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「貴き御方」とは誰か

 

フウカに続いて滝子も愛機「姫」で上がってきた。久しぶりの親子ランデヴである。並んで飛行し、晴れた秋空を楽しんだ。

 午前中で切り上げ、帰途に就く。夕方でもないのにカラスが群れて鳴き騒いでいたのが気になった。

 途中で地震の揺れを感じたので車を道路脇に寄せて留め、ラジオのニュースを聴く。「震度三」だった。これくらいならけっこうあることなので、安心した。

 ニュースは続いて伊勢神宮の「神嘗祭(かんなめさい)」について報じた。それによると昨年(二〇一七年)、神宮の「祭主」に就任なされた天皇陛下のお身内の方が伊勢神宮まで出向き、御奉仕なさるとのことだった。

 お昼になったので、食堂に立ち寄る。ファミリーレストランだ。フウカは「ハンバーグ定食」、滝子は「あんかけスパゲティ」を注文する。やはり尾張人だ。

 食後のアイス・コーヒーを飲みながら、くつろぐ。あまり混雑していないので、ゆっくりすることにした。

「ねえ、ママ。ニュースで言っていた『祭主』って何なの? 学校で習った『斎宮』とは違うの?」

 「貴き御方」という言葉が気になっていたので尋ねた。滝子は大学で神道を学び、熱田神宮で「巫女さん」をしている。いわば専門家であった。

「うん、違うよ。二つとも古代からある役職だけど、斎宮、斎王は、『神を自分の身体に降ろす人、英語で言うとシャーマンね。それに対して祭主は『祀る人』、プリーストなんだ。異論はあるけどね。

 初代の斎宮は『ヤマト姫』という天皇陛下の皇女で、アマテラスオオミカミの神霊を奉じて各地を巡り、現在の伊勢神宮の地に安置した人なんだ。この斎宮制度は、南北朝時代になくなってしまったけどね。

 祭主はアマテラスオオミカミを祀るのが仕事で、天皇家に近い人が任じられるの。『新嘗祭』は今年穫れた穀物を神様にささげるのが目的で、伊勢神宮では最も大切な祭事とされているんだ」

「へぇ――、そうなの。だったら、ニュースで言っていた人が『貴き御方』7なのかな?」

「うーん、それはどうかな……」

 滝子は、言葉を濁す。たぶんわかっているけど、言えないのではないか。

「斎宮かぁ――。そう言えば以前、熱田神宮でも斎宮制度を設けようかという話があったらしいよ。

 世が世ならフウカが、斎宮として祀り上げられていたかもね」

 フフッと小さく笑いながら滝子が言った。

「そんなの絶対イヤ! だって斎宮って一生独身を通さなくてはいけないんでしょ」

 悪い冗談だ。意地悪。いつかは好きな人と、結婚したい。オトメの夢を壊すな。


 政府内でも、急ピッチで議論が進められていた。科・化学、工学、気象、海洋学など各分野の専門家が集められ、秘密裏に具体的な計画が練られていた。

 十月半ばになって、ようやく全体像が見えてきたが、見通しは暗かった。

 「溶岩ドーム内の気圧を保ったまま、温度を下げる」という目標は変わらなかったが、実現するとなると、解決すべき問題が山積みとなった。

 まず上部に溜まった火山性ガスを抜かなければならないが急激にはできず、それも冷媒物質を等価交換のかたちで徐々におこなわなければならない。そのバランスを崩せば、ドーム内の気圧が変化し、界壁が保てなくなる。そうなれは、暴発間違いなしだ。

 また、高温のガスを海中に放出すれば、周辺海域は温度上昇で「死の海」となってしまう。海洋生物は、たった数度、海水温が変わっただけで逃げ出したり死んだりしたりする。それだけでなく海水温の上昇だけで広い地域に異常気象をもたらす恐れもあるとのこと。とても国民に知らせずに計画を進めることはできない。理解も得られないだろう。下手に真実を公表すれば、大パニックになるのは、必定である。

 入力データを変えながら超大型コンピュータでシュミレーションを繰り返したが、打ち出されてくる答えは、すべて「失敗」であった。

 だが、失敗は許されない。一歩でも間違えれば、日本の半分は壊滅し、世界に「冷夏」をもたらす。その先、数十年は立ち直ることができないであろう。

 物理原則の壁は厚かった。シュミレーション結果を見た研究者たちは皆、頭を抱えた。

 重苦しい雰囲気中で、発言した者がいた。源造宅で話し合った政府関係者で、この秘密プロジェクト全体を実質的に主導している人物だった。

「ならば、物理原則を超える対策が打てれば、良いのですな」

 落ち着いた口調で話した。

 参加者たちは、「何を言ってるんだ」という顔で、その年配者を見た。 

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