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タツトは仲間を増やすために男性で生きのこっているメンバーを探し部屋を訪れていた。
1人目
「誰かと思えば贔屓野郎か。やっぱり生き残りやがったか。」
「ちょっと話を聞いて欲しいんですけど。」
「自分の下に着けってか?そんな話に乗る馬鹿は居ねーよ!」
出てきた男は話も聞かずに罵倒を浴びせると勢い良く扉を閉めた。
その様子にタツトは自分の評判が予想以上に悪い事を知り、自然と溜息が零れる。
「贔屓されたいなら変わってほしいくらいなんだけどな。」
それに証拠があったとしてもそれを見てもらえず、最初から信頼が無ければ信じる者は居ない。
人はたとえそれが現実だとしても脳内で都合の良い様に捻じ曲げ、虚構の現実を作り出してしまう。
それが嫌いな相手、信用していない相手なら猶更である。
「誰か一人でも話を聞いてくれれば突破口になるかもしれないんだけどな。」
2人目
「こんばんわ。」
「やあ、君は1番の人だね。」
すると出て来た男性はタツトと同い年くらいだが落ち着いた印象を纏っていた。
先程の男性はタツトを見るなり顔を歪ませて会話にすらならなかったが、今回は大丈夫そうだと少し安心を感じている。
「それでですねちょっと見て欲しい物が・・・。」
「それにしても君は彼女からの信頼が厚いようだね。」
しかしタツトが話を始めようとするとそれを遮って相手が話し始めた。
ただ急に彼女と言われても分からず、首を傾げる事しか出来ない。
「彼女とは誰の事ですか?」
「それはこの館の主であるリリスさんだよ。僕は名前を呼ぶ事さえ許してもらえなかった。他の人達も同じでね。どうやってそんなに親しくなったんだい?」
この時点でタツトはリリスによって印象操作がされている事に気が付いた。
そしてさっきの男性の態度や言葉から、話した事も無い相手にどうしてここまで嫌われているかの理由へと辿り着く。
「彼女からは何と?」
「君の事をとても気に入っているそうだよ。この館から二度と出したくない程にね。」
リリスの言っている事は真実だが大事な部分がすり替えられている。
出したくないのは本当だが、生きて出したくないというのが正しい。
そして、それはここに集められた人間は全員に等しく言える事でそこに差別、贔屓は存在しない。
あえて言えばメイドを倒した事で最優先のターゲットにされていることくらいだろう。
それに誰だって命を狙われて嬉しい者は居らず、ストレスで胃に穴が開きそうになっていた。
「話だけでも聞いてもらっても良いですか?」
「残念だけど笑顔を保つのもそろそろ限界なんだ。明日のゲームを君が棄権するなら別だけどね。」
そう言って男性は最後に笑顔を消して扉を閉めてしまった。
これで2人目も失敗に終わってしまいタツトは人生最大とも言える溜息を吐き出した。
「リリスの野郎。変な事を吹き込みやがって!」
「フフフ、残念ね。私に魅了された男は私の言いなりよ。」
「コスプレ女は山に帰れ!」
「あら酷い。せっかく本当の姿を見せてあげてるのに。」
背後からリリスの声が聞こえて振り返れば、そこには際どい水着姿のリリスが立っていた。
ただその頭には捻じれた角が左右から生えており、先の尖った尻尾が3本揺らめいている。
「ここはコスプレ会場ではありません。所定の場所だけで活動してください。ついでに写真を良いですか?」
「ダメよ。それよりもどうしてあなたには私の魅了が効かないのかしら?」
「お前に魅力が無いからだろ。」
するとリリスの額に見事な青筋が浮かんだ。
タツトはまるで漫画やアニメの様だと思いながら何気に眺めているとリリスは距離を詰める。
「このまま殺してしまっても良いのよ。ラミアは退けられたみたいだけど私達をあまり舐めない事ね。」
「舐めてたら仲間なんて募集しないだろ。頼むから俺を過大評価するのは止めてくれ。甚だ迷惑なんだよ。」
「・・・あなたは本当に人間なの?この色香で惑わないなんて尋常じゃないわよ。」
「尋常でない存在が俺を尋常でないとか言うな。俺にだって好みがある。お前みたいに色気ムンムンで超絶美人な女が苦手なだけだ。」
「あなた、落として上げるなんて誑しの才能があるわよ。」
