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悪魔の館  作者: 北キツネ
2/11

タツトは車が置いてある駐車場へと到着するとすぐに異変へと気が付いた。

どの車も車高が下がっており、タイヤが目に見えて変形している。

明らかに空気が抜かれており、これでは長距離の移動は不可能だ。

更に念を入れてタイヤロックまで付けられ、走行できない様にもされている。

このまま走ろうと思えば不可能ではないだろうが確実に車が破損し高い修理費用が掛かるか廃車になるだろう。


「もしかしてさっきの執事がゲームについて軽く説明したのはこれをする時間を稼ぐためか。」

「その通りでございます。」

「やっぱりか!・・・て!何時から居たんだ!?」

「最初からでございます。」

「俺が館から出てからずっと見ていたのか!?」

「その通りでございます。恐らくは説明が必要だと思いましたので。」

「説明だと!」


ちなみにタツトは怒った振りをしているだけで本心ではそれ程怒ってはいない。

こうした態度をしているのも自分が冷静でないと相手が感じた方が情報を聞き出し易くなると思ったからだ。


「そうです。まず車ですがあれは空気を抜いてあるだけですのでご安心ください。」

「アレだけの事をやておいて安心も何も無いと思うけどな。」

「ここからお帰りになられる時には元に戻しておきます。それに我らの主はどうしても今夜の晩餐に参加していただきたいと仰っていますのでどうかご容赦ください。」


そう言って執事は深く頭を下げる。

恐らく日本人でこうされてさらに何かを言える者は多くないだろう。

それを知っているのか互いに無言を貫き、執事は頭を上げる気配を感じさせない。

しかし、それでは言い包められているだけだと捻くれた考えを抱いたタツトは1つの条件を出した。


「それならこちらが譲歩する分、1つだけ質問に答えて欲しい。」

「何でございましょうか?」

「ここの主の名前はなんだ?後で聞けるとしても先に聞いておきたい。」


すると執事の表情が僅かに変化する。

それは僅かではあったが今まで完璧な仮面を被り通していたゆえに、それはタツトでさえも気付ける程に明確な変化として現れた。


「その名は我々のような下級な者が口にして良い名では無いのです。どうかお許しください。」

「・・・分かりました。では、さようなら。」

「ど!どちらに行かれるのですか!?」


するとここで初めて執事の表情が完全に崩れた。

それを確認したタツトは見えない位置でニヤリと笑い、再び表情を引き締めて肩越しに振り向いて視線を向ける。


「車でここに来るまでに距離はしっかりと計っておきました。時速40キロで1時間なので計算も簡単です。俺はフルマラソンに毎年参加して完走してますからここからなら日が沈む前に民家に到着出来ます。」

