地球を巡る「火龍の道」――地震の連鎖「熱移送説」
「地震や火山噴火の原因については主流の『プレートテクトニクス説』の他に、別の理論もあるんだ」
ユウヤの弁舌は、まだ続いていた。
(もう腹いっぱい!
消化しきれんぞ)
うんざりしながらも、耳を傾けることにした。
「『熱移送説』というのがある。
これは日本のある地震学者が唱えているもので近年、注目を集めている。
従来の『プレートテクトニクス説』では論証できない部分を補っているんだ」
複雑な理論を、どうわかりやすく説明するか考えているようだった。
少し言葉が、途切れた。
「地球の真ん中には、『熱のかたまり』がある。『地核』というやつだ。
内核と外核に分けられ、外核は液体状の鉄。少量のニッケルを含んでいる。
そこから発する熱が地表近くまで湧き出して、地表近くの層を巡っているという説だ。
その大きな『熱の流れ』が、活断層を刺激して地震を起こす。
また、火山のマグマ溜まりを刺激して噴火を誘発させるというんだよ」
A教授が、助け船を出した。
「うん、そう。
『熱の流れ』の噴き出し口は、二か所ある。
その内の一つが、ニュージーランドに近い南太平洋から湧き出しているらしい。
地表近くで三本に分かれ、それぞれ流れていく。
日本に影響を与えるのは、真ん中の太いやつだ。
インドネシアからフィリピン、台湾を経て南西諸島沿いに北上する。
ちょうど黒潮の流れと一致する。直接は、関係ないけどね」
ユウヤは、また言葉を切った。
わかったかどうか確認するかのようにカイトの顔を見る。
黒潮の流れはイメージできるので、うなずいた。
「諏訪之瀬島、口永良部島、薩摩硫黄島などの火山島、桜島、霧島山、阿蘇山などが属する『霧島火山帯』は、すべてこの『熱の流れ』の近くにある。
あの鬼界カルデラもね」
「鬼界カルデラには、巨大な溶岩ドームができているんだよね?」
「そうなんだ。
溶岩ドームは、人間の身体で言うと『動脈溜』みたいなものなんだ。
これが破れると、どうなる?」
「血が身体の中に溢れ出して、死んじゃうことが多いかな」
「だよね」
「……」
カイトは、ようやく納得できそうな気になった。
「火山を刺激するだけでなく、熱することで活断層も動きやすくなる」
「地震が、起こるんだ」
「だよ、だよ!」
「ふぇ――」
カイトは、思わずヘンな声を上げてしまった。
「まぁ、安定した流れなら、さほど問題ないのかもしれない。
でも、川の流れでも一定じゃないよね。
急に幅が拡がったり、勢いが増したりする」
「これまでに熱の移送で起こった地震や火山噴火はあるの?」
「最近では二〇一六年四月の熊本地震が、代表的かな。
震度七だったよね。二回も記録した」
ユウヤは、即答した。
「建物の全壊が八六八八戸。
負傷者二八〇八名。
死者二七二名」
教授が、具体的な数字を挙げた。
(熊本城が、壊れちゃったやつだな)
カイトは、当時のニュースを思い出した。
「この地震の三ヶ月前、気象庁は『口永良部島の火山噴火の後、九州の阿蘇山南麓にある活断層がズレた』と発表している」
事実だけユウヤは述べたが、言いたいことは伝わった。