神宮の森で――約束を果たそう
迫りくるだろう新たな大災害の詳細についは、「もっと情報が集まっててから」ということになった。
(思わせぶりな前振りで煽っておいて、ヒドい!)
フウカは、イラついていた。せっかく気分よく朝を迎えられたのに、これでは台無しだ。
滝子は少し打ち合わせがあるということだったので、カイトと一緒に帰ることとなった。熱田神宮を抜けて、駅に向かう。道々、ぶうたらグチをこぼした。カイトは、黙って聞いてくれた。
「源造さんとしても、いい加減なことは言えないんじゃないのかな」
カイトは、それだけ言った。
拝殿の前で手を合わせ、心の中で任務達成を報告し、現地での助力にを感謝した。ここに祀られているのは、神剣こと「御つるぎ様(クサナギの剣)」の本体である。また、「剣姫」としてのフウカが仕える神でもある。次の指令も、この神様から源造を通じて伝えられるのであろう。
(直接、私に言えばいいのに……剣姫として、まだ未熟ということかな)
文句を言いたくなった。曖昧なビジョンだけは、夢で見させるのだが――。
境内を二人並んで歩いていると、何となく「デート気分」になった。「勇者様」は願い下げだが、「大学生のお兄ちゃん」なら許容範囲だ。なんといってもフウカは、普通の女子高生である。
ちょっとルンルン気分になったところで、二人連れの女の子から声を掛けられた。フウカと同年齢くらいのようだ。あか抜けた服装。腕を組み、何かささやき合いながら、近づいて来た。「クスクス笑い」も見せている。
(同級生でもないし、ハンググライダー関係者でもないな。誰だろう?)
あれこれ考えたが、思い当たらない。
「私たち、ダーレだ?」
目の前にまで来て立ち止まり、いきなりわけのわからない問い掛けをしてきた。
(無礼なやつだ!)
憤慨しかかったが、アッと思った。片方は、わかった。こんなことをするのは、一人しかいない。
「ゼン、先に帰ってきていたのね」
言い当ててやった。
「バレたか。前歴があるから、しょうがないな」
ショートカットの少女が、チョロッと舌を出す。この仕草も、彼女のものだ。別の少女の姿だったが、前に出遭ったのも、この境内であった。
(もう一人は、誰なんだろう?)
カミ様であるゼンの連れなんて、考えもつかない。
「約束を果たしにもらいに来たぞ」
前髪を額に垂らし、肩のところで切り揃え、いかにも休日の女子高生といった服装の女の子である。それなのに古武士のような口調で話した。――わかってしまった。
「果物がいっぱい飾られたパフェが食べたいんでしょ」
さんざん助けられたからお礼はしなければならない。
「そうだ。楽しみにしておった」
マオである。コクコクとうなずく。
(いつの間にフウカの身体から抜け出したのだろうか?)
他人に乗り移れるなんて、思いもしなかった。これも、ゼンの仕業なんだろう。
隣のカイトは、平然とした態度で一連のやりとりを眺めていた。
みんなで近くの喫茶店に入ることになった。
その前にコンビニに立ち寄ってお金を引き出す。久しぶりに足を踏み入れた店内は、新鮮に感じた。何でも揃っている。マオが憑依した女の子は辺りを見回し、驚きの表情を見せていた。いかにも昔の「お上りさん」といった様子だ。身なりが都会娘なだけに目立っている。とくにスウィート・コーナーでは、ヨダレを垂らさんさんばかりの目で商品を凝視していた。早く喫茶店へ連れて行くほかない。