「そんな物があっても嬉しくない。それよりも邪魔をするならどっかに行け!お前と一緒の所を見られるだけで可能性が壊滅する。」
「それなら精々頑張って無駄な努力をする事ね。まあ、無理なのは分かってるけど。」
リリスはそう言い残すとそのまま廊下を歩き去てしまった。
その様子を眺めていたタツトは自然と口から言葉が零れる。
「あんな下を履いてるかも分からない服をよく着れるな。アイツの仇名は今日から痴女にするか。」
そして、その後も部屋を周り何度も罵倒を浴び、話を聞いてもらえないを繰り返した。
ここまでくるとタツトも既に悟りを開いたように穏やかな心で扉をノックしている。
最初こそは理由が分からず心のライフゲージをガリガリ削られていたが、理由が分かって慣れてしまえば罵倒からでも情報を判別できるようになっていた。
「どうやらリリスは名前を呼ばれるのを嫌っているようだな。それに孤立させたいのは俺だけのような気がする。アケノに関してはそんなに何かを言っている様子も無さそうだからな。そうなると俺が来たのは失敗だったかもしれないな。」
この後にミヤに頼んでもう一度説得してもらったとしても、こうして最初から否定していると思考せず反射的に断る者もいる。
特に思考誘導を受けている彼らは通常の精神状態ではなく、視野もかなり狭まっていた。
このまま誰かを代役としても結果が変わる事は無いだろう。
「ここで最後か。」
ここに来るまでに13の部屋を訪ね5人に声を掛けた。
それ以外の部屋は人が居らず、まだ戻って来ていないのか殺されたのかは分からない。
そして扉をノックすると中からは眼鏡を掛けたインテリ系の男性が姿を現した。
その目はあまりにも鋭く、雰囲気からも不機嫌であることが伝わってくる。
タツトは瞬時にダメかと諦めたが、ここまでに鍛えられたメンタルを発揮して声を掛けた。
「すみません。聞いてもらいたい話が・・・。」
「お前は1番だな。俺の心のオアシスタイムを邪魔するとは余程の理由だろうな。」
「はい。実は見てもらいたいものがありまして。」
「・・・そうか。なら、見せてみろ。」
「え!?」
「どうした?」
タツトは断られると確信していたゆえに疑問の声が出てしまった。
そして部屋の中に入ると机の上には一時停止されたDVDプレイヤーが置いてあり、それには何かの映像が写し出されている。
どうやら男性が言う心のオアシスとはDVD鑑賞だったようだ。
「すみません。ブラックブラッドの鑑賞中にお邪魔してしまって。」
「なに!お前は・・・いや、君にはこれが一目で分かるのか!?」
「俺もこのアニメは30回以上見ていますからね。そういえばこれに出てくるヒロインはここの主と似ていましたね。」
「そうなのだ!しかし、やはり似ていても所詮は三次元だ。本物には遠く及ばんよ!」
どうやら見た目のインテリ感に反して男性は二次元に生きる特殊な趣味を持っていたようだ。
それを言葉で言うならオタクなのだが、ある漫画がアニメに続いて映画化された事で最近では一般人との境界があやふやになっている。
ただし、この男性に関して言えば確実に境界を飛び越えてオタクと言えるだろう。
今では先程までの不機嫌顔が嘘のように消え去り、親友にでも出会ったような笑みを浮かべている。
「それで、同好の士に見てもらいたい物がある。」
「喜んで見せてもらおう。君がこうしてわざわざ足を運ぶという事は余程の事なのだろう。」
「ええ、ちなみに俺は1番のタツトです。」
「俺は13番のクレナイだ。まあ、こういう所で偽名なのは言わなくても分かってくれるだろ。」
「もちろんです。」
そしてタツトはおかしなと言えば語弊があるが、偶然にも同士に出会い録画映像を見てもらうことに成功した。
「まさかあの執事が厨二病を患っていたとはな。」
「・・・それをマジで言ってますか?」
「流石は同士。良いツッコミだが今のは冗談だ。しかし、そうなると最終的には俺も命が危ないと言うことか。」
「ここに招かれている人間は全員ですね。しかも怪我をして棄権しても行先は病院ではなくあの世ですよ。」
「それにタツトは殺された者を目撃したのだったな。それに怪物に悪魔か。まさにここはウィンチェスターのミステリーハウスと言ったところか。」
