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悪魔の館  作者: 北キツネ
8/11

タツトたちは朝、昼と食事を行い今日も晩餐の時間が訪れている

それまでに彼らに対する妨害は無く、食事に毒を盛られる事も無かった。

そして、前日よりも少なくなったメンバーでテーブルを囲み食事が開始された。


「なんで今日もここなんだ!?」

「席順は抜けた所を詰めただけなのだから当然でしょ。それとも私が隣じゃあ不満?」

「不満だから言ってるんだけどな。」


すると周囲に座る男女からタツトへと鋭い視線が飛んできた。

何もしないのは傍にリリスが居るからで、そうでなければ袋叩きにされてもおかしくない雰囲気を纏っている。

今日も向かいにはアケノが座っているが、既にそちらを見る者はなくタツトのみが標的とされていた。


「それにしてもこんな針の筵みたいな状態で良く食事ができるわね。」

「昔は虐められっ子だったからな。敵意や悪意を向けられるのは慣れてる。」

「そいつ等に復讐したいとは思わないの?」

「そんな事を思う必要がない程度には十分に打ちのめして来たからな。どちらかと言えば手を出してくれるのを待ってるくらいだ。そうすれば正当な理由で目を覚ましてやれる。」


タツトは食べながら獰猛に笑うと周囲を威圧した。

しかもその目には本気の意志が宿っており、向けられている視線を跳ね返すには十分な威力を持っている。

その姿にリリスは笑いその声と表情で周囲を和ませた。


「どうやら私はあなたを見誤ってたみたいね。まさか山羊の皮を被った狼が紛れ込んでいるなんて。」

「失礼な事を言うな。俺は山羊の皮を被った羊だ。何処を見たら肉食系に見える。」

「羊は肉を食べないものよ。」


するとリリスはタツトの皿に指を向けながら笑ってみせた。

それにはタツトも一本取られたと悔しそうな表情を浮かべると気を取り直して更に肉を口へ運ぶ。


「食う物は食ったから俺はそろそろ席を外させてもらう。」

「話の途中でしょ。」

「アケノも食事が終わったみたいだ。話がしたいなら朝と昼にも顔を出せばよかっただろう。」

「こちらにも事情があるのよ。」

「夜の女王だからか?」

「・・・あなたとの話はこれで終わりです。他の人たちとも話をするので席を譲ってちょうだい。」


リリスはタツトの言葉にあからさまな反応を示すと途端に冷たい態度を取り始めた。

それに周囲も反応するとタツトを左右から掲げて持ち上げると椅子の後ろへと放り投げる。


「イテテ~乱暴な対応だな。」

「大丈夫ですか!?」

「ああ。でも収穫はあったな。」

「はい。」


タツトは心配そうに駆け寄ってきたアケノに小声で返すと打った尻を擦りながら立ち上がった。

そして、リリスを見ると視線すら向けずに他の者との話に花を咲かせ笑顔を浮かべている。

2人はそれを横目にしながら部屋を後にすると時間になるまで部屋で待機し時間を潰していた。


「体調は大丈夫か?」

「万全とは言えませんが少しは動けます。こんな状況では休んでも居られません。」

「なら最後まで諦めるなよ。」

「はい。」


そして時間になるとタツトはアケノの手を引いて正面玄関へと向かって行った。

その手は振るえて氷のように冷たくなっていたがタツトから体温を貰い到着する事には暖かくなっていた。

アケノは反対の手でその手を包むと顔の前まで持ち上げて強く握り締める。


「この暖かさが私に元気と力をくれます。」

「それならゲームが終わったらまた温めてやるよ。」

「約束ですよ。」


すると昨日と同じ様に執事が代表として声を張り上げ、ルールの説明を始めた。

しかし大まかな所は昨日と同じだが1つだけ違う所がある。


「今日のかくれんぼでは隠れる時間が20分与えられます。その後はゲームが開始されて終了までが60分です。もしかすると今日で勝者が決まるかもしれませんね。」


執事の言葉を聞いて参加者たちの目の色が明らかに変わった。

