ママに会いたい!――現代へ戻るよ
戦いは、終わった。「あっけない」と言えば、それまでだが、日本の存亡を賭けた出来事であったことは確かだ。この時代での大災害、つまり大噴火、地震、津波は避けられたし、現代社会の安定にも繋がった。もし当代で日本の西半分が壊滅的な被害を受けていたら、その後の歴史は大きく変わり、フウカたちの存在すら危うかったに違いない。
火竜が地中に引っ込んだ後、マオは姿を消した。ファル〇ンも、元のハンググライダーとなっていた。フウカは、機体の下である。気が付いたら、元の通りになっていたという感じだ。
(――夢でも見ていたのかなぁ)
あまりにも光景が幻想的過ぎて、実際に体験したこととは思えない。大小の竜が、わんさか出てきて火竜に群がりピュッピュッと水を吹き掛けるなんて、衝撃的というよりもコミカルなくらいであった。
(ファル〇ン、かわいかった。
あのモフモフ、気持ちが良かった。また会えたらいいな)
目の前にぶら下がる「仔犬の御守り」に語り掛ける。
機体は、薩摩半島の陣地に向かっていた。金竜とカイトの後を追っているので、迷うことはない。また、風の女神「シナト姫」並びに「仔犬ちゃん」のおかげか風向きに関係なく針路が保て、スピートも出ている。フウカが操縦することは、ほとんどない。操舵管を握っているだけである。
岬が見えてきた。風華を筆頭に巫女たちが出迎えてくれた。皆、喜びに満ちた表情である。カイトは、すでに降り立っていた。金竜は留まることなく、すぐに去ったようだ。
神殿で、こちらでの神事の様子に耳を傾ける。
祭壇の間に風華が座して「子守歌」を唄い、背後で楽師が伴奏した。とどこおりなく進み異変はおこらなかったとのことだったので、ヤマタノオロチの所まで届いたのであろう。確かめようはないが、「上手くいった」ということにする。
その夜は、神殿で宴席が設けられた。主だった武将たちも、顔を揃えている。列席者たちは、「好奇心が抑えきれない」といった様子でフウカの話を待っていた。その気持ちは痛いほどわかったが、どれだけ伝わるか心配だった。とても信じてもらえそうもない。ゼンならば面白おかしく話せるのかも知れないが、あいにく参加していなかった。
「姫様は少々お疲れのようですので、私が代わってご報告申し上げます」
歓迎側の感謝と祝辞が述べられた後、カイトが立ち上がって口を開いた。助かった。
報告の内容は、きわめて簡潔であった。今回の戦いの目的が火竜による「ヤマタノオロチの巣」への追突防止であり、何とか道をそらせることに成功したこと、御剣を抜き放ったフウカが陣頭指揮に立ち、その指示の下に大海竜王の娘である金竜と眷属の竜たちが果敢な働きを見せ、抑え込むことができたことの二点であった。心躍る冒険譚を期待していたらしい皆には物足らなかったであろうが、事実を具体的に語ったところで口をポカンと開けるだけであったろう。「犬頭で白いモフモフのドラゴンが現れて……」なんて想像もつかないはずだ。金竜の姿は実見しているので、竜の話は信じてもえたであろう。また、フウカの話も、まったくの嘘ではない。マオの姿をしていたが、肉体はフウカのものであったからである。
話の後は祝杯を挙げた。風華や千竃の武将たちは、幕府から命じられた任務の一つを果たすことができたのだ。これ以上の喜びはない。楽隊の伴奏で巫女たちが舞い、武将が剣舞を披露するなど宴は盛り上がった。
フウカとカイトは途中で、そっと抜け出し自室へ戻った。そこには、お茶とお菓子でくつろいでいるゼンが居た。
「よう、ご苦労さん。『英雄』は、大変だね」
さっそく茶化してくる。
「……誰が英雄なのよ。私は、いつも通り観ていただけ。他のみんなのおかげでなんとかなった。
それにしてもゼン、ありがとうね。あなたの手配りで、すべて上手くいった。感謝するよ」
素直に頭を下げる。
「いいって、いいって。これもボクたちの役目だからね」
世の中の安寧を保つのも、カミ様の役割であると言いたいのであろう。
「さて、明日はトカムへ帰ることにする。現代へ跳ばなくてはならないからね」
カイトが、言葉をはさんだ。
(ようやく現代へ戻って、ママに会えるんだ!)
そう思うと、フウカは嬉しくなった。




