「カイトを借りるよ」、ゼンがからかう
日曜日、フウカは二階の自室で中間テストの勉強に追われていた。昨日はハンググライダーで遊んでしまったので、その分も取り戻さなくてはならない。
「フウカお友だちが、いらっしゃったよ。一緒にテスト勉強するって約束していたんでしょ」
ドアをノックする音と共に滝子の声が聞こえた。
「……えっ?」
そんな約束、誰ともしていない。
「どうぞ」
不審に思いながらも、ドアを開ける。
そこには、あの関西弁の女の子が立っていた。滝子は、お茶を用意しに階下へ降りていった。
「こんにちは」
女の子は、おしとやかに挨拶する。
「ゼンでしょ。何しに来たの? 私、忙しいんだけど」
すぐに正体を察した。
「バレたか。ジャマするでェ」
さっさと部屋に入り、リラックス用のフカフカ椅子にドカッと腰を下ろす。まったくゼンのしぐさだ。
「用事があったんや。ちっとばかし大切なことがな」
「何なのよ?」
遊びにきたわけでもなさそうなので、聞くしかない。自分の椅子を移動させて向かい合う。
「けっこう良い部屋じゃん。母上も優しそうだ」
周囲を見回しながら、独り言のように言う。
「もったいぶらずに早く言ってよ」
そんなやりとりをしているうちにドアがノックされ、ティーカップとクッキーを載せたお盆を持った滝子が入って来た。フウカが小机を引き寄せると、その上に置いた。
「ごゆっくり――」
そう言い置くと部屋を出ていった。ゼンは女の子らしく姿勢を正し、にこやかな顔でペコッと頭を下げる。姿が見えなくなると、またヘタッとした態度に戻った。要領のいいカミ様だ。
「じつはな。政府筋から頼み事をされたんや。現実世界での対策が行き詰まっているらしい。そこで、『霊界からのサポートをしっかり頼む』と、念を押されたちゅうことや」
今回のプロジェクトは、現実世界と霊界が同時並行で作業を進めるということになっていた。絶対に失敗は許されないからである。
「現実世界で完全にやりとげるのが難しい部分を聞いて、そこをサポートできるように準備を進めておる。今回は、父上にもお出まし願わなくてはならないほどの大作戦や。
フンドシを引き締めて取り組まなくちゃならん」
「フンドシなんかしてないでしょ。身体の持ち主が背後から見ていたら、真っ赤になって起こるよ」
「ダイジョウブ、ぐっすり眠っているからな。
ほら、パンツ見せてもダイジョウブやで」
スカートの前の裾を両手で持って上下にフラフラさせる。
「やめなさいよ! ホントに怒るよ。
ゼンには、ゼッタイ身体を身体を貸したくないわ」
やりたい放題のゼンに怒りをぶつける。
「ゴメンちゃい。まぁ、そう怒りなさんな。ちょっとフザケただけやろ。
さっきの話の続きやが、現代の剣姫様にも重要な役目を果たしていただかなくてはならん。その儀式のための修行をお願いしたいのや」
サックバランな話しぶりがら剣姫への敬意は、込められていた。それにしても大海竜王が自ら乗り出すなんて、本当に大事なんだと思った。
「……中間テストが終わった後ならいいよ。ただし痛かったり苦しかったりするのはゴメンだ」
承知する。承知するしかなかった。
「わかった。そんな類の修行じゃないから安心しな」
ウン、ウンとうなずきながら応える。
「ところでカイトのことだが、ちょっとばかし借りるよ。霊界でやってもらわなくちゃしならんことがあるんや」
「そんなん、私に許可を得ることないじゃん。関係ないし……。それにゼンは、『勇者カイト様』の相棒でしょ!」
反応が、ついキツくなった。また心の中でウグッと動くものがあったからだ。
その様子を見て、ゼンはヘヘッと薄笑いを浮かべる。