「あっちは銃で殺された人達の怨念ですけどね。それにさっきリリスは俺を殺せると言いながら殺さなかった。」
「もしかすると奴等もゲームの参加者なのかもしれない。消えた1人はゲーム前だったから殺す事が出来たとみるべきか。」
「又はそいつも知らないだけで贄の一人に数えられているのかもしれない。」
2人の思考はオタク脳なのでこういうファンタジー知識になると常識に関係なく意見を出し合える。
それは他の者には出来ない事で打てば響く会話に心地良さすら感じている。
「そうなると過去の例からいって奴等が動くとすれば今夜だろうな。」
「車を失くして参加者が帰ったように見せかけると言うことですね。」
「ああ、その通りだ。まあ、そこは見なくても良いとしてだ。」
「無くなっていれば確定ですからね。」
「問題はスパイも人間でない可能性があると言うことだ。」
「そういえば女性側の協力者はミヤと言いますが医者をしていて目星がついているとか。」
「もしかすると医者の視点から既に不審な点に気付いているのかもしれないな。後で合流した時にでも聞いてみよう。」
「そうですね。」
そして、2人は一旦話を打ち切ると今日は眠る事にした。
明日からも命を賭けたゲームが待っており、疲労を残す事は死に繋がるからだ。
「そういえば、あなたの望みって何ですか?」
「それはもちろん、好きな漫画や小説をアニメ化させることだ!!」
「それはとても心が引かれますね。」
「そうだろう!」
タツトは部屋から出るとしばらく空けていた自室へと戻って行った。
そして中に入ると今もベッドではアケノが寝ており、動いた気配はない。
しかし、この部屋で寝られる所はベッドしかなく、ソファーや予備の折り畳みベットも見当たらなかった。
「仕方ないから床で寝るか。」
「・・・タツト・・さん。」
「起きたのか。」
「はい。色々とありがとうございました。」
「まだ何も終わってないぞ。」
アケノは今にも消えてしまいそうな掠れた声でタツトへとお礼を告げる。
それはまるで死ぬ前に伝える最後の言葉の様で元気付ける意味でもタツトは言葉を返した。
しかしアケノは小さく首を左右へと振るとタツトの言葉を否定して見せる。
「私はもう長くありません。この状態ではゲームにも参加できませんし足手纏いになります。だから・・・私の事は見捨ててください。」
「死にたくないからここに来たんじゃないのか?」
「もう十分に生きました。15歳までしか生きられないと言われてそれから5年も生きれたんです。もういつ心臓が止まってもおかしく無くて、眠ったら起きられないかもしれないのが凄く怖いんです。」
「手術とか出来ないのか?」
「とても難しいらしくて成功率は1割だと言われました。最近では肺にも問題が見つかって手の施しようがないそうです。」
アケノはそう言って笑っているが痛々しい表情を浮かべている。
すると突然タツトはアケノに近寄るとそのまま同じベットへと潜り込んだ。
「それなら朝になったら俺が起こしてやるから一緒に寝るぞ。」
「てっきり最後に思い出でもくれるのだと思っちゃいました。」
「俺にそんな度胸があると思うか?」
「スカートの中は覗こうとしたのに?」
「う!」
「・・・分かりました。それなら朝はお願いしますね。」
「ああ。」
「あの・・・腕枕・・・して貰っても良いですか?」
「・・・。」
「良いですよね。」
「・・・はい。」
そしてタツトはアケノに押し切られる形で頭の下に左腕を差し込んだ。
アケノは横を向いてその腕に頭を乗せると自分はタツトの胸に手を置いて体を傍に寄せる。
「なんだかお父さんみたいです。」
「俺に彼女は居ないし独身だから子供もいないぞ。」
「タツトさんなら良い人が見つかりますよ。私が立候補したいくらいです。」
「なら未来の恋人を守らないとな。」
「ふふ、冗談は・・・止めて・・・ください。」
そしてアケノはタツトの腕の中で再び眠りに着いた。
その顔は先程よりは穏やかに見えるが閉じられた瞼の間からは涙が浮かんでいる。
それは明らかに悲しみや悔しさを秘めたものであり、タツトは涙が零れる前にそっと指で拭き取った。
「俺の望みは決まりだな。」
そして小さな声で決意を固めると記憶を思い起こして現状とルールの確認を始めるのだった。