「け!景品は!?貴方に望みは無いのですか!?」

「知っていますか?」

「何をでしょうか?」

「血液型がB型の人間は自分の価値観で動いている人が多いそうですよ。」

「すなわちどんな景品にも興味が無いと・・・。」

「俺が知りたいのは1つだけですよ。」

「・・・仕方ありませんね。」


だがタツトが言っている事で幾つかは大嘘である。

彼はフルマラソンに参加した事も無ければ持久走も苦手にしている。

ただしここまでの正確な距離を計っていたのは本当で、昔からの趣味でスポーツをしているため体は十分に引き締まっていた。

それに車の中には折り畳み式の自転車が積んである。

そこまでは手を付けれていない様なのでそれを使えば40キロを走破するのはギリギリ可能であると確信していた。

そして血液型以前にタツトの性格が捻くれており、他者から理解されないのはよくある事である。

そのため今の彼の前に例え100億の札束を積んだとしても新聞紙よりも価値がない物であった。


「この館の主の名はリリス様です。ただし私が言えるのはここまでになります。」

「分かりました。無理を言ってすみません。それなら俺は車から荷物を回収したら部屋に戻ります。」

「よろしくお願いします。」


タツトは自分の車に向かうと乗せていたバックに荷物を纏めて館へと戻って行った。

その様子を執事は最後まで確認して同じ様に屋敷へと足を向ける。


「これで逃げられずに済みましたね。すぐに門を閉めなさい。」

「畏まりました。」


するといつの間に現れたのか別の男が現れ門の方へと向かっていく。

そして完全に門を閉めてしまうとそこに鎖を巻き付け南京錠を取り付けた。



その頃のタツトは部屋に戻り荷物を広げていた。

しかし、好奇心によって衝動的に来たと言ってもここまで遠出であった事には変わりはない。

早く帰る事になれば夏休みと言うこともあり途中の観光地で宿泊するつもりでいた。

そのため着替えや暇潰しとして充電タイプのDVDプレーヤーなども持って来ている。

タツトはコンセントにアダプターを差し込んで充電を行い、暇になった時にはいつでも見られるようにと準備をしておく。

そして彼としてもここで無意味に時間を消費するつもりは無い。

やる事を終えて部屋から出ると、まだ足を踏み入れていないエリアへと向かっていった。

すると進むにつれて廊下が歪に歪み扉の並びも不自然になっていく。


「かくれんぼなら廊下だけって事は無いよな。部屋にも入ってみるか。」


タツトは傍にある無駄に立派な扉に向かうとドアノブを回して開けてみる。

しかしその先に部屋は存在しておらず周囲と同じベージュ色の壁が広がっていた。


「ダミーの扉があるのか。金持ちの考えはよく分からないな。」


それに今回のゲームは鬼ごっこではなくかくれんぼだと言われている。

ルールによっては逃げる事も可能ではあるが見つかればそれで失格になり帰れば良いと軽く考えていた。


「その隣は・・・ちゃんと部屋になってるな。」


床は自分の部屋と同様に真赤な絨毯が敷かれている。

本棚も置かれており並んでいる本は重厚な作りをしているが、タイトルを見ても何と書いてあるのかタツトには読めない。

ただし彼は英語を含めて外国語は苦手としているだけで特別な文字が使われている訳ではない。

しかもこの棚はしばらく誰も使っていないのか薄く埃が積もっている。


「てっきり執事とかメイドが居るから掃除はキッチリしていると思ってたけどな。」

『ガチャ!』


すると閉めていた扉が開き外から誰かが入ってきた。

どうやら参加者の一人であるらしく私服を着ている女性のようだ。

タツトはそちらに向けて軽く頭を下げると挨拶も兼ねて軽く声を掛ける。


「こんにちは。ここの把握は順調ですか?」

「まあね。君は終わりの方に当選した人だよね。」

「まあ、そうだと思います。もしかして人数を把握してるのですか?」

「ええ。女性は50人で男性が16人よ。合計で66人ね。」

「66人・・・。この数に何か意味があると思いますか?」

「さあ、主催者側の考えなんて知らないわ。でも良い数字とは言えないわね。それにここの使用人たちの態度も気になるわ。あなたも行動する時は気を付けなさい。」

「はい。ああ、俺はタツトです。」

「私は美夜ミヤよ。ちなみに偽名。」

「まあ、こんな所だから仕方ないですね。」

「フフ、あなたと最初に居た子にもよろしくね。ちょっと無防備過ぎるから悪い大人に狙われてたわよ。」

「あなたは悪い大人ではないのですか?」

「さあ、どうかしらね。」


そう言ってミヤは余裕のある笑みを浮かべて部屋から退室して行った。

タツトは小さく溜息をつくと仕方なく忠告に従うことにする。


「仕方ないからアケノさんを探してみるか。」


そしてタツトも部屋を出て少し歩いていると廊下を曲がった先から声が聞こえてきた。


「なあ、夕食まで時間があるから俺の部屋に来いよ。お前もそのつもりで声を掛けてきたんだろ。」

「違います。道に迷ってちょっと訪ねただけです。」


そこから聞こえるのは確かにアケノの声であり、あまり余裕は無さそうに聞こえる。

そしてタツトは溜息を零しながら廊下を曲がると壁に追い詰められる形で迫られているアケノを見つけた。


「何をやってるんだ?」

「タツトさん!」

「誰だテメーは!?」

「その子の知り合いです。合意の上なら何も言いませんがどう見ても違いますよね。周りでも少し噂になってますから控えた方が良くないですか。」

