琴葉 茜・葵の動画投稿戦略
ある日突然お姉ちゃんからとんでもない提案をされた。
「葵、ウチらも動画投稿せぇへんか?」
動画投稿。
それは文字通り、動画を撮ってウェブサイトに投稿することである。自分が買った商品のレビューしたり、ゲーム実況したり、歌を歌ってみたり……他にもいろんなジャンルの動画が無数に存在する。今やいろんな動画投稿サイトがあって、誰でも簡単に動画を投稿することが出来る。
きっとお姉ちゃんは誰かの動画を見て自分も動画を作ってみたくなったんだろう。
「……別に好きにすればいいんじゃない? 私はやらないけど」
「なんで!? 葵も一緒にやろうや! ウチらがコンビ組んで動画投稿すれば天下統一できんねんで!」
天下統一って…… そんなのそもそも興味ないし。
それに今更動画投稿したところで人気なんか出るわけがない。今やいろんな人気動画配信者がいる中、ぽっと出の私たちじゃ太刀打ちできない。そんなことちょっと考えれば分かるはずなのに。お姉ちゃんは思い立ったらすぐ行動しちゃうタイプだから、いっつも困らされてしまう。……まぁでも、そこがお姉ちゃんのいいところでもあるんだけど。
私がしばらく黙っていると、お姉ちゃんはウルウルした瞳で私を見つめてきた。それされると断りにくいんだよね。お姉ちゃんも分かっててやってると思うんだけど。
「……話だけなら聞いてあげる」
「ほんまに!? やった! これでウチらも人気動画配信者の仲間入りやで!!」
楽観的すぎる……今や可愛いだけじゃ人気なんて取れないのに。
「それで、お姉ちゃんはどんな動画投稿するつもりなの」
「んー。特に決めてへんな。ゲーム実況したり雑談動画撮ったりとか、なんかいろんなことしてみたいとは思うてるんやけど……どう思う?」
「いいと思うよ」
「ほんまに!? 葵もこれで人気動画配信者になれると思う?」
「人気動画配信者はたぶん無理だと思うよ。チャンネル登録者が2ケタか3ケタくらいの底辺動画投稿者くらいにはなれると思うけど」
特定のジャンルに絞らないで成功するのは元から知名度がある人だけ。私らみたいな無名の人がいろんなことやっても興味持ってくれる人は少ないと思う。
「そんなん嫌! ウチは絶対人気投稿者になりたいんや!」
「それなら特定のジャンルに絞ったほうがいいかもね。そうすればある程度の人気は得られるかもしれないよ」
「うーん。それならゲーム実況者になろうや! 動画投稿者って言うたらこのイメージやし! いろんなゲームをやりまくるで!」
「うん。いいと思うよ。だけど人気を得たいんだったら話は別。まずはプレイ人口の多いゲーム1つ選んで、あとはその動画だけを長期的に投稿するべきだと思うよ」
「え? なんでや?」
理由は簡単。ゲーム実況を見る人は上手いプレイを見て勉強したいから。
無名のゲーム実況者の動画を見る人っていうのは、自分もそのゲームをやっている、もしくはやっていた人。そういう人たちは上手くなるための知識を求めて日々動画を探しているはず。ゲームをやり続けてれば嫌でもそのゲームの専門家になってくる。そうすればその人たちに需要のある動画を出せるようになる。こうなることが重要なんだと思う。
さらに言うと、やってはないけど興味はある人。こういう人たちはテクニックや知識うんぬんよりも実況者のトークとかが好きな人が多い気がする。
そして人気のあるゲームをやれっていうのは、プレイヤー人口と同じ数だけ動画が見られる可能性があるから。だから人気のあるゲームをやることは重要だと思う。まぁその分ライバルも多いから、やるゲームは慎重に選ばないといけない。どのゲームの実況者になるべきか。これはなかなか難しい問題である。
それに有名なゲームって著作権的な問題があるからそういうチェックもちゃんとしないとね。フリーゲームとかならそういうの緩いのかもしれないけど、人気があるのはすごく少ないと思うし……
「……なんか話聞いとるとゲーム実況者はややこしそうに思えてきた」
「それなら別のジャンルにしてみたら?」
「それもそうか……そうや! 歌ってみたならどうや? あれなら確実に人気でるやろ!」
「確かにそうだね。私たちのカワイイ声で歌っとけば結構見てもらえるかもね」
「……葵もなかなかの自信家やな。それじゃあ、歌ってみたに決定や!」
「だけど音楽系はゲーム以上に著作権厳しいと思うよ。収益化とか考えてるならなおさらね」
音楽系も倍率は高いし、それにうまいだけの人ならごまんといる。
っていうか、そもそも曲の選択肢がありすぎてどれ歌ったらいいかよく分かんないんし。
「あっ、そうか! 収益化とかも視野に入れなあかんかったな!」
ええっ!? 収益化考えてなかったんだ!? 人気になるだけってそれタダの承認欲求モンスターじゃん!!
「そんなら歌ってみたもやめて方がよさそうやな」
「お姉ちゃんは他にやりたいこととかないの?」
「んん……せや! 料理動画なんてどうや? 料理動画も結構需要あるはずやで!」
「確かに料理って無限のレシピがあるから個性も出せるだろうし、案外いいかもしてないね」
「せやろ! 今度こそ決定や!」
「でもめちゃくちゃ面倒だと思うよ。下準備とか料理工程をしっかり撮影しないと。おまけに調理専門家の動画投稿者ってたくさんいるから倍率もめちゃくちゃ高いと思うし」
「……なんか、どんな動画を出したら人気になるか分からんくなってもうた。葵は何やればいいと思う?」
「人気を出すんだったら切り抜き動画とかがいいと思うよ」
「切り抜き動画ってなんや?」
「なんかの面白シーンだけをかき集めたみたいな動画のことだよ」
「それなら人気出るんか!?」
「出るとは思うけど……」
「思うけど何や?」
「面白シーンだけ見せればいいから、私たちは一切出る必要がないんだよね」
「それだと意味ないやん!!」
フフッ。やっぱりお姉ちゃんのツッコミは面白いな。
「……人気云々じゃなくて、私は姉ちゃんと一緒に楽しみながら動画撮れたらすごく素敵だなって思うよ。だからなんでもいいんだよ。あっ、でも迷惑系の動画はダメだよ! あれは害悪すぎるから」
「あ、葵…… お姉ちゃんがまちごとった! そうやんな、人気なんかどうでもええねん! ウチらの思い出として動画を作ろうな! ほんで人気が出たら御の字やし」
「お姉ちゃん、結局人気は欲しいんだ……」
「そりゃそうやろ!!」
いろいろあったが、私たち琴葉姉妹は動画投稿を始めた。
これから先、私たちはどのような動画をだすのか。
非常に楽しみである。