次の災厄?――源造宅で告げられ
靄がかかった状態を抜けると、洞窟の出口が見えた。眩しいくらいに明るい。スマホが鳴ったので取り出すと、機能していた。日付は、九月二十日と表示されている。二十日に洞窟へ入ったので、まだ一日も立っていないことになる。
(あんなに長い旅だったのに……)
不思議な気分だった。事前に説明はされていたが― ―。
カイトの父親の伯母さんの家へ向かう。伯母さんはノロ(島の巫女)の家系で、今回の「旅」の理解者だ。
「ただいま戻りました」
庭先で立っていたおばあさんにカイトは、挨拶する。
「ご苦労だったね。使命は、上手く果たせたかい?」
心配そうな顔で、尋ねた。
「ええ、なんとか無事に――」
カイトは穏やかな笑顔を浮かべ、静かに答える。
(現代も、以前と同じままだ。ホントに上手くいったんだな)
改めて実感した。ホッとする。風華と、その後継者たちも、使命を果たしてくれていたということなのだろう。
その夜は、大伯母さんの家に泊めてもらい、「旅」の次第を報告する。おばあさんは驚きの表情を見せながらも、真剣な眼差しで耳を傾けてくれた。
翌日、預けてあった来島時の服に着替え、鹿児島経由で東京へ向かう飛行機に乗り込んだ。上空から眺める島々は、鎌倉時代と、さほど変わらない。フウカは、出遭った人々の顔を思い浮かべる。
ふと遠くに目を遣ると金竜が並行して飛んでいることに気づいた。
(堂々と飛んでいて大丈夫なの?)
乗客が気づいて騒いでいないので、フウカとカイト以外には見えていないのだろう。このまま東京まで行くつもりかもしれない。現代におけるゼンの現住所は、東京だからだ。
空港に迎えに来てくれた滝子に飛びつく。話したいことが山ほどあった。すぐに話始めたかったが、ママは人差し指を唇に当てた。
カイトとは、その場で別れた。明日、改めて滝子と源造さんを含めて話すことになったからだ。
車の中でも話したくてウズウズしたが、我慢した。思い出すまま話しても、混乱させるだけであろうと思った。やはりカイトに筋道だった報告をしてもらった方が良い。自分の感想は、それからだ。
家では、フウランと風華の二人についてだけ語った。とてもかわいかったこと、がんばっていたことなどである。そう言えば、フウカは「風歌」に戻ったのであった。「旅」の途中では字で書き表すことはなかったので気にしなかったが、それを思うと現代に戻ったことを改めて感じた。
ママの手料理を食べ、お風呂に入って自分のベットに潜り込む。すぐに眠りに落ちた。
満ち足りた気分で朝を迎えた。
(平和だな――)
伸びをしながら思った。平和な日常の有難さを感じた。
今日二十一日は、連休最終日である。朝食の後、ママの車で、源造さんの家へ向かう。
応接間に入ると、すでにカイトが座卓の横に座っていた。柔和な笑顔を浮かべている。どう見ても普通の「大学生のお兄さん」だ。あの「立派な英雄様」の面影は、どこにもない。
「お待たせいたしました」
滝子は挨拶し、二人並んで座った。窓からは、熱田神宮の森を吹き渡ってくる初秋の風が、流れ込んでくる。
全員が顔を揃えたところで、床柱を背にした源造が口を開いた。
「風歌、海人君お役目、ご苦労であった。無事、帰還できたこと、嬉しく思う。安心した。こちらの御剣様も、満足なさっていらっしゃることだろう」
かしこまった言い方だった。「剣の護り人」としての正式な報告会の席だからであろう。
報告は、カイトがおこなった。順序立てて具体的に述べていく。わかりやすい。フウカがおこなったら、事実と私見が入り混じって、シッチャカメッチャカになっていただろう。
「――なるほど、大変だったな」
ねぎらいの気持ちが籠った言葉であった。内容自体には、さほど驚きを見せていなかった。一方、滝子は、目を丸くして言葉も出ないような感じだった。そりゃそうだ。
加えてフウカが、自分の感想を付け加えた。こちらは、態度を和らげて聴いてくれた。
「これで、すべて終わったんですね」
この言葉で、締めくくる。いかにも「ホッとした」という語調であった。
「……いや、まだ終わったわけではない。もっと大きな災いが待っている。対策を練り、準備に取り掛からねばならない」
源造が腕組みをし、額に眉を寄せた。
(ふぇ――、まだ何かあるの?)
フウカは、うめいた。
火竜の来襲問題なら、対策は出来ているはずだ。またゼンとマオ、ファルに任せればよい。大海竜王の眷属たちも協力してくれるだろう。
「火竜の来襲問題ではない」
フウカの思いを見抜いたかのように源造が、言葉を継いだ。




