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張り巡らされた霊的ネットワーク

「要するに お宮さんが、地震を抑えていると言いわけね」

 気分が冷めた分、言葉遣いが荒れていた。

「コホン、まあ、そういうわけだよ」

 自分の世界に入り込んでいたことに気づいたカイトは(せき)払いをした後、姿勢を正し、肯定した。オタクにとって自分が関心を持っていることに耳を傾けてくれる人間は、貴重だ。たいていは、煙ったがられる。日頃、注意はしているのだが、失敗してしまった。

(いつも沈着冷静なカイトさんだけど、ポンコツな一面もあるのね)

 ちょっと親近感がわいた。でも、ウザったいのは、嫌だ。

「話を続けて、いいかい?」

 顔色をうかがうような感じで、尋ねた。

「いいよ。私が知っておかなければならないことなんでしょ」

 なんといってもフウカのために話してくれているのだ。

「神社や寺院が『不安定と感じられている場所』に建てられているのは、熱田だけじゃない。とくに奈良・京都周辺地域に在る古いお(やしろ)や寺院は、その傾向がある」

 付け加える。

(寺院なんか国家鎮護だもんね。当然かな)

 そこまでは、理解した。

「神社やお寺での祈祷で得られた力は、どうやって熱田へ集められるの?」

 収集ルートがなければ、拡散してしまわないか。まさか空を飛んでくるわけではないだろう。

「それは、地面の下を流れてくるんだ。『龍脈』と言ってね。『大地の気の流れ』が、全国的に網の目のように張り巡らされている。とくに太いパイプが、古くからの寺社の間をつないている。つまり神様や仏様のネットワークだ。

 熱田神宮に関する中世の書物に依ると、神宮の下には、多くの龍脈が交わるポイントがあるとのことなんだ。

 この大地の気が噴き出すところは『龍穴』と呼ばれる。実際に穴が開いているとは、限らないんだけどね。

 これも古くからの寺社近くに存在していて、奈良の『室生龍穴神社』なんかが有名だね。最近では、パワースポットとして訪れる人も多いみたいだよ。

 熱田神宮にも龍穴はあると言われている。場所は、境内摂社『龍神社』の下らしい。確かめてはいないけど」

 またエンジンの回転速度が上がってきた。このままでは暴走し、置いていかれてしまう。そろそブレーキを踏まなければならない。

「ちょっと待った! カイトさん。また話がズレてきているよ。

 カイトさんのウンチクがスゴイのはわかったけど、このままではウンチになっちゃうよ」

「ごめん……。僕もクサイのは嫌いだ」

 こういうタイプの人は、本人も気づかないうちに話しぶりが説教クサくなりがりだ。聞き手をウンザリさせてしまう。

「今日は、ここまでにしておこう」

 カイトは、話を打ち切った。

 フウカとしては話に出てきた「貴き御方」とは誰なのか知りたかったが、もう頭がいっぱいで入る余地がない。

 時間は昼過ぎになっていた。二人で食堂に入り、揃って「きしめん」をすする。尾張人のソウルフードだ。カイトは東京で生まれ育ったが、名古屋で大学生活をするうちに好きになったと言う。

 家に帰ると滝子は、台所の片付けをしていた。

 フウカは、カイトのポンコツぶりについて話す。

「そう……でも、まったく(すき)のない人って疲れるものよ。多少ポンコツなくらいが、ついあいやすいんじゃない?」

 紅茶を入れながら言った。

「無いない――」

 フウカは椅子に腰かけ、足を組み背もたれに身体を預けている。片手を顔の前に上げて左右にパタパタと振った。

 滝子が「つきあう」という言葉を、どういう意味で使ったのかわからないが、フウカは女子高生用語で解釈し、答えた。そう言いつつも、何かが心の中で動いた。

 ひと仕事終えた滝子もテーブルの前に座り、紅茶のカップを手にしている。

「ねえ、今度の土曜日、飛びに行かない?」

「行くいく!」

 フウカは、即答した。ちょうど「寒くならないうちに飛びに行きたい」と思っていたところだった。爽やかな秋空を、思いっきり飛んでみたい。

「ママの仕事の方は、大丈夫なの?)

 熱田神宮は観光名所でもある。土日は忙しいはずだ。

「うん、母子家庭だということで、勤務シフトを配慮してくださっているのよ」

「やさしい職場だね」

 そんなことで、ハンググライダー場へ行くことが決まった。

 当日の朝となった。幸いにも良く晴れている。車に荷物を積み込んで向かう。

 いつもの山腹斜面で「ファル」を組み立て、「仔犬の御守り」も結びつける。

「ファル、今日は手助けしてくれなくてもいいからね。自分の力だけで飛びたいの」

 目の前にぶら下がったお守りを手の平に乗せ、語り掛ける。「旅」の途中、とくに戦いの際はファルが活躍してくれて、ほとんど自分の力では飛んでいなかった。だが、遊びのときくらいは、思うまま操縦したかった。

「準備良し!」

 気合を入れて、駆け出す。風に乗って離陸した。フワッと舞い上がり、角度を上に向ける。眼下には、田畑が広がっており、川は陽を浴びてキラめいていた。

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