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千年の時を超えて復活した大魔術師

 梅宮の報告によると現段階でわかっているのは、C国から大量に押し寄せる旅行者に混じって工作員や呪術者がやっていること、C国内で一千年余りの歴史を持つ呪術集団が活発な動きを見せていることなどであった。

 工作員は日本側の動きをチェックするとともにSNSなどで大規模な火山噴火と大地震が差し迫っていること、それを政府が必死に隠そうとしていることなどを虚実を織り交ぜて拡げているとのことだった。同時に著名な寺社仏閣の建物に対して観光客の悪戯を装った呪詞混じりの落書きをしたり、狛犬や鳥居、注連縄を損壊または液体をかけて汚したりといった行為をしているという。

「なぜそんなことをしているのかな? 確かに落書などが急増しているのは、事実のようだが――」

 神道界の要人が尋ねった。高僧もうなずく。

「由緒ある寺社が持つ霊威を少しでも低めようとしているのでしょうね」

 寺社は参拝者の「崇敬の念」をエネルギーとして天候不順や災害を防止し、地震など地下に潜む不安定要素を抑え込む役割を果たしている。その蓄積された霊威を損なおうとしているらしい。また、年末に予定されている寺社ネットワークによる大祈祷の連携を乱すことももくろんでいるのではないかとのことだ。

「ともかく傘下の寺社に注意喚起と対処を呼び掛けてください。こちらとしてもボランティアの監視員に見回らせますが――」

 梅宮は、二人の宗教関係者に依頼した。

「ところで『わたつみの宮』との連携体制は整っているのでしょうな?」

 神道界の要人が政府を代表する年配者に尋ねた。

「ぬかりは、ござません。大海竜王も快くお引き受けくださいました。歩調を合わせるための打ち合わせもおこなっております」

 「わたつみ宮」と朝廷(後に日本政府)との関係は、昨日今日に始まったことではない。なれそめは神話時代にまで(さかのぼ)る。神話に依れば天皇家と竜宮は縁戚関係にあり、人の時代になっても「わたつみの宮」を租神とする海人族の流れをくむ安曇氏や尾張氏などの古代氏族が妃を宮廷に送り込み、外戚として影響力を及ぼしてきた。以来、ずっと連絡を保ってきたのである。 

「C国の呪術集団につきまして謎が多く調べがついていません。ですが、現段階での情報を見ても、容易ならぬ相手かと想われます。おそらく最大の敵となるでしょう」

 梅宮は眉をひそめて語った。

 一同、息を飲む。

 

 同日の午後、フウカの家にカイトが訪ねてきた。一人の少女を伴っている。

 滝子と風歌が並んで座り、向かい合った席に海人と少女が

腰を下ろした。

「たびたびすみません。フウカさんから聞いているかと思いますが、昨日の出来事に関して相談があります」

 滝子に対して用件を伝える。

「ええ、話は聞きました。容易ならないことが、起きてしまいましたね」

 帰宅後、フウカは滝子に出来事を話したが、わりと気軽な気分であった。危険は、それほど感じなかったからだ。だが、滝子の反応は、真剣なものだった。

「フウカさんに護衛が必要となるかと思います」

「……」

 滝子は、黙ってうなずく。

「こちらは私の知り合いで、田所鈴子さんです」

「田所です。リンとお呼びください」

 少女はフウカと同年で、沖縄県出身であるという。実家は、琉球唐手の道場を営んでいるとのことだった。

 ボーイッシュな髪型でスラッとしたた肢体であったが、服の上からも引き締まった体つきであることは見て取れた。背丈はフウカより少し高い。百六十センチくらいであろうか。

「明日から一ヶ月間、転校生としてフウカさんの側にいてもらいます」

 有無を言わさない語調であった。

(ええッ、聞いてないよ! 勝手に決めないでよ)

 そう叫びたかったが、勢いに押されて飲み込んだ。

「お手数かけますが、よろしくお願いします。良ければ、我が家にいらっしゃいませんか?」

「そうさせていただければ、助かります」

 話は、とんとん拍子で進んでいた。フウカの意向など、取り合ってもらえないようだ。

「彼女の荷物は車に積んでいますので、さっそくですがお願いします」

予定していたかのように準備万端であった。

「承知しました。夫の部屋が空いていますので、そちらをお使いください」

 父が亡くなった後もそのままにしていた部屋を使用させるという。滝子の強い危機感と意志が感じられた。

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