フウカ(マオ)、剣の舞を演じる
フウカは「やりすぎだ!」と思いつつも、険悪な場の空気が収まったことに安堵した。
(……これから、どうするの?)
発光する剣を捧げ持ちながら、とまどっていた。
カイトが近寄ってきて、耳元でささやいた。
「ひとさし舞ってもらおう。マオに任せれば良い」
背中を軽くポンと叩く。
(そんな――!)
剣の舞なんて、習ったことがない。しかし、マオを信じてやるしかなかった。
息を整え、立ち上がる。剣を眼前に立て、瞑目 し、心の中で念じる。
「マオ助けて……頼むよ」
剣の柄をギュッと握り締めた。
「承知した。任せてもらおう」
マオが、応える。
「こちらの願いをお聞き届けいただいた御礼に、姫が『つるぎの舞』を陛下に捧げたいとのことです。この舞は代々受け継がれてきたもので、神々や皇帝または王に対してのみ捧げられてきました」
カイトが、得意顔で紹介した。
「おおッーー!」
歓声が挙がる。
フウカの意識が身体抜け、背後の中空に浮かんだ。
眼下にあるマオの身体から「気」が発し、全身を包んだ。
衆人が息を飲み、括目する。
左手で握られた剣が、高く差し上げられる。右手は、床に向かって斜めに伸ばされていた。きりっとした眼光が印象的だ。
時が止ったような静止の後、ゆらッと身体が動く
サッと剣が、斜めに振り下ろされる。視線は、剣の突端に向けられていた。
留まる間もなく身体は回転し、振られる剣の青い光が縦横または円形に線を描く。
「――!」
舞は見えないはずの芳一であったが、手が、琵琶に伸びる。抱え、かき鳴らす。その音色は、舞の動きと同調していた。
「おおッ! まァーー」
一同の驚きの声が上がり、さらに身を乗り出す。
姫衣装をまとっているので、激しい動きはない。しかし、優雅さの中にも緩急がはっきりしており、凛とした気品を感じさせた。
皆、見事な舞に酔いしれていた。
舞が止り、再び座し、両手で剣を捧げ持つ姿勢に気づき、正気に返った。
次の瞬間、広間は激しい拍手で満たされた。いつまでも鳴りやまない。
フウカは舞が終了したとたん、身体に戻っていた。
剣を侍従に返す。
「マオ、ありがとう! 素敵だったよ」
「どういたしまして――」
そんなやりとりを内部で交わす。
カイトの方を見ると、笑顔で親指を立てていた。
すぐに正面に向き直って問う。
「――いかがでしたでしょうか?」
「うむッ、見事であった。確かに剣姫様でござりましょう」
時子が、賞賛の言葉を返す。言葉遣いも、改まっていた。
陛下もニコニコして、小さな手をパチパチさせていた。
「そちの言う通りであったな。大言壮語かと思ったが、偽りはなかった」
知盛も、感服した表情で、言葉を添える。
「それでは、神剣をお借りすることは、できますか?
剣姫が迎えくる国難、災いを防ぐために、どうしても必要ですから――」
「承知した。どのような災いかは知らぬが、剣姫を信用しよう。
我らも陛下を奉する身。国が亡ぶというならば、見過ごすわけにはいかぬ」
時子は知盛に視線を送る。知盛も、うなずいた。
神剣が侍従から時子に渡された。それを陛下に持たせ、手を添える。
「御前に参れ。陛下の手より授ける」
フウカは壇上へ招かれ、うやうやしく拝受した。
帰路は、また亀に騎乗する。
「うまくいったな。やれやれだ。帰るよ」
カイトが軽く声を掛けてきた。そして、手を挙げると亀たちは隊列を組んで、手足を動かし始めた。




