愛すること――かけがえのなさ
メル前にホット・ミルクを飲んだ。
キッチン・テーブルで滝子と向かい合う。
「ねぇ、パパとママって、どちらが先に好きになったの?」
「むろんママの方からよ。パパは、カッコ良ったからね」
「ふーん、それで上手くいったんだ」
「付き合えることになった……、でも、いろいろと目に付くようぴにもなったの」
「―~?」
「『ハシの上げ下げ』のレベルで少しね。子どもの頃、親からハシの持ち方を厳しく躾られた人は、他の人が変な持ち方や使い方をしていると、気になってしまうの。
パパはね、カップを持つとき、小指を立てるクセがあったの。ママは、それが気になってね、注意したんだわ。気になった理由は、わからからないんだけど」
フフッと笑いながら言った。
フウカは、カップを持つ自分の手を見る。すると、小指が少し離れていた。
「パパは、何て言ったの?」
「『そうか、……気が付かなかった。
君が気になるようだったら、君の前では気を付ける』って。ちょっと申しわけない気がした。自分でも理由がわからないことを押し付けたんだからね」
「そんなこと、よく受け入れたね。私だったら、怒っちゃう」
「普通は、そうだよね。
でも、何でもかんでも受け入れてくれたわけでもないのよ。本当におかしいと思ったことは、話を最後まで聞いた後で、自分の考えを言ってくれたよ。理由を付けてね」
「……」
「うれしかったな。大事にしてくれていると思った」
「なぜ?」
「私のことを『わかろう』としている姿勢が見えたからよ」
「わかってくれなくても?」
「人って、そう簡単にわかり合えるものじゃないもの。
『わかろうとしてくれている』だけで十分じゃないかな。
何でもOKの男なんて信頼できないよ」
「パパとママって愛し合っていたの?」
恥ずかしかったが、思い切って聞いてみた。
「愛していたよ」
さすがに気恥ずかしそうだったが、ちゃんと答えてくれた。
「『愛する』って、どういうことかな?」
「そうだねぇ、『かけがえのなさ』かな。
失われると悲しくて、つらいもの……」
そう言って少しうつむいた。沈黙が、流れた。父ののことを思い起していたのだろう。
(かけがえのなさかぁ――)
フウカは、カイトの言葉を振り返っていた。
二人は「旅」の終わり頃、互いのことを思い、激しい戦闘の中で助けたり助けられたりしていたという。
(『かけがえのない存在』だったんだぁ。
つまり愛し合っていたということか)
理解できた気がした。同時に、うらやましいような感情が湧き起った。
家庭教師の最終日となった。
その日の夕食は、滝子お手製の「握り寿司」だった。このメニューは、父が帰ってくる日に多く出された。幼い頃のフウカは、炊き立てご飯をウチワであおいでさます役目をしていた。ネタは、マグロ・イカ・タコ・エビ・しめサバ・たまご焼などといったオーソドックスな物だったが、お店で食べる寿司よりおいしかったような気がする。
勉強の方は、順調に進んでいた。期末テストの要点整理をして終えた。
玄関口でカイトを見送った。
「今後もフウカのこと、よろしくお願いします」
滝子がカイトに声を掛ける。
「わかりました」
笑顔で答えた。
何気ないやりとりであったが、フウカはドキッとした。
(私、お願いされちゃった――)
しょうもないことを思ってしまった。




