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「災厄の巣」を空から視察

 翌朝、千竈氏の館から武士たちが訪れた。一族の当主は幕府tkうにoに参じているので、最前線の現地には来ていない。

「千竃助清と申します。当地の侍大将を務めておりまする」

 烏帽子、鎧姿の武将が片膝を着き、言上(ごんじょう)した。苗字からして、千竃氏の一族であろう。

「剣姫様に招かれたフウカでございます」

「ははあッーー!」

 再び深く一礼する。名乗りを聞いて、素性がわかったようだ。事前に説明は、受けているらしい。一同は挨拶を済ませと、引き揚げていった。とくに話し合う事項もなかった。

 

 今日の予定は、現地視察だ。「災厄の巣」を上空から眺めるつもりである。

 さっそく岬へ出て梱包を解き、ハンググライダーを組み立てる。巫女たちが、興味深そうに眺めていた。

「これは、何でしょう? 神器でしょうか」

 風華が、尋ねてきた。

「まぁ、そうですね。空を翔けるための道具です」

「ええっ――!」

 驚嘆の声を挙げた。巫女たちもザワめく。

 騒ぎを無視して、作業を進めた。組み立て終わったら、仔犬の飾りを結びつける。白い機体全体にパワーが満ちた。「ファル」が目覚めたのだ。

 後は飛び立つだけだが、カイトの姿が見えない。「一緒に行く」と言っていたのだが……。地理に不案内なので、居ないと困る。

(腕鳴らしに飛んでみよう)

 しばらく飛んでいないので、慣らし運転は必要だ。近くを回ってみることにする。

 グライダーの前にかがむ。すると、スウゥーと機体が浮いてフウカの背の上に(おお)いかぶさった。

 周囲から「おおッーー!」とか「まぁ――!」とかいった驚嘆の声が、聞こえてきた。

 ベルトを装着し、操縦管を握り締める。海に向かって数歩駆けると、身体が持ち上がった。上昇し、水平飛行に移った。海上に出ている。くるっと回った。口をポカンと開けて見上げている人たちの姿が見えた。

 海側に機体を向け、操縦管を引き、さらに上昇する。視野が、広がった。吹き付ける空気も(さわ)やかだ。

(やっぱり気持ちいいな)

 心が躍る。

 目の前で揺れる「仔犬の御守り」は、マオが母から受け継いだ使役精霊だ。だからフウカ(マオ)のために働く。機体と精霊は、同体と言って良いくらいだ。操作に手間がかからない。意識を向けるだけで、自由自在に動く。フウカは機体の愛称である「ファル」と、仔犬のマスコットも呼んでいた。

 周辺の海域上空で慣らし運転をしていると、金竜にまたがったカイトが、現れた。

「遅いよ!」

 フウカが文句を言う。

「すまんな」

 一言、謝る。

金竜は、顔を上げ、目を細めニィーと歯をのぞかせて前脚の片方を振る。

「今日は、カイトとデート!」

 ゼンの弾んだ声が、頭の中に響いてきた。

「そんなこと言うと、ミカに怒られるよ」

 フウカの推測では、琉球国の神聖女王「美華」とカイトは、時代を超えた恋仲のようだ。ゼンとミカも、知り合いであるという。

「いいの、いいの。アレは神聖女王様で、恋なんかできない立場なんだから」

「だったら、ゼンだって神聖な善女竜王様じゃないの」

 フウカは、応酬する。

「ボクは、女子高生のゼンちゃんでもあるから、OKなんだわ」

 本気で言っているわけでないはわかっているので、ゼンとの軽口合戦は楽しい。しかし、竜とハンググライダーの人が、空中で止まって話をするなんてありえない。シュール過ぎろ。

 二人の会話は、カイトには聞こえていないのだろう。腕を組み、仏頂面(ぶっちょうづら)で、眺めていた。

「そろそろいいかい? 行くよ」

 カイトに促され、戦場予定地へ向かう。

 そこは薩摩半島から五十キロほど先に在る活火山、薩摩硫黄島と竹島の上空だった。海底火山「鬼界カルデラ」の外延、突端部に当たる。このカルデラは、直系二十メートルで世界最大級だ。現代から約七千三百年前に大噴火を起し、日本本土の西半分に甚大な被害をもたらした。


 カイトの事前説明によると今も下に「巨大な溶岩ドーム」があるとのこと。さらにその下には、地球内部から湧き上がってくる熱源があり、指状になって地表近くまで伸びており、その指先がドームを下から突いているという。よって、溶岩ドームは現在も膨張しており、火山性ガスが溜まり続けているとのことだ。鬼界カルデラは約九千年間隔で噴火しているので、そろそろ「ヤバイ」状態に近づいていると学界では推測されている。

 そんな危うい状態のところへ地表近くを南から流れてくる「熱の流れ」が直撃したら、一挙に噴火が早まってしまう。地球の四十六億年もの長い歴史の中で千数百年の違いなど誤差の内だ。

 こうした状況を現実社会と裏表の関係になっている霊界では、「眠れるヤマタノオロチの巣=鬼界カルデラ」と「南からの熱の流れ=頬の竜神様(火竜)」という図式で現れている。噴煙と地震は、ヤマタノオロチの吐息と(いびき)であると解釈されていた。

 当代の剣姫(千竃の姫)は、例えるならばヤマタノオロチが目覚めないようにするために遣わされたと言えるだろう。その上で向かってくる火竜を食い止めるなど、手に余る。


 一行は、上空高くから辺りを眺めた。薩摩半島と奄美大島の間にあるトカラ列島には、いくつもの火山島がある。これらは、「南海トラフ」南端に近く、もし連動したならば多大な影響を与えるであろう。その点でも恐ろしい。

 フウカは、自分の見た夢を思い起し、改めてゾッとした。

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