秘密の国家プロジェクト
とんでもないことになった。フウカの頭は、真っ白になる。
「カイトさん、これからどうしたらいいの?」
すがる思いでカイトの方を見た。
「数日経ったら、また源造さんから話を聴こう。関係者と対策について話し合いを始めているはずだ」
「そうだね……」
滝子が源造さん宅に残ったのも、その打ち合わせのためだろう。普段の源造さんは熱田神宮の境内を管理しているおじさんで、いつも竹箒を持って落ち葉をはいたり、草取りをしたりしている。滝子も神宮の巫女さだ。日中は社務所で、お札やお守りを販売していることが多い。
しかし、裏の顔は、二人とも「剣の護り人」である。千竃氏の子孫として代々「ククサナギの剣」のお世話を受け継いでいるのだ。源造さんは、一族の長でもある。専従者は二人(フウカは見習い)であるが秘密を共有する関係者は、神道をはじめとする宗教界だけでなく政財界、法曹界など広く存在するらしい。なぜなら熱田神宮並びに「クサナギの剣」は、「日本の存立」自体に深く関わっているからだ。
フウカが「つるぎ姫」であることが分かった時、滝子からザッと説明を受けた。だが、大半は理解もできず聞き流してしまった。急に難しいこと言われても困る。
滝子の話によると、熱田神宮の神剣は「三種の神器」の一つとして、宮中にある形代の本体である。国家存亡の危機にあるときは、真っ先に保護されなければならないほど、重要なものなのだという。
また、この神剣は、熱田の地から動かすことはできない。ヤマトタケルノミコトや天武天皇ですら動かすことを諦めたほどだ。
日本列島のほぼ中央部に在ることが大切なのである。尾張氏(及び親族の千竃氏)が代々、この地でお護りしてきたのには、相当な理由が存在するのだと聞かされた。
フウカは、重たい気持ちで喫茶店を出た。駅までカイトに送ってもらったが、二人の間に会話はなかった。家に帰ると、滝子が先に戻っていた。
「お帰り――」
「……ただいま」
滝子の声掛けに力なく応える。
「どうしたの? 元気ないね」
心配そうだ。
「ママ、源造さんとの打ち合わせって、何だったの?」
「神宮関係の話よ」
同じ職場なので、仕事の打ち合わせをしていたとしても、おかしくはない。問題は「表の話なのか、裏なのか」ということだ。
「……」
フウカは、不安と不服が表れた顔を滝子に向ける。
「今度の日曜日、また源造さんの家へうかがうから、予定しておいてね」
その言葉を聞いて、本題が伝えられるんだろうと思った。聞きたくはない。逃げたい。
自室のベットに寝っ転がる。両手の平を頭の下に敷き、考える。
(何で、こんな家に生まれてしまったんだろう。ママは大好きだけれど、家筋・血筋が重かった。
だいたい普通の女の子に日本の運命が託されるなんて、間違っている!)
単なる象徴でしかないにしても、責任は感じてしまう。
(風華は、自分の宿命について、どう考えているんだろう? 毎日、神殿でお祈りするだけの人生なんだよね)
鎌倉時代の御先祖様「風華」のことを思いやる。それに比べれば自由があり恵まれているが、他の同世代の女の子たちは、もっと自由だ。
(他の子は、みんな自由? ホントに?)
なぜかそんなことを、ふと思ってしまった。
(本当に自由ならば、悩みなんてないはずだ……)
フウカの頭では、それ以上は考えられなかった。枕を抱え顔を押し付けて、足をバタバタさせる。
千竃源造宅の地下室では、いくつかの会議や打ち合わせがおこなわれていた。集まるのは十人以下のメンバーであったが、その顔ぶれが、異彩であった。宗教、学問、政財、法曹界の組織において側面から影響を与えられる、いわば良い意味でのフィクサーと呼ばれる人々である。
メンバーの共通点は「日本の霊的防衛」を真剣かつ学術的に研究、実施しようとしている点にある。一種の秘密結社と言っても良いだろう。
この集まりでは数年前から「鬼界カルデラ」と「南海トラフ」の状況について関心を寄せていた。自然災害として最大級の危険な存在であることは、一般的にも周知されている。だが、「表」での議論の他に「裏」でも危険性の分析がおこなわれ対策が検討されていることは、知られていない。メンバーたちは、現実社会と霊界が表裏一体の関係にあることを知っており、密かに連絡を取り合っていた。
最近になって各方面から「鬼界カルデラが危ない!」という情報が源造の下に寄せられるようになった。(源造は、この秘密結社の世話人でもある)
そこで緊急会議や打ち合わせが頻繁におこなわれているのだ。連絡事務所兼集会所となっている当所には、熱田神宮の参拝客を装って関係者が訪れてくる。
この日も火山や地震、地殻変動の専門家、内閣府、防衛庁関係者など八人が顔を揃えていた。皆、深刻な表情で腕組みしたり、瞑目したりしている。




