迫りくる炎の竜神――戦いの準備
視察を終えて、千竃氏の軍営に戻る。ゼンは、また姿を消した。神殿で風華と会い、視察の感想を述べた。
神剣を祭壇に祀り、二人の剣姫が揃って、祈りを捧げる。剣が青白く発光した。独りのときよりも、輝きが増している。剣姫とは言え、実際に接したことがない風華は、感動に打ち震えていた。
フウカは、祈りの途中で瞑想状態に入った。映像が脳裏に浮かぶ。火竜が、地中を流れる高熱流の川を泳ぎ渡ってくる。大きく吠えて、進路を上に変えた。頭上に開いている穴の一つに潜り込もうとしている。直感的に「火口に通じる道だ」と感じた。ならば、もう近くまで来ているのだろうか。
(あっ、もう来ちゃったのかな)
まだ準備も整っておらず、心構えも十分にできていない。焦った。
「バタン!」
何かが倒れた音がした。それで、瞑想が解けた。横を見ると、風華が倒れている。背後に控えていた巫女たちが、驚いて駆け寄ってきた。助け起こす。額に汗をかいていた。息も荒い。おそらくフウカと同じビジョンを見たのであろう。
「だいじょうぶ。水を飲ませなさい」
フウカは皆を落ち着かせ、処置を指示する。寝室で休ませることにした。
(パニックに陥らない私って、異常事態に慣れてしまったのね)
良いか悪いかわからないが、落ち着いていた。
「御剣様のお告げ」であろうから、カイトに報告して対策を練らなくてはならない。自分では、どうしていいかはわからない。カイトとゼンに丸投げだ。
食事には、風華も回復したようで、青い顔ながら席に着いた。食後にカイトを含め話し合うことにする。たぶんゼンも参入してくるはずだ。
別室で、茶を飲みながらゼンを待つ。
「お待たせぇ――」
呑気な挨拶とともにポワッと出現した。案内を乞うて外から入ってきたら、金竜の姿を知る巫女たちは、緊張のあまり気絶してしまうであろう。慣れない風華も、突然姿を現したゼンに腰を抜かしそうになった。
「さて、どうしましょう?」
カイトとゼンに「御剣様のお告げ」を報告し、フウカは待ちの態勢に入る。
「ゼン、どうしたらいい?」
カイトも投げた。竜神様たちの話だ。人間では、わからない。
「そうだなぁ――。まず前提として御剣様は『竜蛇の剣』、つまり竜族の性を持つ。だから、火竜を殺すことはできない。ちょっと止めたり払ったりすることができる程度だ。
それも単独では厳しい。火竜は、世界中を泳ぎ回るほどの力がある。その動きを変えるのは、容易じゃないはずだよ。それでもボクたちが力を合わせれは、何とかなるんじゃないかな」
ゼンは容易でないと言いながらも、けっこう楽観的だ。
「ボクとカイト、フウカと白いワンちゃんのペアで押しとどめ、進路を変えさせる。その間、風華ちゃんはヤマタノオロチ様が騒ぎで目覚めないように、心を込めて子守歌を歌っていてもらうかな」
簡単に言ってのけたが、大変な闘いになるのは間違いないだろう。
「白いワンちゃんって、あのお守り? ハンググライダーを動かすことくらいしかできないよ」
「そんなことない。マオを助けてきた使役精霊なんだ。色々できるはずさ。
その場になったらわかるよ」
それ以上は、説明しなかった。ニヤッと笑っただけだった。
今回の打ち合わせは、これで終わった。次は、詳しい日時について御剣様のお告げを待ってからとした。
(ホントに、お告げがあるのかな……)
フウカは、心配になった。でも、信じるしかない。
お告げは、翌日にあった。朝の祈りの際に日時が頭に浮かんだ。三日後の午前らしい。丁寧で親切な御剣様である。
(余裕がないね。急がなくては――)
そうは思ったが、フウカには、これといってやることはない。身支度くらいだ。ハンググライダーで出撃する様に言われていた。
(どうやって戦うの?)
疑問に思ったが、考えるのをやめた。「仔犬ちゃん」に任せることにする。どうせマオが現れるのだから、問題はない。主従が、何とかするのだろう。
お告げを受けた風華は、落ち着かない様子だった。
「フウカ様、『子守歌』って、何でしょうか? わたくし存じませんもの」
もっともである。しかし、フウカも知らない。後でゼンが教えてくれるはずだ。




