トカムからの帰還――フウランたちとの別れ
トカムへの帰還は、また金竜への二人乗りである。岬の草原でゼンが現れるのを待つ。昨夜は、気軽なおしゃべりを楽しんだ後、またどこかへ行ってしまった。
風華をはじめ巫女と武士たちが、総出で見送ってくれるようだ。短い間ではあったが、「ご先祖様」に会えたし、手助けもできた。「任務完了!」といったところだ。
現代で鎌倉時代の剣姫「風華」から助けを求められたときは「ぜったい無理!」と思ったが、偶然出会ったカイトの導きで、タイムトリップなどという「とんでもない旅」が実現してしまった。縁とは、不思議なものである。
こちらで出会った人たちとの交流を振り返ると名残惜しい気持ちもあるが、「早く、ママに会いたい」という思いの方が勝った。
やがて金竜が、空から舞い降りて来た。一同、目を見開いて驚愕の表情。すぐに膝を折り手を地に着き額をこすりつけ、拝跪した。巫女たちは来訪時に見ているのだが、やはり身を震わせ伏し拝んでいる。竜神を目の当たりにすることなど前代未聞のことなので、当然の反応であろう。
あまり畏れさせてばかりもいられないので、すぐに騎乗する。
「フウカ様! まことにありがとうございました」
風華が駆け寄ってくる。見上げる目に涙をいっぱいに溜めていた。
(青春まっさかりの女の子なのに、これからも大変な人生を歩むことになるのだろうな。宿命とは言え、同情するよ……)
ずっとこの地で「子守歌」を唄い続けることになるのかもしれない。我が身も含めてタメ息しか出なかった。しかし、フウカには母や源造さん、カイトなど事情を分かった上で見守っていてくれる人たちがいる。
「飛ぶよ。まずは、『わたつみの宮』へ行く」
ゼンが心話で、告げてきた。神剣を平家蟹たちに返却しなければならない。
東シナ海の途中で「ザブン!」と海中に突入する。「光の繭」に包まれているので、溺れることはない。
間もなく竜宮城に到着した。すぐに大海竜王の御前に参じて次第を報告する。
「祝着であった。これで民たちも、しばらくは安寧を保つことができよう」
竜王は、重々しくうなずく。そして、言葉を続けた。
「ところで、御剣の扱いだが、平家蟹たちに言いおいて、こちらの宝物庫で預かっておこうと思う。
形代とは言え天照大神より授かって、天皇家が代々守ってきた『クサナギの剣』、つまり竜剣だからな。天皇家を守護する立場にある竜が粗末に扱っては申し訳ない」
奪おうとしているわけではない。返しても、海水に浸かったままになってしまう。いくら錆びにくい材質でできているとは言え長年放置しておけば、影響が出ないはずはない。その点を説明すれば、平家蟹たちも納得するであろう。預かっておき、儀式の時だけ渡せばよい。
次に火竜が来襲して来た際の備えとしても保存は大事だ。交渉その他は、竜王に任せることにする。
席を温める間もなくフウカとカイトは、また亀に乗って徳之島「トカム」へ向かった。
秋利神の街、その港へ到着すると、フウランたちが待ち構えていた。館では、またまた好奇心丸出しの視線を浴びた。それは、慰労会の席まで続いた。だが、一般の人々は遠慮がちに、それとなく尋ねてくるだけである。いちおう「勇者様」が、公式の報告をおこなっているからだった。
「フウカ様、もっとお話を聴かせてくださいませ」
フウランは親しくなっている分だけ、おねだりしてきた。
「……そうねェ」
困った。話しても、わかってもらえる自信がない。隣席に座って盃を手にしているカイトに、目で助けを求めたが知らぬふりである。何とかごまかして自室へ逃げ込んだ。
二日ほど休養した後、いよいよ現代へ帰還することとなった。朝、神殿へ向かう。神聖女王「美華様」へ挨拶をするためだ。会おうと思えば現代においてもミカは姿を現す(声だけではあるが)ので、とくに絶対の別れというわけではないが、フウカとしては二人で古代中国「越」へ跳び、マオの人生を見つめる旅をしてきたので、名残惜しい気分はあった。
フウカとカイトは、神聖女王の像の前で畏まり、出立の報告をおこなう。思わず涙がこぼれた。自分でも意外な気がした。
「泣くな、フウカ。私はいつもお前のことを見守っているよ。たまには、遊びに行くさ。そのときは、イチゴ・ケーキとミルクティ歓待してくれ」
ミカの声が、頭の中で聞こえた。
「うん、わかった」
フウカは、短く答える。
(そう言えば、マオはどうなるのだろう。本体から魂の一部を与えられ、存在している身の上だ。やはりここで、お別れとなるのか?)
これまで身体を共有し、闘ってきた仲である。ずいぶん
助けられた。さびしい……。
「フウカ、心配するでない。吾は、そなとと一緒に行くぞ。吾は分身だから、問題はない。ゼン様からうかがったのだが、現代とやらは、ずいぶんと楽しい所だそうだからな。『都会でのエンジョイライフ、ベリーグット!』とおっしゃていた。意味はわからなかったが――。
吾は、『果実がたくさん載ったクリーム・パフェ』と言う物を食してみたい。頼むぞ」
今度はマオのウキウキした声が聞こえてきた。ゼンから吹き込まれたようだ。苦笑いするしかない。
マオは「初代剣姫」として波乱万丈の人生を送り、苦労を重ね、民衆のために尽くしてきた。これくらいは、報われてもよいだろう。
しかし、ミカとマオが何度も憑依してデザートをパクパク食べまくったら、フウカは太ってしまう。それは、イヤだ。断れないが、悩んでしまった。ゼンを恨むしかない。
ともあれマオが付いて来てくれるのは、嬉しかった。頼もしいかぎりである。暴漢に襲われたとしても、ひと蹴りで撃退してくれるであろう。
カイトは真剣なまなざしで、美華(神聖女王)の像を見上げていた。何を思っているのだろうか。フウカの推察では、二人は「時代を超えた恋仲の関係」にある。「報われない恋」と言ってしまえばそれまでだが、美しくも悲しい。
昼食を済ませ、まとめた荷物を「前山洞」の前まで運んでもらい、最後の別れを告げる。
見送りの人々の多くは、涙を流していた。とくにフウランは、泣き崩れてしまっている。
「このたびは、本当に助かった。心から感謝する」
何度か繰り返された感謝の言葉を再びトカム王が口にする。カイトとフウカの手を固く握った。この国も、前途多難のようだ。王の話では国家の形態をとることを止め、単なる商団として活動していくとのことである。
二人は荷物を引っ張りながら洞窟内へと入る。少し進むと、細かい光の粒が満ちた空間に突き当たった。そのまま、歩みを進める。
グラッと空間が揺れ、ゆがんだ。




