護衛の少女「リンコ」の正体――先祖からの因縁
滝子がリンコを部屋に案内している間、フウカはカイトを軽く睨んでいた。
「どういうこと。私、話を聞いていないよ」
プンスカした口調で抗議した。
「ゴメンよ、時間がなかったんだ。少しでも遅れたら、ヤバいかもしれないと思ったんだ。リンコにも、急遽、沖縄から飛んで来てきてもらった」
「まだ二学期も終わっていないのに?」
リンコとしたら、大迷惑であったことだろう。準備もなしに、こちらの期末テストを受けることになる。申しわけないばかりだ。
「ああ、申しわけないとは思ったが、二つ返事で了承してくれた。それだけ事態を重く受け止めてくれているのだろう」
「どういう関係の人なの?」
「本人から聴いてほしい。長くなるんでね。とにかく頼りになる子だよ」
丸投げされた。
次いで源造へ報告した際、聴かされた話を口にした。
フウカにとって、それはバカみたいな話であった。
「工作員って、ちょっとショボすぎない。爆弾を仕掛けたり、武力で攻撃したりするんじゃないの?」
こそこそ落書きして回るなんて、話にならない。トイレに落書きして掃除のおばさんを困らせるくらいのことに思えた。笑える。呆れた。
「大方の工作員は、地味な仕掛けをする連中なんだ。派手なアクションを繰り広げるのは、物語の中だけさ。
大きな列車事故を起こさせるには、要所のネジを少し緩めておくだけでいい」
実際に知っているような口ぶりだった。呪術者については
触れなかった。思うところがあるらしい。
滝子たちが二階から下りてきたので、カイトは荷物を運び込むのを手伝う。フウカも、付いていった。自室の隣である。ベット兼用ソファもあるので、生活に不自由はないはずだ。
滝子とカイトは部屋を出ていったが、フウカは残って授業の進展具合を話すことにした。幸いにも教科書は、全部同じだった。進み具合にも、ほとんど差はないようだ。ちょっと安心する。夕食までには時間があったので、互いの話をすることにした。ソファに並んで座り、改めて自己紹介をしあった。
リンコは、沖縄県本部町に在住している。家は唐手の道場を経営しており、自身も幼い頃から修行を積んできた。現在、三段である。
学校の部活は、弓道部に所属している。こちらも三段とのことだ。母親が弓道の県代表に選ばれたほどの実力者で、こちらも厳しく仕込まれたとのこと。
「ふぇー、リンって武道家なんだね。スゴイ!」
護衛を委託されたのも、うなずける。
とくに弓道部というところで、テンションが上がった。
「ところでカイトさんとは、どんな関係なの?」
尋ねながら、少し心がザワついてしまった。
「今年八月、我が家に訪ねてきたんです。ウチの先祖について調べているとのことでした。
両親と長らく話し込んでいたんですけど、何か解ったようで満足した様子お帰りになりました。それから連絡を取り合っています」
鈴屋家に伝わている伝承によると始祖はリンレイという女性で、北山朝の成立にも関わった英雄とのこと。北山朝は統一琉球王朝が成立する前に本島北部を支配していた勢力で、今帰仁村にある「北山城址」に居を構えていた。
その頃から続く武人の家柄である。リンコは一人娘であったため、後継者として育てられた。
田所家には、ある遺訓が残されていた。「いつか天地を揺るがすほどの災いに襲われる。その時は、救世主の手助けをするため、立ち上がらなくてはならない」とのこと。
両親の話では、カイトさんは初代のリンレイと盟友関係にあり、今回は間近に迫った災厄を防ぐため、助力を乞いたいと言われたと言う。意味不明な話であったが、うなずいた。
じつは、その前夜、リンコは「ユメ」を見ていた。
精悍な女性が、現れた。矢を背負い銀の弓を手にしている。どことなくリンコに似た風貌であった。
「時が来た。立ち上がらなければならぬ。吾も全力を挙げて助成しようぞ」
そう言うと矢を取り出し、中空に向かって射た。その先には、禍禍しい気配を発する暗雲があった。
飛び起きてしまった。その時は何のことやらわからなかったが、翌日、カイトから依頼があったとの話を聞いて合点がいった。だが、正直言って現在も、状況を理解できているわけではない。
「――そうなの。よく決断してくれたね」
フウカは、これまでの事情を話した。
「なるほど、そんな事情があったんですか」
リンコがは、少し納得できたようだ。
カイトは、帰ったらしい。
夕食は、「トンカツ」だった。普通のソースと並んで「味噌だれ」が、用意されていた。赤味噌を使った濃厚な味わい
が特徴だ。人によって好き嫌いはあるが、フウカにとっては馴染み深く、好んでいた。
「お口に合うかどうかわかりませんが――」
「いえ、噂で聞いていましたから、一度食べてみたいと思いッていました」
滝子の問いにリンコは、笑顔で答えた。




