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まさか「勇者様」への恋心?――フウランかわいい

 長い昼寝をした後、夕食の席に着く。大海竜王の一族が、顔を揃えていた。

「平家蟹どもの巣は、どうであったか?」

 興味津々といった様子で、王が尋ねた。

 同席していたカイトが、事のなりゆきを報告した。

「……そうであったか。同情すべき点がある。少し考えを改めなければならぬな」

 同情が籠った声で、感想を述べる。列席者たちも神妙な面持ちで、うなじく。ゼンだけは、そしらぬ顔で両手を動かし、食事を平らげていた。すでに報告を受けているので無理もない。

 翌朝、また亀に乗ってトカムへ帰った。フウランたちが出迎えられ館に着くなり女性たちに囲まれた。遠慮がちではあったが質面攻めにあった。物語で有名な竜宮城や乙姫によほど関心があるらしい。

(まあ、御伽噺(おとぎばなし)のようなものだから仕方が剣ないか……)

 フウカは身を浄めたり衣装を改めさせられたりしながら、できるだけ要望に応えていった。その後も、荷物の片付けやトカム王ならびに神殿への報告などで、あわただしく時が過ぎていった。対応に疲れはて、早めに床へ就く。


 翌朝は、早く目が覚めた。窓を開ける。やはり陸上の風は、気持ちがいい。

 今日から鍛錬が開始されるので、稽古着に着替える。浅黄色の作務衣に似た稽古着だ。ちょっと肌寒いが身体を動かせば、ちょうどよくなるだろう。

 神剣と形・重さが同じくらいの練習用剣を渡されていた。それを背中に背負い。紐で結ぶ。身体に慣れさせるためで訓練中は、外してはならないと言われていた。

 庭に出た。ラジオ体操と屈伸運動をおこなって身体をほぐしてから、海岸沿いの道を三十分ほど走る。ジョギング程度だ。

 館に戻って、自室に運ばれた朝食を摂る。果物と野菜が新鮮でおいしい。「コーヒーが飲みたいな」とは思う。

 ひと息ついた後、再び外へ出て訓練場へ向かう。すでに剣の指南役が待っていた。フウカは、「師匠」と呼んでいる。

 素振りを2百回おこなたら、型稽古に入る。師匠の弁によれば、立ち方と歩き方が基本だとのこと。体幹を保ち、足を正しく踏み締めなければならないとのことだ。これができないと、受けや攻めに力が籠らないと言う。

 両刃の剣は、「突き」が肝要となる。左手で剣を握り、前へ一直線かつ水平に伸ばす。右手は、後方斜めに伸ばし、バランスを取る。腰を落として足を大きく前後に開き、地面をしっかりと踏み締めた。

 その構えを十分も保っていると、腕がブルブル震えてくる。

(――ああ、もうダメ。私、やっぱり剣術なんて向かない)

 止めたくなる。

「がんばれ、がんばれ! 『戦闘女子は、モテる』とゼン様が言っていたぞ」

 身体の内部からマオの声援が、聞こえてくる。

(ゼンのやつめ! なんてことを吹き込んでいるんだ)

 おちゃらけ女子高生の面目躍如(めんもくやくじょ)である。ペロッと小さく舌を出しているゼンの顔が脳裏に思い浮かんだ。

 多様な型と模擬訓練に打ち込んているうちに昼休憩となった。もうクタクタだ。終了の合図とともに座り込んでしまった。

「おつかれさま」

 声がかかる。フウランが、いつの間にか見学にきていた。

「来ていたの? みっともないところを見せちゃったね」

 渡された手布で顔をぬぐいながら応える。

「いえいえ、見事でした。素晴らしい上達ぶりですね。驚きました」

 確かにトカムに到着したばかりの頃よりは、慣れてきているだろう。しかし、自力で相手に立ち向かうなんて、とうていできない。少しでもマオの足を引っ張らないようにしたいだけだ。

「お弁当を用意してまいりましたので、一緒に摂りましょう」

 箱形の包みを侍女から受け取ると、目の間で開いた。二段の重箱に盛られた「松花堂弁当」風の豪華な料理である。おいしそうだ。

 見とれているうちに侍女が、茶を入れてくれる。(のど)が乾いていたので、一気に飲み干す。ひと息つけた。

 後はたわいない話をしながら、料理を口に運ぶ。

 食べ終わるとフウランがもじもじしながら顔を近づけ、ささやくように

言った。ためたいがちの仕草(しぐさ)だ。

「……あのう、勇者様のこと、どう思われますか?」

「――?」

 カイトのことだろう。「どう?」と問われても、困った。現代での姿を知っているフウカにとって、普通の大学生の「お兄さん」である。この時代に跳んでからは「勇者様」を演じている。少々「嘘くさい」。必要なキャラ設定とはわかっているが、時折り「鼻につく」。素の姿の方が、好ましい。

「――『どう?』って言われてもね……」

 質問の意図を測りかねた。

(ひょっとしてカイトに惹かれているのか? ――有り得る)

 フウランの顔を改めて見ると、(うつむ)いた頬がほんのり朱色に染まっていた。

(なろほど、なるほどー―)

 納得した。「伝説の勇者様」としての姿、言動だけを目にしていれば、年頃の少女が憧’れを抱くのも無理はない。からかいたくなったがゼンではないので、それは抑える。

「私にとっては、『頼れる仲間』というだけなんだけどね。

 気になるんだったら、想いを伝えてみたら?」

「えっ? そんな、そんな――!」

 顔をプルプルと左右に振った。かわいい。

「こ、これで失礼いたします」

 慌てて侍女に弁当箱を片付けさせると立ち上がり、両手の平を重ねてペコっと一礼し、立ち去っていった。

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