「神聖女王」とカイトの関係は
「お手柔らかにお願いします」
意気込んでいるカイトの様子を見て、牽制しておいた。「勇者様」モードでビシバシやられたらたまらない。
苦手な数学から取り掛かった。理路整然とした解説でわかりやすい。時間は、あっという間に過ぎ、初日は終わった。この進み具合なら、目標値まで達することはできるだろう。
翌日は、英語である。こちらもポイント整理が巧みで、良く理解できた。だが、要領が良過ぎて終了したときには、ドッと疲れてしまっていた。
(ちょっとは、気楽な話もしたいのに……)
贅沢な不満だとはわかっているが、つい思ってしまう。
三日目は、現代国語だ。いつも考えるのだが、文学作品ででの「この部分について作者の気持ちを記せ」という設問が、理解できなかった。参考書の解説を読むと、もっともらしいことが書いてあるが、納得できない場合も少なくない。その点をカイト先生に尋ねてみた。
「確かにな。人の気持ちなんて、受け取る側しだいだ。本人にしかわからないし、本人でもわからい場合もある。
でも、これは教科書の勉強だ。設問者が答えさせたいことを推察して解答するしかない。わりきるしかないよ」
いたってドライな返答であった。
「カイトさんて、いろんな時代の人やカミ様なんかと話しているでしょ。コミュニケーションって、上手く取れてきたの?」
ツッコミを入れてみた。
フウカの場合、現代社会を熟知しているゼンや歴史に詳しいカイトを通して意思疎通をはかってきた。また、言語は「変換アプリ」が脳内に仕込まれていた(ゼンの仕業か)ようで、不自由なく会話できたのだ。
「苦労したことはあったな。言葉は通じても、意味合いや価値観が違い過ぎて戸惑うことも多かったよ」
しみじみとした口調で言った。
「ミカさんとは、どうだったの?
私の知っているミカさんは『落ち着いていて、しっかりした頼れるお姉さん』といった感じだったんだけど」
古代「越」へに跳んで、初代「剣姫」であるマオの人生を追ったことがある。
「フフッ、『神聖女王』様となると、変わるもんだな。トカムのお姫様として出遭った頃は、自由奔放で感情丸出しの女の子だった。すぐに怒ったり、すねたりしていた。ちょっと君に似ていたかな」
懐かしむような表情を浮かべた。
「ええ―、私って、そんな印象? すぐ怒ったりすねたりなんかしないよ」
口を尖らせ、頬をふくらませる。
「ほらはら、まっ、『自分の感情に正直だ』ということさ」
なだめるように言った。
「でも、意外だわ。あんなに威厳のある人が――」
「つまり『人は変わる』ということだ」
「カイトさんも変わったの?」
「見る人によって異なるんじゃないかな。
自己評価だと、当時の僕は、そりゃまぁヒドイものだったよ。自己中で根暗、おまけに身心共に軟弱だった。…救いようがなかったな…。だからミカにさんざんナジられたよ」
「まさかぁ――」
現在のカイトの印象とは、違い過ぎた。
「どうやって仲良くなったの?」
「旅の途中で助けたり助けられたりしてきたからかな。ミカには、何度も窮地を救われた」
遠いところを見るよな目つきで語った。
「……」
二人の間の固い絆が感じられた。
「カイトさんは、ミカさんのことがスキなの?」
ストレートに尋ねた。
「ああ、好きだよ」
ただし恋愛感情とは、異なるかも。僕にとって、ミカは、出遭った頃の『ミーカナ』から変わっていない。かわいくて、おちゃめな女の子だ」
「あくまでも僕の考えだが、『愛する』というのは、日々接している中で、築き上げていくものだと思っている。互いに生れも育ちも違うのだから、長所や欠点の見え方も違う。それを知った上で関係を育てていこうという思いなんだ」
「そんなにややこしいものなの?」
「まあね。理屈っぽ過ぎると思われるかも知れないが、『僕としては、そうだ』としか言えない」
「やっかいだね……」
「さっき『人は変われる』と言ったけど、それは『考え方や態度・行動』の部分だけだ。本来の『性格』は、ほとんど変わらないんじゃないかな。それを踏まえて付き合っていけるかどうかだと思う」
「……カイトさんと付き合っていくってタイヘンそうね。
単に『好き』というだけでは、ダメなの?」
「そんなことはないさ。すべてそこから始まるからね。その後、恋愛関係に進んでいけるかどうかは別問題ということ」
フウカは、そこまで深く考えたことはなかった。また、カイトの言わんとしていることはわからないでもないが、「複雑過ぎる!」。付き合っていく中で、そん理屈をこねくり回されたら、疲れてしまうと思った。
(付き合っていて『合わない』と感じたら。別れたらいいじゃない)
この考えは、間違っているのだろうか。おそらく大半の女の子は、そう思っているはずだ。
「おっと、時間になってしまったね。明日からは、スパートをかけていこう」
そう言い置いてカイトは、帰って行った。
フウカは、カイトの考えを聴けたことは良かったと思ったが、モヤモヤしたものが残った。