そして今日は誰も質問をしようとせず、それを見て執事が開始の合図を送ろうとする。

しかし、そこでタツトが手を上げると執事に向かい質問を投げ付けた。


「聞きたい事がある。そちらの準備した鬼にもモートは有効なのか!?」

「・・・!」

「何言ってんだアイツ?相手はエキストラだぞ!」

「そんな質問をして時間を無駄にするな!」


しかし周囲からは無駄な質問とヤジられているが、執事の方の反応は違った。

顔を歪めながらタツトを睨むとその口から返答が告げられる。


「有効です。」

「マジか!」

「それなら撃退も出来るのね!」

「・・・他にはありませんか?」

「そちらが準備した鬼はあと何人残っているんだ?」

「・・・既に1人倒されているので残りは6人です。」

「なあ、このゲームの残りの参加人数を全員教えてくれないか?」

「・・・51人です。」


どうやら執事はこの時に限り嘘を言えないようでタツトの質問に嫌そうな顔で答えていく。

しかし2人のやり取りを聞き、鋭い者は人数が合わない事に気付き始めていた。


「あれ?私達の残りは46でしょ。鬼が6人なら参加者は52人じゃないの?」

「1人合わないわよね?」


タツトたち以外で参加者の中にスパイが居るとは誰も思っていない。

そして食事の時に参加者の人数は66人だと全員が知っている。

昨日の失格者の人数も伝えられているのでちょっと暗算すれば数がおかしな事に気付くのは難しい事ではなかった。


「当選参加者は何人残っているんだ。」

「・・・45人です。」

「1人少ないぞ!」

「まさか私達の中に鬼が紛れてるの!?」

「流石にそれは反則だろ!」


ここまで色々な事が伏せられていたと気付けばリリスに魅了されていたとしても不満が出て来るのも当然である。

その状況にタツトは歪んだ笑みを浮かべると最後の質問を執事へと投げ付けた。


「このかくれんぼにおける真の勝利条件を教えてもらおうか。」


その言葉に周囲の視線がタツトと執事の2人に集中する。

先程まで騒いでいた者達も口を閉ざし、返答に耳を傾けている。

何故なら彼らはかくれんぼという性質上、最後の1人になればゲームは終わると思っていた。

しかし真実を知るタツトたちはそんな事を思ってはいない。

以前のゲームで最後の一人が殺されている事を知っているので真の勝利条件が伏せられているのではという結論に達していた。


「真の勝利条件・・・それは・・・。」

「もう良いわ。」


すると執事が答えようとした所へリリスが割って入り後ろへと下がらせた。

その顔には笑みが浮かんでいるが目は氷のように冷たく真直ぐにタツトを睨み付けている。


「代わりに答えてくれるのか?」

「そうね。真の勝利条件とは最後の1人となる事よ。」


すると周囲から安堵の息が幾つか零れるがそれは再び大きな勘違いをしているからだ。

いまだに魅了の効果や心酔してリリスを信じたいという思いが正常な判断に蓋をしようとしていた。

しかし、次の言葉がその蓋を蹴り飛ばしリリスへと跳ね返した。


「それはお前等の言う鬼も含めてだろ。」

「そうね。ここまで来たら素直に答えてあげるわ。」


リリスは何でもない様に言葉を返すと周りの者達は裏切られて崖から突き落とされたような顔になる。

そして一方的に向けていた思いは捻じ曲がり、それは怒りとなって彼らの心を満たしていく。


「これは・・これはどういう事ですか!?」

「どうもこうも私達はあなた達にチャンスをあげていたのに気付かなかったのはそちらでしょ。それに私が好意を1つでも受け取ったかしら。」


その辺りの事に関してリリスは徹底している。

名前も呼ばせず何も受け取らず、彼らの行動や思考を言葉巧みに誘導していた

それにゲームの開始前にはこうして質問の機会を与え嘘を含まずに答えている。

ただ重要な事が伏せられており、思い込みや勘違いを利用していた事だけが事実であった。


リリスはここで彼らを突き放すと冷酷な言葉を告げる。


