外からの脅威――カイトが体験を語る
「平安時代から現代の東京へワープしたんだ。用事を済ませ『浅草寺』のゲートから元の時代へ戻ろうとしたとき、禍禍しい邪霊に襲われたんだよ」
苦々しい表情で語り始めた。
見上げると、上空を覆った雲の表面に人の顔が浮き出ている。
嘆く顔、憤る顔、小馬鹿にしたような顔、卑下した顔……。それぞれ口をパクパクさせながら、何か言っているように見える。雲から手が垂れ下がり、両肩、胸、腹と上半身が現れ出てくる。
何体かが抜け落ち、ポタッポタッと降ってきた。地上へ達すると、ゆっくりと立ち上がって、こちらへ向かってくる。まるでゾンビ映画を、見ているかのようだった。
恐怖が胸からせり上がり、叫び出しそうになった。振り向いてミーカナ(美華)を見た。倒れ伏している。
そのとき――。
彼女の金の指輪が、フラッシュ光を放った。辺りが一瞬、眩い光に満たされた。
「お待たせぇ」
雷門の裏側に立つ「金竜」の姿で、ゼン(善女竜王)が現れた。
下裳と腰布で覆った豊満な下半身、上半身の白い肌、胸に赤い布を巻いて結んでいる美しく、成熟した大人の女性の魅力を発散していた。
「ゼン!」
「不動明王から、剣と羂索を借りてきたの」
迫りくるゾンビを、次々と倒していく。
羂索は、五色の糸を編んだ縄だ。両端に環と円錐状の金属突起が付いている。これを投げて突き、または振り回して薙ぎ払っていった。身近に寄ってきたものは、剣で切り裂く。
「雷神、風神、竜たちも、迎え撃ってくれている」
闘いの手を休めることなく、目で空を示した。
ゆっくりと渦巻く雲、雷鳴がとどろき稲光が走る。強い風が吹き荒れている。降ってくる人形の塊が、稲光で打ち砕かれ、強風で四方に散らされている。
その間を五色の竜が身をくねらせながら泳ぎ回り、爪で引き裂き噛み潰し、吐いた炎で焼き払った。この竜たちは、とある大手家電メーカーの各工場を護っており、そこから派遣されてきた。このメーカーは、浅草寺と特別な関係を持っていたからだ。
金竜と共に雷門で脇を固めている「天竜」も、本堂の大屋根で闘っていた。仁王像に似た男の姿だ。握り手の両端が、剣となっている独鈷杵と宝珠を使って、撃破している。
しかし、落下してくる数が多すぎて、二神や竜たちも対応しきれていない。
「ブォ――ン、ブォ――ン」
法螺貝の音が、響き渡った。
「者ども、掛かれ!」
野太い声が、聞こえた。
「あっ、お父様!」
ゼンが、喜びの声を上げる。
「お水舎」に立つ沙竭羅竜王が、部下の神将たちを率いて現れたのだ。通称「大海竜王」である。ゼンに向かって一つ頷いた後、猛然と剣を振い始めた。
「あのとき襲ってきた邪霊たちは、東京という大都会に漂う邪念が形を成したものだった。それを呼び集めた存在がいたんだよ」
吐き捨てるように言った。
「何者なの?」
フウカは、ゾッとした。背筋が、寒くなる。
「大陸からの侵略軍と共にやってきた呪術師だっだ。そいつには、終始苦しめられたよ。最後は大怪物と化した奴をゼン(金竜)と一緒に仕留めたはずなんだが……ひょっとして……」
疑念が伝わてくる表情だった。
「それって、千年余り前の話でしょ?」
フウカは、トカムの神殿に描かれた「勇者が金竜に跨って巨大な怪物と闘う」壁画を思い出した。「勇者カイト」伝説の元となったものである。
「そうなんだがね……。ともかく源造さんたちに報告しなくちゃならない」
コーヒーを飲み終えると、立ち上がった。
帰路の車の中で、フウカは謝った。
「カイトさん、ゴメンね。こんなことに巻き込んじゃって」
「君のせいじゃない。目的の一つである事務手続きは済ませられたから問題ない」
飛べなかったことには、悔いはないようだった。おそらく新たな脅威の出現で、頭がいっぱいになっていることだろう。
翌日曜日、源造の自宅には比叡山の高僧と神道界の要人、霊界を知るを政府関係者の年配者が、訪れていた。「霊的防衛協議会」の主要メンバーである。