「正義の見方でも気取ってんのか!?」

「いえ、参加者は女性の方が圧倒的に多いのに、もし協力し合うルールならアナタは確実に蹴落とされますよ。何故だかは言わなくても分かりますよね。」


タツトはいまだにルールが分かっていない事を盾にして男へと迫った。

すると男は言い包められて腹が立ったのか顔を赤く怒らせタツトへと向かってくる。

そして胸倉をつかみ壁に押し付けると顔を寄せて睨み付けた。


「ガキが生意気言いやがって!」

「それなら好きにどうぞ。でも彼女は置いて行ってもらいます。それが嫌なら俺も手加減はしませんよ。」


タツトは男の手首を握ると顔色を変えずに握力を加えた。

それによって男は痛みに顔を歪めて大きく手を振り払い後ろへと下がる。

ちなみにタツトの特技は顔色を一切変えずに全力を出すことである。

その姿は相手に余力があると錯覚させ警戒感を与える事が出来る。


「出来れば今日くらいは大人しくしておきましょうよ。」

「チッ!ルールによったらテメーを一番最初に蹴落としてやるよ!」

「ご自由にどうぞ。」

「空かしやがって気に入らねー!」


男はそう言いながら荒い足取りでその場を去って行った。

タツトは深いため息を吐き出すと振るえている足に喝を入れると何食わぬ顔でアケノの許へと向かっていく。


「あ~怖かったです。」

「え~と・・その・・・。ありがとうございます。」


アケノは大丈夫ですかと聞こうとしたがタツトの言葉に声が詰まってしまった。

そして、助けられたのは分かっていたがその様子から無理をさせてしまったと気付き自然に感謝の言葉が零れる。


「今はみんな気分が高揚してるから気を付けた方が良い。それでですが一緒に見て回りませんか。次も都合良く来られるとは限りませんから。」

「あの・・・良いのですか?」

「俺にとってはお宅探検みたいなものなので1人よりも2人の方が楽しめますよ。」

「そ、それならお願いします。実はちょっと方向音痴で困っていたんです。」

「それなら一緒に行きましょうか。」

「はい!よろしくお願いします!」


そして最後にはアケノも嬉しそうに頷くとタツトと共に歩き始めた。

しかし、その様子を見ていた影があり、それは静かに別の所へと移動して行く。

その先にはさっきの男が居り、先回りした影は何食わぬ顔でその前に現れた。


「お客様。」

「なんだ!・・・て、メイドかよ。どうしたんだ?」

「どうやら血の気が有り余っている様なのでお相手をする様に仰せつかりました。」

「なんだと!?」


男は声を荒げているがその視線はメイドを足から顔へと舐めるように動かしていた。

そして表情は乏しいが体は十分以上に女性らしく顔に至っては特上と言える程に整っている。

それは怒りを消し去り別の感情で満たすのには十分な効果を発揮した。


「それなら俺の部屋で奉仕してもらおうか。」

「喜んで。ただ部屋を別に用意してありますのでこちらへどうぞ。」

「ここのメイドは気が利いてるな。」


そして男はメイドに案内され館の奥へと向かって行くと1つの部屋に辿り着いた。

周りには誰も居らず、その事が更に男の行動を大胆にさせている。


「ここにお入りください。」

「ここから何があっても他の奴には気付かれねえな。」


男は既に歩きながらメイドの体に手を伸ばしていた。

胸部や臀部を大胆に触り、到着までに抑えきれない欲望を発散している。

そして部屋に入るとそこには大きなベッドが部屋の中央に置かれ、それがまた男の欲望を昂らせた。


「それではあちらにどうぞ。」

「ああ、お前から言ってきたんだからな。好きにさせて貰うぜ。」

「はい。私も楽しみです。」


そう言ってメイドは初めて男に笑顔を向けた。

それはとても獰猛ではあったが興奮している男に気付く事は出来ない。

男はメイドの手を引いてベッドに押し倒すとその服を乱暴に剥ぎ取りその胸に顔を埋めた。

それをメイドも受け入れ、男の後頭部を掴むと自分に押し付けて見せる。

しかし最初は気色を浮かべて受け入れていた男の動きが急に変化していく。


「う・・・うぅ!」


男は言葉の通りにメイドの豊満な胸に顔を埋めていた。

それは口に含んでいる胸の先端が更に口へと押し込まれ、更に軟肉が鼻さえも覆い隠してしまう。

その段階で男は呼吸が出来なくなり、次第に焦り始めた。

その動きは次第に焦りから藻掻きへと変わり、メイドの胸にも傷が出来てしまい血が流れている。

しかしメイドは痛みを感じていないかのように笑みを浮かべ男を逃さない。

そして最後には男は動かなくなりメイドの胸から解放されベッドの上に投げ捨てられた。


「この男をあそこへ連れて行きなさい。」

「はい。」


男にはまだ息もあるため酸欠で意識を失っているが放置すればいずれは目覚めるだろう。

しかし、男は部屋に居た何かに抱えられるとそのままさらに屋敷の奥へと連れて行かれた。

その後は男の姿を見た者は居らず、晩餐にも姿を現わさなかった。

メイドは既に男に興味を失い視線すら向けず着ている服を破り捨てる。

その下からは美しい裸体が姿を現わし胸にあるはずの噛み跡すらない。


「これであの方への贄は65人。100年かけてようやくここまで来ました。」


メイドはそう言って壁に向かうとこの館に張り巡らされた秘密の通路を使い姿を消して行った。

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