上げると一斉に男達の動きが止まった。


「はははははは、良い良い。無知な者のこういう反応を見るのもまた一興ぞ」


 えらそうな爺さんだな。


「どうぞ、一緒に窓からの景色を眺めませんか?」

「あ、はい……」


 丁度窓から逃げ出そうと思っていた所に、ここまで案内してくれた美女がすっと近付いて来て、手を取って窓まで案内してくれた。


「……嘘だろ……」


 美女に案内されて窓の外を見ると、どうせ一階か二階程度だろうと思っていたその景色は俺が見慣れた街の全景だった。いや見慣れたは間違いだろう、俺が見慣れた街から見上げていた城から見下ろしたらこんな感じだろうなという絶景だった。という事はつまり本物??


「ひっひいいいい、おおお許しを」


 情けないが貴族のバカ息子程度ならともかく、俺は英雄とか無頼漢では無いただの一般冒険者であり、一国の王様ともなると目の前にするとやはりびびってしまう。俺は急いで片膝を着いて頭を下げた。


「そうじゃ、ワシがピュラーテン王国の王じゃ。もう良いじゃろうさっさと話しを進めようぞ」


 王様が再びシュッと片手を上げるとあの美女を残して護衛の騎士達がすっと消えた。もちろん剣等の武器は最初から没収されている。


「あ、あの……私に一体どの様な勝利方法があるのでしょうか?」


 俺は顔を上げ恐る恐る聞いた。


「ほほ、そうじゃそうじゃその話じゃ。ファディナ・アルジェが侯爵家だと言うのは聞いたな?」

「ははっ」


 王様は立ち上がって、そこら辺の爺さんの様に腰に手を当てて歩き出した。


「ソフィア・ラングリッジの家は伯爵家でありながらも広大な領地にさらには鉱山を所有しておる。ファディナが親ぐるみで彼女をフィアンセに狙ったのは、その財力を手にする為でもある。というよりもそれだけが目的であろう」

「はぁ……」


 何でも知ってるんだなあこの人と思った。


「そしてアルジェ侯爵家は古くから王家に后を輩出した巨大な貴族、その貴族がさらに莫大な財力を得て、さらに力を蓄えやがてこの王家にすら仇なす存在となる事はワシとしても面白く無い」

「はい、つまり?」

「今回の決闘を契機に次期当主であるファディナ・アルジェを消す。そうしてアルジェ侯爵家の威勢を削ぐ。それがお前を呼んだ理由じゃ」

「は、はぁ? それで……俺は私はどうすれば??」


 なんか物騒な事になって来たなあ。いや俺もあの貴族には殺されかけてる予定な訳だけど。


「お前はソフィア・ラングリッジから彼女のクロスボウを借りるのじゃ」

「は、はぁ? 話が見えないのですが」


 唯一この場に残った美人さんがすっと寄って来る。


「具体的な手はずは私がお教えしますわ。貴方はソフィアさまからクロスボウを借り、私達はソフィアのクロスボウの職人が作った同じ矢を用意します。その矢を持った刺客を決闘の会場となる観客席など四方八方に配置するの。その為に王立闘技場を貸し出しして観客まで呼ぶのよ。貴方が撃った振りをして、百発百中の刺客が確実に彼を仕留めるわ。警察も裁判所も私達の配下、誰にも疑わせる事無く、スムーズに事は運ぶでしょうね」


 え、それって……


「あ、あのそれってつまり不正をしろという……」

「そうよ、それが貴方が絶対に決闘に勝つ方法よ」

「………………」


 マジかよ……なんかめっちゃパワーアップする武器とか魔法とかくれるもんだと。都合が良すぎる考えだったか。


「冒険者よ、何故そなた風情がワシとこの場で対面出来ると思う?」

「それは……拒否したら消されるとか、ですか?」

「そうじゃ、それくらいは理解しておる様じゃな。そなたが目隠ししてここまで来たのは、そなたに道順を隠す為では無くて、少数の者以外にそなたの顔を隠す為じゃ。そなたがこの工作を拒否すればすぐさまアルケイドという冒険者はこの世から消えて、すぐさま侯爵家を潰す別の方法を考えるのみ」

