火竜の徒突進を防げ――本土へ渡る
午後の訓練もハードであった。出発までに時間がないので、仕方がない。今日も、夕食を終えたら寝床行きでぁる。食事のとき、カイトから「六日後に出立する」と告げられていた。
(ますます訓練が厳しくなるだろうな……)
タメ息をつきながらゴロゴロしているうちに寝入ってしまった。
出立の日となった。フウカのいでたちは、元軍を迎え撃ったときと同じである。異なるのは、本物の神剣を背負っていることだ。パワーが身体に伝わってくる。マオも喜んでいるだろう。
王族、神殿関係者、兵士などが、岬の草地の上に勢ぞろいしていた。見送りのためである。むろんフウランの姿もある。その視線は、「勇者様」へ向けられていた。両手の平を胸の前で握り締め、心配そうな顔つきだ。
ゼンは、フウカとカイトの横に並び立っていた。足元にフウカのハンググライダーセットが梱包されて置いてある。
「では、行ってまいる」
王からの激励の挨拶の後、カイトが短く声を挙げた。
(行くって、どうやって――?)
フウカは、何も聞かされていなかった。いつものことだ。諦めて成行に任せることにした。
「ゼン様、お願い申し上げる」
隣のゼンに声を掛けた。
「承知した。少し離れていよ」
頷くと、腰を落とし片膝を着く。
「ワッ!」
皆が、叫んで跳びすさる。突然、眩しい光に周囲が包まれたからだ。目を開けていられない。
「おおおッーー!」
叫びは、驚きの声に変った。輝きが収まった後には、金色に輝く竜が、鎮座していた。
ハッとした神殿の巫女たちが倒れるように跪き、地に額を擦り付ける。それを見た他の者たちも、同じような姿勢をとった。訳はわからなかったが竜の神威だけは、感じ取れたからだ。
「善女竜王さまァーー!」
最前列に控えていた巫女頭が、声を振り絞る。
ゼンが漁王としての姿を見せたのは、初めてだった。
「ほええッ――!」
むろんフウカも同様だった。プリティ女子高生か乙姫の姿しか見ていない。そう言えば、神殿の壁画に「金竜にまたがった勇者の像」が、描かれていたことを思い出した。勇者は、カイトであるとの説明を受けた。
「さぁ、乗るんだ」
カイトはヒラリと跳び乗り竜の首と前脚の間に綱を掛けた。そして、手を差し伸べてフウカに促した。言われるまま手を出し、引っ張り上げられる。前に座らされ、竜の背中に手を着く。磁石のように身体が吸い付けられたので、安定感はある。
「飛び立つぞ」
心の中にゼンの声が響く。荷物は、前脚でつかんでいるようだ。
フウカは目をつぶって、顔を伏せた。飛び立つ振動が伝わってくる。
群衆の上で、ゆっくりと一回りした。そっと目を開き見下ろした。すでに人々の姿は、豆粒のようにした見えない。
「どこへ行くんですか?」
「まずは、当代の剣姫の下へ行く。挨拶が必要だからな」
カイトはの声は、優しかった。素の大学生の時の感じだ。
飛行の途中で、少し空間がぶれてゆがんだ。空間と時間を調整したらしい。 五分ほどで眼下に岬が見えた。
「薩摩半島の岬だよ。当代の剣姫たちが出迎えている」
背後からカイトが教えてくれた。確かに巫女らしき女性たちが、草地で手を着き地に額を着けていた。
高度を下げ、降り立った。巫女たち反応は、出立の時と同じだ。驚きで声も出ないようだ。
ゼンも乙姫の姿に戻り、横に並ぶ。
「――先々(さきざき)の世の剣姫様であらせられましょうか?」
当代の剣姫「風華」が面を上げ、震える声で尋ねてきた。フウカが、人間の姿で現れたのは初めてである。
「フウカと申します。約束通り馳せ参じました。ご先祖様にお目に掛かれて光栄です」
スラスラと挨拶のセリフが、口から出てきた。
「こちらにおわすは、善女竜王様でいらっしゃいます」
そう紹介すると、巫女たちは再び叩頭する。カミ様を実際に目にすることなど前代未聞の出来事なので、恐れ入るばかりである。
「それがしは、姫様の身辺警護を仕る者でござりまする。お見知りおきのほどを――」
カイトが、自己紹介した。トカムでの「勇者様」とは、大違いだ。語調、ものごしが柔らかい。相手は剣姫で、千竈氏の姫でもあったからだろうか。
「苦しゅうない。面を上げよ」
ゼンの言葉を受けて巫女たちは、身体を起し姿勢を正す。
「さっそくですが、お話を承りましょう」
フウカは、言った。時間が惜しい。
風華の話は、夢の中で聞いた通りであった。カイトの解説もあったので、だいたいの状況は、つかめていた。心の中で再確認する。
その後、フウカとカイトは神殿へ案内された。千竈氏の館とは、別に設けられていた。ゼンは、「ちょっと用事がある」と言って姿を消した。
神殿では、盛大な歓待を受けた。いろいろ尋ねられたが、明かすことができないことも多かったので笑顔とあいまいな言葉で、やり過ごした。
また、本土各地で起こった災害の数々と状態を聴いた。大変な災害であったことがわかった。そんな中で幕府から対策を命じられた千竈氏と剣姫の苦悩が、ひしひしと伝わってきた。
(こんなこと、歴史の授業で習わなかった……)
フウカは、自分たちに対する期待が大きいことを感じ取った。




