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芳一の「平曲」に涙を流す

「我らは、『わたつみの宮』から、参った」

 カイトが、静かに訪問の意図を告げる。

「何ッ!」

 一斉に殺気が発せられた。武士たちが刀を構え、迫ってこようとする。護衛兵たちも応戦体勢をとった。

「待ってくれ。我らは、争うつもりはない。

 神剣が、そなたたちの所有物であることは、理解している。頼み言があって、まかりこした。陛下ならびに重鎮の方々にお目通り願いたい」

 カイトの態度は、沈着冷静に用件を述べる。

「ならぬ! 立ち去れ」

 取り付く島もない態度だ。

 だか、カイトはひるまない。

「ここにおわすは、天皇家と縁深き『つるぎ姫』でござる。熱田神宮で『つろぎの守り人』を務めていらっしゃる」 

 武士たちに動揺が走った。

(ええッ! 聞いてないよ。私、まだ引き継いでいないしィ――)

 フウカは、「剣の護り人、つるぎ姫」の後継者であるらしことは母たちから聞かされていたが、正式に引継ぎを受けたわけではない。それに、この時代の剣姫は、別に存在する。

「……信じられぬ。

 だが、芳一法師が同行なさっていることは、僥倖(ぎょうこう。)だ。依頼した六日間のうち、最後の一日を残して姿を消された。陛下を初めてして皆の者が残件がっておった。ぜひともお聞かせ願いたい」

 芳一の姿を見出した武士は態度をやわらげ、配下に刀を収めることを指示し、先頭に立って歩き出した。依然として警戒は解かれておらず、周囲を取り囲まれたままだ。

 岩石の積み重なりは、立派な宮殿に変じていた。奥深くまで案内される。

 着いたところは、大広間であった。正面の一段高くなった場所には、豪華な衣装をまとった白髪の老女が座し、その膝の上、腕の中には、幼い男の子が抱かれていた。

 フウカにも男の子が誰か、すぐにわかった。安徳天皇であろう。老女は「二位の尼」こと平時子であると推測される。広間の左右には、格式ばった装束の武士や高位らしき身なりをした女性たちが居並んでいた。

 その中を興味深いそうな視線を浴びながら、カイト、フウカ、芳一と介添えの若者の順で、しずしずと進んだ。クンダルは、フウカの(ふところ)に納まっている。玉座の前まで至ると着座し、両手をついて頭を下げる。

「法師殿、よくぞ参った。最後の段を聴き逃したので、心残りであった。嬉しく思うぞ」

 平徳子が、カイトとフウカにチラッと視線を送った後、微笑みをたたえながら、芳一に語り掛けた。

「では、さっそく語り聞かせてもらおう」

 左最前列に座した武士が、言葉を発した。座位から考えると、武士としての最高位にあろようだ。平氏方の最高指揮官であった平知盛であろう。

 カイトとフウカは、完全に無視されていた。それでもカイトは介添え役に向かってうなずき、芳一に演奏させるように促した。

「それでは、奏じさせていただきまする」

 芳一は言葉少なに応えると、琵琶を抱えて語り始める。演目は「壇ノ浦合戦」の段であった。

 琵琶の()と芳一の凛とした語りが、大代間に響き渡る。場は、シーンと静まり返っていた。最後の場面になると、あちらこちらからすすり泣きの声がもれ、女性たちは手巾をそっと目に当てていた。

 最後の「ビーン」という琵琶の音が鳴る。芳一がは琵琶を介添えに渡し、両手をついて頭をさげる。、 

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