なぜ国外から?――「霊的防衛協議会」が対処
茶を飲みながら挨拶を交わしているところへ男が姿を現した。定刻にギリギリ間に合ったというところだ。小太りで眼鏡を掛け、目をショボショボさせている。疲労が、見て取れた。
「遅くなりました。『霊学協会』の梅宮新次郎です」
宗教界の二人とは、初対面であるらしい。正座し両手を着いて深々と頭を下げる。
「梅宮さんは、協会の幹事で事務局長を務めていらっしゃる方です」
源造が紹介した。
「当方も、常々ご協力をいただいております」
政府を代表する年配者も、口添えした。
「日本霊学協会」は公益財団法人で、内閣府の管轄下にある。終戦直後の昭和二i一年に設立された。だが、元となる団体は戦前から存在した。
スピリチュアリズムの思想哲学や心霊現象・超常現象など精神世界を研究する学術研究団体である。心霊現象に関する学問的研究だけでなく、人間の「霊性」とは何かを追究し、それを人々の生活に活かし豊かにすることを目的としている。機関誌『霊学研究』を発行。
メンバーは、宗教学者、哲学者、霊学研究者、霊能力者だけでなく法曹や財界関係者も所属。会長は、某大学の学長が務めている。梅宮新次郎自身も霊学研究の第一人者で、哲学博士号を持ち、著書も何冊かある。
「霊的防衛協議会」との関係は、主に海外における霊学研究活動の調査、情報提供と霊的防衛に関するアドバイスをおこなう立場だ。
ちなみにこの協議会が設立されたのは、現代における戦争の形態が大幅に変わっていることにある。
以前の戦争は宣戦布告から始まり、両国の軍隊が正面から激突して勝敗を決するという力任せのものであった。しかし、現代では、宣戦布告などはない。日頃から相手国に対してマスメディアやネットを通じた情報戦(世論操作など)や人や団体に対する浸透作戦、さらには貿易制限などの経済的圧力などざまざまな手段を組み合わせておこなわれる。直接的な武力行使がおこなわれるのは、侵攻の最終段階ということになる。
つまり「神霊戦」も、その一部として計画され、実施されるということだ。神霊戦自体は、今に始まったことではない。鎌倉時代の「元寇」に対する寺社の総力を挙げての「御敵退散」祈祷が代表的であるが、時代や国内外を問わず戦いには「宗教戦」が、伴っていた。
「昨日、千竃源造様からの連絡を受けて、ただちに情報収集に入りました。国内のみならず海外の関連団体とも連絡を取り合って調査を進めましたところ、某国が我国への打撃をもくろんで、今回の作戦を妨害しようとしていることがわかりました。すでに工作員、呪術者の集団が入り込んでいるようです」
調査は、夜明けまで続いたようだ。梅宮が疲労困憊しているのも、無理なかった。
「――そうか。ただちに手を打つ必要があるな」
政府の代表者が、言葉を発した。
「霊的防衛協議会」が、本格的に始動する。




