「子守歌」の伝授と手筈の確認――臨戦態勢
その夜、また現れたゼンに風華の話を伝える。
「任せて――チャチャッと伝授するよ。
笛、小太鼓、琵琶の演奏者を揃えておくように言っておいてね」
すぐに請け負ってくれた。
(練習時間なんてないのに、どうするのだろうか?)
そう思ったが、カミ様なので方法はあるのだろう。
翌日の午前、神殿の祭壇前に風華と三人の楽師が、それぞれ楽器を前に置いて控えていた。緊張した面持ちだ。
乙姫姿のゼンが眼前に立つと、皆、頭を床に叩きつけんばかりに平伏する。
「頭を上げよ。身体を楽にしておけ」
そう言いおくと、楽師たちに演奏の態勢をとらせた。独り最前に座す風華には、瞑目するように指示風する。
ゼンは楽師の背後に立ち、一人ひとりの頭に手を置いて指パッチンをしていく。その度に楽師の身体が、ビクッとした。最後は、風華だ。やはり頭上に手を置いたが、わずかに時間が長い。
「唄い、奏じてみよ」
ゼンがおもむろに命じる。
楽師たちは最初、ボヤッとしていたが命じられたとたん、滑らかに演奏し始めた。前奏に続いて、風華がゆっくりとしたテンポで唄い出す。少女らしい声だ。歌詞は、和歌(長歌?)なのだろうか。京都の神社で奉納される平安時代の楽曲のように感じた。何度も繰り返されて続く。確かに眠くなった。ウトウトしているうちにゼンがパンと手を打つ。皆、ハッとした。意識が正常に戻ったらしい。
「これで良いだろう」
ゼンの言葉で、解散となった。伝授は、アッという間に終わった。風華は、まだ信じられないという顔をしている。そりゃ、そうだ。カミ様の力を知っているフウカでさえ、近い思いでいるくらいである。
午後からはカイト、ゼン、フウカで、手筈について打ち合わせる。
カイトが、口火を切った。
「火竜は、進路に当たる火山を噴火させる傾向がある。つまり顔を出す。インドネシアでの事例がそうだ。だから、こちらでも激突前に顔を出させ、地上で対峙する。直前に防衛ラインを引き、進行を遮り向きを変えさせる」
ゼンも、うなずく。
「顔を出させるって、どうするの?」
フウカが、疑問を口にする。
「トカラに在る火山の火口に、火竜の好物であるエサを放り込んでおいた。食いついてくるはずだ」
ゼンはこの地へ到着して、すぐに仕込んでおいたようだ。抜け目がない。
「マオには、敵の邪魔をすることに専念してもらう。俺たちは、防御に徹する」
「でも、マオは長く闘えないよ」
フウカの肉体が耐えられないので、せいぜい十分余りだ。ウルトラマンで言えば胸のタイマーがピコピコ点滅して、フウカが身体に引き戻されてしまう。
「わかっている。だから、短期戦となる。『白い仔犬ちゃん』に頑張ってもらうさ」
カイトたちは、「ファル」の能力を知っているのだろうか。
「まぁ、火竜様にお願いして、ちょっと進路をズラしてもらうだけだからね」
ゼンは相変わらず能天気なセリフを吐き、胸の前で片手を小さくパタパタと左右に振る。
「まったく、もう……」
フウカは言葉を継ぐのを諦めた。




