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「わたつみの宮」での大会議――日本政府からの依頼

 「わたつみの宮」の大広間には、九州沿岸から沖縄本島にかけての地域に居住する竜たちの代表が、参集していた。正面には、大海竜王と善女竜王が座していた。全員、人の姿を取っている。

「皆の者、ご苦労である。周知の通り大災厄の日が迫ってきた。日本政府からも、正式な助力要請が届いている。吾らの住処(すみか)を守るため、全力を尽くして動かねばなるまい」

 大王は、居並ぶ竜たちを見渡す。一同、緊張した面持ちだ。手をこまねいていたら、該当地域は壊滅的な被害を受ける。他人事ではなかった。

「『表の世界』では、大規模な爆撃が予定されているようだ。例え計画通りにいっても、海域は噴出するオロチの吐息が漏れ、『焦熱地獄』と化するらしい。むろん失敗すればオロチが完全に目覚め、火山の連鎖噴火や大地震が起こり、さらには日本本土の半分が『灰』に覆われるという」

 日本瀬府からの被害予測を伝えた。竜たちは、息を飲む。

「――我らのなすべきことは?」

 最前列の竜が質問した。長老格の者であろう。

「まずは周辺海域の生き物を遠ざけ、海水温の急上昇を抑ええることが必須であろう。できれば、常温に保ちたい」

「そんなことが、可能でしょうか?」

 先の長老が、質問を重ねる。

「――やらねばならぬ。そのための方策について、貴公らの知恵を借りたい」

 大王は、苦汁に満ちた表情で言い切った。首脳陣にもは、具体策はないようだった。場は静まり返った。

 オロチの暑い吐息が漏れることが前提ならば、それに合わせて該当海域を冷やす手段を講じなければならない。最低でも「オロチの巣」を中心に直径三十キロ程度は、「氷漬け」にするくらいの措置が必要となろう。非現実的な対策に思われた。

 しばらくして正面の片隅に座していた女性が、静かに口を開いた。

「方策が、まったくないわけではありませぬ。大王及び皆様方のご協力があれば、実行は可能でしょう」

「おおっ――!」

 場がどよめき、空気が揺れた。

 女性は、客人として招かれていた「神聖女王」こと美華であった。彼女は、琉球へ攻め込んできた大陸からの侵略軍に対して防衛の陣頭指揮に立ち、主に様々な妖異や怪物を退ける役割を果たしていた。その経験を買われて招へいされていたのだ。

「それは、ありがたい! ぜひお聴かせ願おう」

 大王が身を乗り出すようにして意見を乞うた。

「吾らは琉球防衛戦の折、本陣へ強大な怪物に踏み込まれてしまいました。その際、吾は、冷気の塊を運び込んで部下の『玄武』に与え、仕留めさせたのです。その方法を大規模におこなえば、勝算はあるでしょう」

「どこから?」

 善女竜王が、尋ねた。

「北極です」

 端的に答える。

「なんと!?」

 長老が、驚きの声を挙げた。他の者たちも、騒めきながら互いに顔を見合わせる。理解が及ばないといった様子であった。

「静まれ!」

 大王が、一喝する。

 美華が、説明を続ける。

「まず『オロチの巣』近くから北極まで新たに龍脈を掘って、道を造ります。これには、大王のお力が必要です。

 次いで、吾が彼の地に赴き、冷気をまとめて龍脈へ送り込みます。それを皆様方に受け取っていただき、海地中・海中・海面から一斉に吹き付けていただくのです。かなりの数が必要となりましょう」

 大規模な作戦となりそうだった。

 竜たちは、常在する場所に応じて、地竜・海竜・天竜に分けられる。それぞれのポジションから吹き付けるというのだ。

 基本的な構想は、固まった。「できる、できない」ではなく、「やるしかない!」のだ。

 衆議一決し、散開した。準備を急がなくてはならない。


大会議の後、ゼンとミカは、「春の(その)」に居た。「わたつみの宮」の周囲は四つの区域に分けられ、春・夏・秋・冬の景色が併存していた。

 満開の桜の下で二人は、木製ベンチに並んで座る。四月初旬の気候だ。

「よく来てくれたな。先ほどは、助かった」

 ゼンが感謝の言葉を述べる。いつものおちゃらけた口調ではない。善女竜王としての威厳が感じられる落ち着いた態度であった。初対面ではない。大陸からの侵略軍に対して、共に戦った仲である。だが、あれから長い年月が、過ぎていた。

「カイトが関わっているとなれば、来ざるを得ないだろう。あ奴は、いつも厄介(やっかい)ごとに巻き込まれ、ハラハラさせられる」

 カイトと金竜ゼンが盟友であると同じく、ミカとの間にも固い絆があった。真っ白な大鳥の姿でカイトを乗せ、戦場の空を舞ったりもした。

「まことに――」

 顔を見合わせ、うなずき合う。笑みがこぼれている。

「どうなさるおつもりか?」

「大王のお力を借りて、大きくしっかりとした龍脈を新たに設ける。大量の冷気を送り込まねばならぬからな」

 大会議の席で述べたことっを改めて口にする。そして、前回のことを思い起していた。


 全裸であった。両手足を伸ばして頭上で両手を合わせる。激流に身を任せていた。うねり、右折左折、回転し、大地の血脈の中を猛烈なスピードで地軸の頂点「北」へ向かう。

 気が付くと、氷原に独り立っていた。周囲には氷の山や丘が連なり、風が吹き(すさ)んでいる。

 空は、深く青い。

(ここが極北か――)

 素裸でも寒くはない。むろん生身(なまみ)であれば、たちまちのうちに凍り付いてしまっていたはずだ。

 ミカは、両手を大きく拡げて胸を反らす。抱きかかえるようにして極北の大気を集め、練り上げる。その一連の動作は見る人がいたならば、舞を舞っているかのように見えたであろう。

 数キロメートルの範囲の冷気が、渦巻きながら両手の間の空間へ吸い込まれていく。優雅な手さばきのもとに練られ、青銀色の光を放つ珠となる。

 しだいに凝縮されていった。最後には野球ボールほどの大きさとなり、(りょう)(てのひら)に収まった。

 ミーカナは、その輝く珠を胸の前に抱き、帰路についた。

 神域の森の竜穴が見えてきた。

 そこには、クロ(玄武)の霊体が待っていた。いつもの護衛兵の衣服は、身につけていない。水中で長い髪を漂わせる美しい人魚の姿を想わせた。引き締まった(つや)やかな肢体(したい)を動かし、泳ぐようにして近づいてくる。

「――危険な役目だが、頼む」

「承知致しました」

 相対した二人は、うなずき合う。

 輝く青珠は、手渡された。

 玄武は、そっと口元に運び、ゆっくりと呑み込む。苦い薬を服用したときのような表情となった。

大事(だいじ)ないか?」

「ええ――」

 決意を込めた笑顔を浮かべ、答えた。

 その後、玄武は、見事に役目を果たした。強大な怪物を氷結させ、打ち砕いたのだ。


 あの時のシーンと思いが、鮮明に蘇ってきた。その記憶をゼンにも観せる。

「霊体であったので全裸である必要はなかったのだがな」

 少し顔を赤らめ、言葉を添えた。

「フフッ、良きものを観せていただいた。美しいな」

 ゼンは、賞賛すr。

「さて、今回は、どのような景色を観せていただけるのかな?」

 ちゃかすようにゼンが言う。 

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