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リンコが名古屋城の鹿と出遭う――深い因縁

 具だくさんカレーの夕食の後、リンコの部屋でお互いが知っている話を突き合わせてみることにした。

 まずリンコから家に伝わる由来を話した。

「直接の御先祖は、田鈴玲(デンリンレイ)という女性らしいの」

 リンレイ十世紀の沖縄北部、今の今帰仁に住んでいた。

種族は台湾のカレン族で、激しい部族間抗争を嫌って沖縄へ移住してきた一族であった。

 父親は中国の明州を拠点とする名門、(でん)氏で薬剤などを扱う貿易商であった。よって、貴重な薬剤を求めて沖縄を訪れることがあり、その採集を手伝ったことが縁で母親と知り合い結ばれたという。第二婦人という位置づけであったがアミ族は母系社会であり、劣等感を抱くこともなくスクスクと育った。

 ところが、大陸からやってきた海賊に襲われ、母と共に拉致された。別々に収監され、生き別れとなった。海賊は次いで奄美の「トカム王国」を襲ったが、撃退された。その際、リンレイは助け出され、保護された。その後、沖縄への船旅に同行することになり、故郷へ戻ったとのこと。

 そこまでの経緯が、伝承されていると語った。

「へぇ―、リンの御先祖ってハーフだったのね」

 リンコの顔立ちがくっきりしているは、そのためなのかとフウカは思った。

 そうした由来のためなのか田所家は女系であり、女性が家督を継いできた。パートナーは、入り婿のかたちとなる。それと弓術が「お家芸」で、祖母も弓道の段持ちであったという。

 リンコは、そこまで一気に話して、ひと息入れた。滝子が持ってきてくれた紅茶を口にする。

 今度は、フウカが話す番だ。カイトから聴いていた以前の「旅」の話をすることにした。

 とても信じられないような波乱万丈の内容であったが、

物語としてはとても面白かったので大筋は覚えていた。リンレイが登場する部分だけ話す。

 船旅のメンバーは、カイト、ミカ(ミーカナ)、リンレイの「旅の仲間」と、トカム国海軍の一団であった。主目的は、トカム王国の継承者となるミカの弟にために儀式に必要な「聴き耳頭巾」を沖縄の巫女から受け取ることであった。ついでにリンレイの母親の行方を捜すということである。

 沖縄へ向かう途中で海底に潜む妖異や海賊と戦い、ようやく本島北部へ到着した。リンレイは一族の村に戻った。

 他のメンバーは斎場御嶽(セイハウタキ)の巫女に会うため那覇へ。また、そこで大陸からの侵略軍と遭遇し、激しい戦いとなった。劣勢となったが、リンレイが一族の戦士を引き連れて現れた。彼女は普通の少女から一変して、族長にふさわしい戦士となっていた。その救援で形勢は逆転し、窮地を脱した。

 目的の巫女たちとは会うことができ、「聴き耳頭巾」を受け取ることはできた。だが、再び陸上で戦いとなり、首里の砦に籠って攻防戦を繰り広げることになった。その際も、リンレイは先住民族を招集し、リーダーとして先陣に立った。剣や弓で果敢に戦った。戦場は本島からケラマ諸島に移り、最後の大海戦を迎えた。その結果、なんとか侵略軍を撃退することができた。しかし、一連の戦闘は楽ではなく、とくに敵軍に同行していた方士(呪術師)が操る妖魔や怪物に苦しめられた。

 ミカとリンレイは侵略軍との戦いの過程で「国のかたち」を整えなければ海外からの侵略には対抗できないことを痛感し、国造りに取り掛かる。ミカは「琉球国」を立ち上げ、リンレイもまた北部地域で地域勢力をまとめ、「北山朝」を創ることに関わることとなった。その後、紆余曲折(うよきょくせつ)を経て統一「琉球王朝」が誕生する。

 ミカは原型となる神権「琉球国」の「神聖女王」として伝説に名を遺した。リンレイも地元において「勇者リンレイ」として語り伝えられるようになった。

――以上が、カイトから聴いたリンレイにまつわる「旅」の概略である。

 全貌(ぜんぼう)については語りつくせないし抜けている部分も多々あるようなので、いずれカイトに直接聴くように言った。

 要点だけを話したつもりなのに、だいぶ時間を要してしまった。

「はぁー、スゴイ話ですね」

 リンコは、ため息をついた。

「ホントにね」

 フウカも同意する。話してみて、カイトの活躍と成長にも認識を新たにした。

 祝日に名古屋市内を案内することになった。名古屋城と動物園が見たいという。

 フウカにとって名古屋城は何の変哲もない観光地であった。だが、巫女である滝子の話によると、霊的にも大切な場所「吉相の地」であるらしい。城は、そのパワースポットに「風水」の思想によって設計・築城され、尾張一帯の霊的拠点になっているという。大きな龍穴があり、熱田神宮とは太い龍脈で繋がっているとのこと。フウカは今回の出来事までは関心がなかったので、聞き流していた。

 天気も良く散歩気分で訪れるには、ちょうど良かった。適当に歩き回り、内堀(空堀)近くに来た。ここには、鹿が数匹棲んでいる。由来は不明だが、江戸時代には既に居たことが記録で確認されている。

「ここには、鹿が居るのよ。はら!」

 フウカが指さす。のんびりと草を()んでいた。

「ホントだ。かわいいね」

 リンコが答え、(のぞ)き込んだ。

 一匹の鹿が首を上げ、彼女と視線を合わせた。ジッと見つめている。

 翌日、滝子から不思議な話を聞いた。神宮に一匹の鹿が迷い込んできて、出て行こうとはしないとのことだった。仕方がないので、しばらく源造と滝子でしばらく世話をすることになったという。

 次いで訪れた東○動物園でもちょっとした出来事があった。二人がカンムリワシの前に立った際、一羽が近づいてきてリンコに向かって、「クククッ」と高く鳴いた。その声がフウカには、慕し気に聞こえた。

(リンコって、動物に好かれるタイプなのかな)

 何となく思った。

 滝子が鹿の話をした朝、ローカルニュースで、動物園から一羽のカンムリワシが逃亡したという報道がなされていた。しかし、出勤と出校の準備で忙しく、誰も気に留めてはいなかった。

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