「ルールを一部変更するわ。ゲームの制限時間は朝日が昇るまで。今夜で全てを終わらせます。それではゲーム開始。」


しかしリリスの言葉を理解して動き出す者は少なく、殆どの者がその場で呆然と立ち尽くしてしまっている。

その中でタツトは周囲に視線を向けて指示を出すとアケノとミヤは人の間を通り抜けて走り出し、クレナイは人を弾き飛ばしながら駆け出した。

それはタツトも同じで周囲の者達を巻き込みながら動いている。


「イテ!」

「きゃあ!」

「な、何するのよ!」

「負けたくないなら動け!」


すると周囲は悲鳴や衝撃でようやく思考が再起動し動き始めた。

しかし、その動きは精細さを欠いており、統制も取れていない。

どうやらあれだけの情報を得た今でも協力し合うという考えは抱けていないようだ。


「ここまで儀式を掻き回されたのは今回が初めてね。」

「しかし、これが最後ですので今夜中にはあの方も復活させられるでしょう。」

「そうね。そうすれば私達も自由になれるわ。」

「そうでございます。この館に囚われて100年となりますが、ようやく解放の時が来ました。それに私も見ているだけではなく参加させていただきます。」

「それなら私も参加しましょう。久しぶりに新鮮な血が飲みたいわ。」


リリスはそう言って着ていた服を破り捨てると昨夜にタツトの前に現れた時の姿へと変わる。

すると執事の方も体が次第に大きくなり、筋肉が異常に発達していく。

そして、顔は人の形を捨て去り2本の角を伸ばすとミノタウロスへと姿を変えた。

更にその手は階段の横に飾られていた巨大戦斧に伸ばされると片手で持ち上げて肩に担いだ。


「我が愛斧である猛牛王を使うのも久しぶりですね。」

「以前は薪割りにしか使って無かったものね。でもそのネーミングセンスはどうにかならないの?」

「私も最後ですから言いますがその服装のセンスは如何なものかと。私が現代に則した服をご用意しているのですからそちらをお召ください。」

「・・・。」

「・・・。」

「「ハハハハハ!」」

「その喧嘩買ったわ!」

「従僕として主に恥ずかしくない教育を行うのも使命と見つけました!」


そして2人が無駄とも言える争いをしばらく続けたのは言うまでもない。

音楽性の違いからグループが解散する事もあるというが、服のセンスで主従が争うこともあるようだ。


そして、時間は経過しゲーム開始の時間がやって来た。


「・・・不毛な戦いだったわね。」

「・・・これもあの男の天命というものの影響でしょうか。」

「きっとそうね。」


恐らくは成り行きを見ていた者が居れば、それは違うだろうとツッコミを入れたはずである。

そしてリリスは気を取り直すと前日と同じ様に召喚を行い2体の怪物を呼び刺した。


「「呼びかけにより参上しました。」」

「よく来たわね。実は事情が変わって今夜で全てを終わらせることにしました。制限時間は夜明けまで。それまでに全員を始末して来なさい。」

「「畏まりました。」」

「それで、あの者は?」

「ゲームは開始されているからそろそろ動き出す頃ね。・・・な!」

「どうされました!?」


リリスは急な展開に驚き館の奥へと視線を向けた。

そちらからは先程まで僕であるグールの気配がしていたが今は消えて感じられなくなっている。

それはすなわち、開始と同時に倒された事を意味していた。


「グールが狩られたわ!」

「なんと!擬態は完璧であったと思いますが!?」

「分からないわ!それよりも急いで向かいなさい!油断をしていると足元を掬われますよ!」

「「畏まりました。」」


怪物たちはそれぞれに動き始めると探索を開始し、それを見送ったリリスは執事に視線を向けた。


「争っている場合では無さそうね。」

「その様です。我々も急いで参加しましょう。」

「ええ。」



そして時間は少し遡り、廊下を1組の男女が駆けていた。

男性の方は小柄で小動物を思わせる見た目でタツトの仲間であるシロウ。