「そうよ、貴方には拒否権は無いのよ、王様の有難い助力をお受けするか、拒否してあの世に旅立つか……二つに一つしか無いのですわ」


 俺が何か物語の主役や選ばれし正義のヒーローだったならば、そんな不正に頼らなくとも俺は勝つ! とか宣言して配下の騎士達をなぎ倒して部屋を出て行くんだろうな……だけど俺はつい最近Aランクに昇格した程度のしがない男、それに生き残って可愛いセレスティアにも会いたいし、ソフィアとも付き合いたい……結局強い者に逆らう事は出来ない、これが現実だな。


「そのお申し出、有難くお受けします……王様のお優しさに感謝の言葉もありません」

「ふむ、よく分かっておるの。そうじゃな、上手く行けばそなたには何か役職の一つでもやろうぞ」

「これは、準備金よ。立派な防具や武器を揃えて。クロスボウを借りる事も忘れちゃだめよ」


 あの美女が袋に入った恐らく大量の金貨をくれた。俺は平伏して有難く頂戴した……でもあんまり嬉しく無い。憧れていた王様からの依頼とは言え、実際は政治的な権力闘争の為の殺し屋の片棒を担ぐことだ。俺は深々と頭を下げると玉座の間を出た。そして再び目隠しをされる……



「もういいわよ、目隠しを取っても大丈夫よ」


 帰りの窓の無い馬車の中、あの美女が親切に言ってくれた。しかし来る時程のときめきは無かった。


「つらいでしょうが、こういう事を乗り越えて大物になる者も多いわ」


 うわ、めっちゃ優しい子じゃないか! 涙が出そう。でもこれで良かったのかな……


「あのう、もし生き残る事が出来れば、いえ必ず成功するでしょうけど、また貴方とお会い出来るのでしょうか?」

「あら、セレスティアさんにソフィアさん、美女二人に囲まれてまだ欲を出すのかしら? いいわよ、がんばって下さいな」


 目の前の美女は妖艶な顔で笑ってくれた。名前を教えてもらってないが、まあいいか。



 次の日、俺は早速ソフィアの館の前をうろうろして警備兵に捕まり、そのままソフィアになんとか繋いでもらってクロスボウと矢を借りた。


「あの……貴方様にお願いされた以上これはお渡しします、けれど一体何故クロスボウをお使いになる事に?」


 ソフィアがあからさまに怪訝な顔をして聞いた。


「そ、それは詳しくは言えないのだけど、俺が勝つ為に必要なんだよ! 安心して絶対に勝つから!!」

「アルケイドさまは何でもあけすけに仰って下さっていたのに、急に遠い人になったよう……」


 う、鋭いな。


「失礼な事を言ってしまい申し訳ありません、無事をお祈りします」

「あ、ああ! じゃあな」


 なんか、ギクシャクし始めたな。



 それから何日も何もする気が無く、修行も何もしないで寝ていた。しかし決闘前日になって足がセレスティアの武器屋に向いていた。


「いるー?」


 恐る恐る店の中に入ると、セレスティアは普通に店番をしていた。


「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」

「ははは、やだなあ俺じゃないか、他人行儀だなあ」

「冷やかしなら警察を呼びますよ」

「明日決闘なんだよ、優しくしてよ」

「ソフィアさんに慰めてもらえば?」

「そんな事言わないでさあ、実は運よく絶対に決闘に勝つ方法が転がり込んで来てさあ、明日の勝利は確約されたんだよ」


 冷たかったセレスティアがぴくっと反応した。


「何それ? 何かやばい事するんじゃないでしょうね」

「安心してよ! 120パーセント絶対勝てるから……それでさ、もしかだけど俺が決闘に勝ったらさ、一緒に暮らしてみないか?」

「え? いやーーーーーーーっっ!!」


 突然セレスティアは頭を抱えて泣き叫び出した。


「え、そんなに嫌なの!?」

「違うよっ、物語で観たの! 戦争とか戦う前に結婚とか同棲の約束したらその男は絶対に死ぬの! 貴方は死んじゃうのよ!!」


 なんだよそれ。俺……死んじゃうの??


「死なないって! 詳しく言えないけど本当に120パーセント勝利が約束されてるんだって!!」

「不正でもするの?」


 う、またもや鋭いな。


「違う違う。実力で勝つ! だからさ、今夜は一緒にいさせて」

「う、うん……いいよ」


 本来なら精神を研ぎ澄まし、体力を温存させる場面だがその晩もセレスティアと一緒に過ごした。

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