国家鎮護のため寺社が力を合わる
「なんか肌寒くなったね」
家から外へ出たとたんフウカは、ブルッと身を震わせた。
「そうね。秋物の服を出しておかなくては――」
車の運転席に乗り込みながら滝子が応える。
十月最初の日曜日だ。例年ならば、まだ寒さを感じるほどではないはずだが……。
源造宅に到着し、勝手に居間へと上がる。滝子は、慣れたものだ。
いつもの座卓に源造とカイト、それに見知らぬ二人が座って茶を飲んでいた。遅刻したわけではないが、フウカは、なんとなく気まずい思いをした。
座卓の四方に、左右一人、前後に二人ずつ座るかたちとなる。フウカは、源造の横に招かれ、カイトが滝子の横に移った。
左側には質素な黒い袈裟衣をまとったお坊さんが正座し、静かに微笑んでいる。かなりのお年寄りだ。なぜか気品がが、感じられる。右側の人は、白い神官服で、ちょっと仕事を抜け出してきたという風体である。胡坐をかいていた。こちらも普段着ながら威厳が備わっていた。
フウカは正面に座らされ居心地の悪いをしながら両手を膝に置き、かしこまっている。上目遣いで、左右の人をうかがい見た。
「そちらが、『つるぎ姫』様でございますか?」
お坊さんが、尋ねる。
「はい、御つるぎ様の承認を得て継承し、今回の火竜対策にも参加しました。お見知りおきのほど、願い上げます」
源造が丁寧な口調で答えた。
神官らしき人も、おもむろにうなずく。
「よろしくお願いします」
正面の滝子が目で合図したので、ペコッと頭を下げる。
「今回の火竜対策、お見事でした。御礼申し上げる」
神官も、そう述べつつ頭を下げた。
「さて、本当に困ったことになりました。すでに報告が届いているかと思いますが、長年の懸念が間近に迫っているようです。宗教界でも、総力を挙げて取り組まねばなりません。
全国の寺社が共に力を合わせて立ち向かう必要があります。貴き御方のご助力も賜ることができそうなので、古来よりの使命を果たす時が来たようです」
源造は、明言した。
「拙僧も御山に帰って協議し、態勢を整えることにいたそう」
後で聞いた話によるとお坊さんは、比叡山の高僧であるらしい。
滝子の説明によると、比叡山は都の北東部に位置し、邪気の通り道となる鬼門を護る役目があり、国家鎮護を使命とする寺院であるとのこと。
元より日本に仏教が導入されたのは、「国家鎮護」が主目的であった。よって、国難に際しては、全国の寺院が一斉に読経を挙げ、「恨敵退散」を祈念した。主に病災害が蔓延した際に行われたが、「元寇」の時も大々的に実施された。その功績をもって朝廷から栄誉と報奨を受けている。
神社も同様であった。すべての神々に対して、国を護るための祭事を催し、祈りを捧げた。
――そんな話であった。ちなみに同席した神官は熱田神宮に所属し、「剣の護り人」の存在と役割を知る数少ない人であるらしい。
フウカも日本史の授業で概略は習っていたが、現代にまで続いているとは思いもしなかった。
「つるぎ姫様、詳しいことにつきましては、もう少し話が煮詰まってから、お話し申し上げます。今日は、顔合わせのみといたします」
源造が、いつもとは違う丁寧な言葉遣いで話し掛けた。フウカは理解できず、キョトンとしてしまう。
「それでは、これで失礼させていただきます」
滝子が一歩下がって両手をつき、左右の人に対して頭を下げた。そして、立ち上がり態度で「帰るよ」とフウカを促した。フウカは、わけがわからないまま、立ち上がり後を追った。
「買い物してから帰るから、またカイトさんに送ってもらいなさい」
そう言い残すと車に乗って去ってしまった。
(なんで! 買い物なら一緒に連れていってくれればいいのに……)
立ち尽くしてしまった。
「滝子さんは、僕から君に話しておいて欲しいことがあるんだろうね。
近くの喫茶店に寄ろう。好きなものをおごるよ」
そう言うと、先に立って歩き出した。フウカは追いかけ、並ぶ。「不可解でならない」といった顔をカイトに向ける。
(ママとカイトさんが、なんでわかり合っているのよ!)