かなりのペースで走っているため息も乱れて汗もかいている。

その手は1人の女性の手を握っているがそちらは笑顔を浮かべ息も乱していない。

しかし、よく観察すれば息を乱すはずがない事に気付く事が出来る。

何故なら彼女は参加者に紛れていた鬼の1人であり、死人とも言われるグールだからだ。

その目には御馳走をお預けにされた猛獣のような狂気が宿り今にも後ろから飛び付いて押し倒しそうな気配すらある。


そして、シロウは扉の前で止まると時間を確認し中へと入って行った。

ちなみに彼らは一番に駆け出しているため周りには誰も居らず、聞こえてくる音は息遣いと足音だけだ。

そしてシロウが壁に歩み寄って何度かノックすると壁が外れて隠し部屋が姿を現わした。


「ここに隠れるんだ!」

「ええ。ここから一緒に隠れられるわね。」


グールは既に食欲を我慢するだけで思考の大半が占領されてしまっている。

それに彼女にとってシロウは子牛や子羊の様で最高の御馳走に見えていた。

その細い手足は食べやすそうで無駄に筋肉の無い体の肉はとても柔らかそうだ。

漂ってくる汗の臭いすら香辛料の様に食欲を刺激し、その腹を割いて内臓を口にすれば至高の味がするに違いない。

しかも今回はゆっくりと食べる時間もありので時間が来ると同時に飛び付く心算でいた。


「あと5分だね。」

「あと5分。」


グールにとってはとても辛い我慢の時間である。

彼女は目を瞑ると心の中で時間を数えながらその時をゆっくりと待っていた。


「あ、あと1分ね。」

「そうだね。」


ここには灯りが無いためグールの表情をシロウが知る事は出来ない。

しかし、もし見れたならその目は常軌を逸しており、口から零れる涎の量に驚いていただろう。

そして、その口からは無意識にカウントダウンが漏れ始めシロウの耳に届いていた。


「10・9・8・7・6・・・・。」

「モート、モート、モート。」

「え?」


すると横から聞こえる筈の無い言葉が聞こえグールは数えるのを途中で止めた。

しかし、既に呪文は唱え終わった後であり、彼女は手足の自由は失われ土の様に罅割れていく。


「そんな!どうして!?」

「悪いけど君が敵なのは最初から知ってたんだ。だから君をここに誘導して嘘の時間を教えたんだよ。」


シロウは壁を押し開けて外に出ながら種明かしを始めた。

それを聞いてグールの思考に1つの顔が浮かび上がってくる。


「あの44番の女ね!」

「そうだよ。彼女は君から死体の臭いがするって言ってた。香水で誤魔化しても彼女には分かったんだね。それに君の手はとても冷たかった。最初は僕も不安だったけどすぐに確信できたよ。」

「騙したのね!」

「さっきもそう言ったよね。それにこの光景を他の人に見せる訳にはいかないからね。今の彼らだと僕たちが君を殺したと勘違いするかもしれない。だから2人でこうして隠れてから計画を実行したんだ。」

「ああーーー!」

「君は僕達の中に紛れた癌細胞だからね。最優先で潰させてもらった。それじゃあ僕は行くから。」


そして、シロウが背中を向けた頃には既にグールの体はその殆どが崩れて頭だけとなっていた。

そして耳が消え、口が消えて残った眼球だけがシロウの後ろ姿を映し最後には消えていった。


「は~僕は肉体派じゃないんだけどな~。」

「そんな事を言っていると強い男にはなれないぞ。」

「クレナイさん。」


部屋から出るとクレナイがすぐに声を掛けて来た。

もちろん失敗した時の為だがフォローの必要は無かったため、その顔には笑みが浮かんでいる。


「さあ、次に行くぞ!」

「仕方ないですね。一番大変そうなのはタツト君ですから。」

「あちらは完全に狙われているからな。」


そう言って彼も走り出すと次のポイントへと向かって行く。

そして既にそれぞれの場所で戦いと殺戮が始まろうとしていた。

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